75.バックパック再び
「何をやっているんですか?」
机の上についた肘に顎を乗せたザファードが半目で聞いてきた。
「ちょっと重量軽減の魔道具に微妙な誤作動っぽい機動があるから、何が起きているか確認できないか試しているところなんだ」
2つの椅子に体重計の左右の両端を乗せてバランスを取り、その上に慎重にバックパックを乗せながら隆一が答える。
デヴリンが昨日指摘した通り、重量軽減つきのバックパックにはしゃがみ込んでから立ち上がる時にちょっと変な力のかかり方を感じられる。
加速による効果をなくすためにゆっくり動いても体感できるのだから実際にそれなりに重力軽減の効果がぶれているはずなのだが、地面からの距離の問題かと思って机の上に体重計を置いて測ってみても床に置いた時と違いが無かったので、宙に置く形に出来ないかと試してみたのだ。
が。
変化は無し。
相変わらず2キロ(と勝手に隆一が解釈している重さ)と表示された。
階段の上に持って行っても同じ。
考えてみたら重さをかける場所からの距離によって魔道具の効果が変わるのだったら、体重計に乗せること自体が『重さをかける場所』に乗せることになるから体重計の高さを調整してもしょうがないかも知れない。
どうやって体重計に乗せずに重量を確認するか。
「う〜む・・・」
バックパックを取り上げ、体重計を床に降ろしながらふと隆一の目が斜めに机に立てかけたバックパックに目が行った。
反重力の術式は反発力で重量を軽減すると思っていたのだが、考えてみたら単に反発力だったら魔道具が横に向いている時は力の向きが横向きになり、下にある地面から引かれる重力によって生じている『重さ』を軽減する効果は無くなるはずだ。
バックパック(そして底に入れてある魔道具)を斜めに持ったら少なくともある程度は重量軽減の効果が減って重く感じるはずだが、今さっき体重計から持ち上げて降ろす際に斜めになっても特に重さに違いは感じられなかった。
試しに体重計の上にバックパックを横向きに乗せてみたが、やはり重さは2キロのままと表示される。
つまり、反重力の術式は本当に重力をカットすることで重量を軽減させているのだ。
「一体どうやって引力を軽減しているんかね・・・」
反発力だったら単に一定の方向に力を生じさせるだけの話なのでそれほど難しくは無い。
だが、本当に反重力、つまり惑星からの万有引力を何らかの形で一部でも無効化させるなんて、一体この術式はどういう風に機能しているのだろう?
(ああ、反重力の術式に関する基礎理論の研究論文をレティアーナ女史の世界からゲットしたい・・・!!)
思わず心の底から召喚陣を自分の私用に使えたらいいのにと願ってしまった隆一だった。
人間を召喚する事に関しては迷惑この上ないと思っている隆一だが、色々な世界の教科書や論文を呼び出すのに使えるのだったら少しぐらいの弊害に目をつぶってもいいかも・・・と密かに思ってしまう。
まあ、それはともかく。
頭を軽く振って見果てぬ夢への思いを断ち切り、隆一はバックパックを背負っておもむろに椅子の上に乗ってスクワットをしてみた。
「・・・今度は何をやっているんですか・・・」
バランスを崩さないようにゆっくりと椅子の上で尻を突き出しながら屈み、立ち上がる隆一に溜め息をつきながらザファードが声をかける。
「下が宙だったら反応が変わるか確認したくてね」
今度は机の上に乗ってスクワットをしながら隆一が答えた。
反重力の術式が星に対する重力を打ち消しているのだとしたら、しゃがむか否か程度の高さの違いで体感できるほどに重さの変化が生じるはずはないと思われるのだが、なんと言ってもどういうロジックで機能しているのか分からない術式だ。
もしかしたら地面(や重さをかける表面)からの距離によって魔法の効率に違いが生じるのかもと思ってダメ元で試してみたのだが・・・どうも、椅子や机の上でしゃがんで立ち上がっても地面に立っていた時のような違いが生じない気がする。
バックパックを手に持ち、ゆっくりと机の上でそれを足元まで降ろしていっても特に重量に違いは感じない。
椅子の上に降りても。
が、床に降りた時に微妙にバックパックが軽くなった気がしたような印象だった。
「あ~~~、吊り下げ秤が欲しい!!!」
魔術の世界に来て、計測機械に悩むなんて納得いかん!!!と思わず心の中で叫んだ隆一だった。
「旧式の秤なら台所にありますよ?」
呆れた様なザファードの声が部屋に流れた。
バネを使って重さを測る体重計はこの世界では比較的新しい高級品でしたw
簡単な竿秤は昔からあって台所で今でも気軽に使われていたんですが、料理に興味のない隆一は一度も台所に行った事がなかったので目撃してなかったんですね〜。




