77.バックパック再び(3)
「コンピューターが欲しい・・・」
重量軽減の魔道具の効率が変化する条件を確認しようと試行錯誤しまくった隆一は、結果を書いた紙を前にうなっていた。
当然の事ながら試行錯誤の前に術式を端から端まで見直したが、効果の変化する距離なんていうパラメーターは無かった。
つまり、術式の中でコントロールされている現象ではないっぽい。
隆一が変化の条件を確認しようと色々試行錯誤してみたところ・・・。
・魔道具の出力を増やすと術式効果が落ちる地表(表面)からの距離が増えた。
・負荷を多少増やしたり減らしたりしても距離に変化は無し。
・負荷をがっつり減らした上で出力を増やし、魔道具が自力で宙に浮く(=重力がゼロな状態)にしたところ距離が増えた。
・魔石に関しては飛行タイプの魔物からの魔石だろうが、狼や猪タイプからの魔石だろうが、隆一が魔力を再充填した魔石だろうが、変わりは無し。
・大きな魔石から少量の魔力を取り出す形にしても、小さめの魔石の魔力を一気に使い切る形にしても、違いは無し。
・屋上でやっても地下室でやっても隆一のリビングと結果に変わりは無し。
結局、出力によってのみ影響を受ける様に見えるから関係を数式化するのもそれほど難しくないだろうと試行錯誤のやりこみ前に隆一は思っていたのだが、上手くいかない。
大学院時代に数学者の友人に手伝ってもらって現象の関係を数式化するプログラムを作ったことがあったのだが、当然の事ながらそれは遠い日本のコンピューターの中だ。
幾ら時間をかけて思い起こせばプログラムのラインを全部思い出せると言っても、それを動かすコンピューターそのものが無ければどうしようもない。
流石にコンピューターを構成する半導体やメモリーチップなどの詳細は知らないので錬金術でもコンピューターは造れない。
「エクセルがあるだけでも色々楽が出来そうなんだが・・・」
ため息をつきながらもう一度数字の羅列を眺める。
「リュウイチ殿の世界では便利な道具があったようですねぇ。
とは言え、魔道具を作るのにその関係式は必要なんですか?
魔道具に条件式を組み込むのは大変だから単純に外からコントロールする形にした方が楽だとか以前言っていませんでしたっけ?」
だらしない恰好で椅子の背に寄りかかって動かなくなった隆一にお茶を注ぎながらザファードが声をかけてきた。
お茶に手を伸ばしていた隆一の動きが止まった。
「う~ん、想定外に術式の効果が変わるのは危険だから条件が分かっている方が良いんだが・・・。
考えてみたら、確かにこれを数式化出来たところで魔道具に組み込むのはちょっと難しいかも知れないな。
だとしたら魔道具が扱える出力の範囲内での反応を実験で確認しておいて、それを元に対応を組み込んでおくべきか」
お茶を一口飲んで、小さく溜め息を漏らす。
「とは言え、自己満足の為にも知りたいところだがな」
隆一はIQ値としては『天才』のカテゴリーに入る人間ではあるが、数学の天才という訳ではない。
ランダムに見える数字を見ただけで関係を数式化できるような天才を何人か大学院で知っていたが、あれは頭の構造が根本的に違っていた。
ああ言う人間だったらコンピューターは必要ないのだが。
「ちなみに、この国に滅茶苦茶頭が良い数学者っている?
そう言う人間って頭が良すぎて日常会話が殆ど通じないレベルなことも多いと思うから、必ずしも周りの人間に評価されていない可能性もあるけど」
考えてみたらそう言う学者界の話はザファードに聞くよりも密偵ギフト持ちのイルベルトの方が知っているかもしれない。
図書館が好きなようだったからそういう学者肌な人間の話も色々と耳に挟んでいそうだし。
「神殿でも時折未来が読めるんではないかと思うほど頭が切れる人間が現れることがありますが、数学系の才能は神殿とはあまり相性が良くないんですよね」
ザファードが肩を竦めながら答えた。
「神殿は巨大な組織だから仕入れや在庫管理的なことには数字に強い人間が必要だとは思うが、天才には物足りないだろうな。
良いや、今度ちょっと以前図書館で知り合った人間にでも尋ねてみるよ」
効率軽減の距離の数式化はどっかに天才がいてそいつに任せられることを期待して、取り敢えずは実証的に割り出していこう。
この重力軽減の効率変化に関しては運搬具にどう影響するかはもう少し考えることにして、まずは明日の探索でのテスト用にバックパックの試作品を後2つ造っておかないと。
ちゃんと試作品を作ってちゃくちゃくとテストをしていかないと、それなりに無理をして生地を用意してくれたっぽいスフィーナに怒られそうだ。




