68.バックパック(4)
「どうでしたか?」
部屋に戻ってきた隆一にザファードが声をかけた。
VIPな客人用である隆一の部屋は外に小さな庭の区画も付随しているのだが、プライバシーを保つために他の部分から分けられている為に走り回ったりするのには向いていない。
なので隆一は負荷軽減魔道具をつけたバックパックを担いで上手く動き回る練習をするために態々食堂の横の裏出口まで回って神殿の庭(や衛兵たちの訓練スペース)まで行って来たのだが・・・帰ってきた隆一の表情は微妙だった。
「身体を使うのは元々あまり慣れてないんだよ。
考えてみたら、超一流の護衛が2人もつくんだから俺が走って逃げなきゃいけない状況なんてほぼ無いだろうし、あの二人でどうにもならない状況だったら走ったところで俺一人で助かる訳がないし」
隆一の言い訳がましい言葉にザファードが左眉を上げてみせた。
「数日でも練習すればある程度は上達するのでは?」
「軽いジョギング程度に走る分には、体があまり上下に動かない様にするのは難しくなかった。
ただ、精一杯走るとどうしてもそういうコントロールは難しい。
衛兵や神殿騎士にも聞いてみたんだけど、体の動きを最小限に抑えるような走り方を教える武芸がこの国に特にある訳でもないみたいだし。
不特定多数の探索者とかに売りつける為の魔道具で、死ぬ気で必死に走ると問題が起きるバックパックって欠陥商品だろ?
だから練習で何とかするんではなく、設計を変更して何とか解決するべきだと思ってね」
肩を竦めながら隆一が答えた。
忍者でもあるまいに、普通の人間は死ぬ気で走った時に体の動きをきっちりコントロールなんて出来ない。
元々の一般的な武芸の一環としてそういった訓練法があるのでない限り、死ぬ気で逃げなければならないような状況が頻繁に起き得る危険な環境で使う為のバックパックが、そうやって走ると転倒しかねないような誤作動を起こすというのは深刻な欠陥だろう。
「まあ、命を救うためとなれば荷物を捨てて逃げることも止むを得ない場合もあるでしょうが、回復薬や食料を捨てる羽目になったら逃げ切っても結局は助からないかもしれませんね」
隆一は荷物を降ろして魔道具を取り出した。
「まあ、考えてみたらバックパックを背負ったまま重い荷物を出し入れする必要だってあまりない。
背負う前に重さに反応する可動範囲を固定するストッパーをつけておけば良いだろう。
うっかりストッパーを外し忘れると重くなっても魔道具の出力が上がらなくてつらい思いをするかも知れないが、重ければ思い出すだろうし」
重さによるバネの動きで接続する魔法陣を変えることで出力を制御する仕組みになっているので、バネの可動域に合わせて魔道具の蓋部分を固定するストッパーをつければ動きに合わせて魔道具が誤作動するのは防げるはず。
重い荷物を持って走り回った時の負荷は瞬間的にはそれなりに大きくなるので、ストッパーはかなり頑丈に造る方が良いだろう。
隆一は10センチ幅程のジュラルミン合金のセレーション(結束バンドのギザギザ部分のような物)のベルトを正面の魔石入れの引き出しの横につけ、それを蓋の上につけたヘッドに通して固定するようにした。
ベルトの強度とギザギザ部分の形の調整、そしてヘッドが勝手に抜けないもののさっと手で外せるようにするのにそれなりに時間がかかった。
結束バンドなどで構造は見ていたし使ったことはあったのだが、これだけの重さに対応できる強度を与えようと思うとゴムの様な柔らかい強さでは対応しきれない。金属ので同じような機能を実現しようとすると必要な形の精密さが極端に高くなってしまったのだ。
一度、鍛治ギルドか錬金術ギルドで似たような機能のストッパーが無いか、探してみると良いかも知れないと終わってから思いついた隆一だった。
「さて。
これで誤作動しなくなるはずなんだが」
魔道具をバックパックの二重底に収め、ストッパーを外してから蓋の動き(というか中のバネの動きだが)が落ち着くのを待ってストッパーを留め、再びバックパックを背負ってみた。
「上手くいきましたか?」
その場で何度かジャンプしてみた隆一にザファードが声をかけた。
「多分?
もう一度外でちょっと走ってくるよ」
ストッパーの細かい加工に時間がかかったのでもう夕方だが、まだ完全に日が落ちた訳ではないので神殿の庭で走り回る分には問題は無いだろう。
上手くいかなかったら明日は『走らない』という対応策で対処することになるが、出来れば迷宮の中で普通の探索者がするような動きをしてみて問題が無いかを試してみたい。
デヴリンとダルディールに戦っている最中に背負ってもらって何か問題が起きないか確認するのも良さそうだ。
あの二人だったら突然荷物が重くなったり軽くなったりしても問題なく対処できるだろうし。
怒るかも知れないが。
突然戦闘中に想定外に荷物からの負荷が変わったらどんな事になるか知りたいので、誤作動の可能性については何も言わずに護衛役の2人に試してもらうつもりの隆一。
低層や中層の上部なら何が起きても問題無いと信頼しているので無茶振りする気ありまくりですw




