713.小型迷宮?(6)
「取り敢えず、迷宮のサイズによって探知できる距離がどう変わるかを確認したいから、まずは再度ファルワースに行って魔力センサーのスクリーンに写り込む情報の変化と距離との確認をしたい。
全速力で行ったらもしかしたら最初の休憩ぐらいに向こうに着くかもしれないと思うのだが、丁度良さげだったらファルワースの傍で降りて休憩にして、その間にちょっと魔道具を弄らせてくれ。
その後、更に2時間飛んで昼食を兼ねた休憩を取ってから多少ずれた位置を飛んで帰ってくるのが今日の予定だ」
全国の地図を写し込むとなると後ろの座席にでもがっつり展開させないと実用的なレベルの縮尺でスクリーンを見られないので、結局それなりに分割したバージョンになった。
分割バージョンの使い勝手はまだ確認していないのだが・・・まあ、考えてみたら丁度1日分のサイズになるので自分で確認して改造できるので良しとすべきだろう。
という事で地図付きスクリーンを完備した魔力センサーの試作品を準備した隆一は、今日のフライトプランをデヴリンとフリオス、そしてキュルトに告げた。
どうも色々と情報漏洩の危険性を考慮して、暫くはそれなりに上の地位の人間で固めることにしたらしい。
「分かりました。
ちなみに、此方の通信用魔道具がちゃんと機能しているか確認する為に30分ごとに定時通信を行い、繋がらなったら機体同士の距離を近づけ、それでも繋がらなかった場合は緊急着陸して通信用魔道具のチェックを行うという事でよろしいでしょうか?」
フリオスが言った。
なるほど。
連絡が取れなくなったのが緊急事態が起きてから分かったのでは遅いという事で、定時確認が必要なのか。
「構わない。
ちなみに拠点との連絡はどうするんだ?」
携帯型通信用魔道具の有効距離はそこまで長く無い筈だが・・・どうなのだろう?
「一応テストも兼ねて出力を上げた試作機を持って来ていますが、そちらはどの程度の距離で使えなくなるかの確認用と考えていただいて結構です。
携帯型通信用魔道具が繋がらないから帰還などと言っていたら王都周辺から離れられませんからね」
にこやかにフリオスが答える。
何とはなしにイラっとした空気をにじませているのは、誰かが王都と連絡が取れなくなる距離になったら隆一を帰らせろと主張してそれを『説得』するのに手間が掛かったからなのだろうか?
出かけたがる隆一自体に苛ついている訳では無いと思いたい。
ちなみに、現時点で最速で動ける飛行具の試作機2つを使って離れた場合に何かあっても、たとえ連絡が取れようが救助が間に合う可能性はかなり低い。
飛行船は稼働準備に時間が掛かる。
飛竜乗りが手すきな状態で王都でぼんやりしているのだったらそちらに頼むことは可能だが・・・飛竜は純粋な攻撃力で言ったらデヴリンにもフリオスにも負けるらしいから、実効性に関しては微妙なところだろう。
「じゃあ、行こう」
離陸し、王都を離れる。
基本的に地図に載っている迷宮のある都市名はそのままスクリーンに表示され続けるが、魔力をセンサーが感知している間は都市名の下で光点が点滅するようにしてある。
上空に上がって王都の城壁を離れてファルワースの方向へ動き始めたら、王都迷宮を示す光点がゆっくり点滅し始めた。
「どんな感じだ?」
飛行具を動かして最高速度まで推進器の出力を上げながらデヴリンが尋ねる。
「想定通りに作動しているな。
ついでに一度、通信用魔道具も確認しておこうか。
ここで故障しているなら代替機を持ってこさせる方が早いかも知れない」
フリオスもキュルトも信頼しているが、誰か下の人間が通信用魔道具をサボタージュして、王都から30分飛んだ距離での臨時着陸を強いようとする可能性もゼロではない。
まあ、現時点では最高速度で30分飛んだ時にどこに辿り着いているか不明なので襲撃には向いていないから多分大丈夫だろうが。
「テステス。
通信は繋がってるか?」
一応どちらの席からでも通信機に手が届くようになっているのだが、今回はデヴリンが試した。
『・・・ああ、大丈夫だ。
何かあったのか?』
キュルトの声が流れてくる。
「いや、取り敢えず最初から故障していないことだけを確認しておこうと思ってな。
じゃあ、30分後に!」
そう言ってあっさりデヴリンがぶちっと通信機を切った。
さて。
これで想定通りなテストが出来ると良いのだが。
国にとって最大な戦争抑止力がフラフラ動き回るのは軍部にとっては有り難く無いですよねw




