79.迷宮6階II(2)
「次はこっちを入れてみてくれ」
風蜘蛛を4体倒し、特にそれ以上倒す練習をする必要も感じなかった隆一は草原っぽい周りにトレントがいない場所に来て一応安全の為に周りに結界を張ったうえで護衛二人に戦ってバックパックの使用テストをして貰っている。
本来ならばもう少し隆一の腕を上げるために討伐の練習をすべきという気もするのだが、足止め用魔道具を使えば練習が必要ないぐらい簡単で、魔道具を使わないと魔力切れを起こすまでやっても倒せないという魔道具を使うか否かの間に存在する大きすぎる断絶の為に諦めたのだ。
粘着粉がリサイクルできるので、ちょっとした試作品づくりを含めてもここ数日で集めた風蜘蛛の糸袋で十分である。
つまりこれ以上倒してもあまり意味がないのだ。
まあ、倒して魔石と糸袋をギルドで売り払うと昇進ポイントを稼げるので、時折風にのって飛んできて足止め用魔道具に引っかかる風蜘蛛はきっちり殺して採取している。
現在試しているのはバックパックの背中部分に入れる魔道具の形だ。
現物は無いものの、形は模倣できれば良いという事でアイアンゴーレムを使って背中一杯を覆うような板の形から、下の方だけを覆う板や上の方だけを覆う板などを試している。
今回準備したのは10センチ程度の幅の狭い、長目の板だ。
「なんか変わった形だな」
細長い板を背中部分に差し込んだバックパックを受け取りながらダルディールが言った。
「幅が狭い方が肩の稼働領域に干渉しないかなと思ってね。
まあ、それを言うなら下の方だけの板だったら更に良いかもと思っていたんだが、そっちはしゃがむ際に違和感があると言っていただろ?」
更にもう一つアイアンゴーレム(小)の足を取り出して今度は十字型の板へと加工しながら答える。
そんな隆一をよそに、デヴリンとダルディールが再び木剣で戦い始めた。
相変わらず、戦いのレベルが高度すぎて何をやっているのか分からない。
とは言え、やはり迷宮の中で隆一の護衛を完全に忘れる訳にいかない状況のせいか、先日の訓練所での戦いのように次から次へと木剣を折ったりはしていない。
隆一が十字型の試作品モドキを2つ造り終えたタイミングで二人は剣を降ろして寄ってきた。
「どうだ?」
「確かに肩の稼働領域は増えたな。
やはりしゃがむような体を曲げる動きには干渉するが、考えてみたらどうせ中身がぎっしり詰まったバックパックを背負っていたら思うように体を曲げられないのは当然なんだから、あまり拘ってもしょうがないんじゃないか?」
デヴリンがバックパックを降ろしながら答える。
「いつもバックパックがぎっしり詰まっている状態で戦う訳じゃあないだろ?
どんな形でも作る手間は大して変わらないんだから、一番邪魔にならない形にするのを諦める必要は無い」
長細い板を取り出し、十字型のを代わりに突っ込みながら隆一が言い返した。
「まあ、これとあともう一つ試したら終わりだ。
ちなみに、値段が3倍ぐらいに高くなる代わりに板ではなく動きに干渉しにくい硬い目の生地っぽい物にしたら、どちらを買う?」
地面からの距離による術式の効力変化のせいで、バックパックの底に魔道具を設置するのを諦めた。
お陰でバネを使って荷物の重さに対応して出力をコントロールする仕組みは不可能になったので、考えてみたら魔道具そのものを硬い板で覆った箱にする必要は無くなったのだ。
手動で出力を設定するのだから魔道具の部分を固い板で覆う必要は無く、ジュラルミン合金を繊維状に加工し上で布のような素材にして魔道具を作ることも可能だ。
ただし加工にかなり手間がかかるので値段ががっつり上がるだろうが。
値付けにかかわっていない隆一としては値段が3倍になるかどうかは分からないが、少なくとも魔道具の作成にかかる時間はそのくらいは増えるはずだとみている。
「元々、バックパックはがっつり中身を詰めて持ち運ぶための物だぜ?
背負っていて戦うのに全く支障がないなんて不可能なんだから、値段を3倍まで引き上げて背負った時に動きやすくする意味は無いな」
デヴリンがあっさりと答えた。
「それだけの高価な魔道具を買う金があったら、腕の良い運搬係を雇った方が効率的だ」
ダルディールが更に付け加える。
どうやら魔道具の値段が3倍というのはバックパックを購入する経済性を奪うぐらいの金額らしい。
「了解。
じゃあ今度はこっちでよろしく」
十字型の板を入れたバックパックを二人の方に押し出し、隆一はのんびりとお茶を淹れ始めた。
取り敢えず、使い勝手に関しては極端にレベルが高い物を求めていないようだから、これ以上試作品を作らなくても良いだろう。
どうもあまり拘りが無いのはこの世界の特徴なのだろうか?
隆一にとっては微妙に物足りない気がするが、拘り過ぎても経済性が無いのだったら自己満足の世界だと思って割り切るべきなのだろう。




