671.そろそろ飛んでみる?(38)
「なんかどんどん高機能にしていっているんだが、無駄な贅沢という気もする・・・」
飛行具の上部結界に紫外線カットと赤外線カット、可視光線の一部カット、防風といった機能を付け加え、更に座席に暖房機能も追加した。
冷房も付けるか考えたが、防風の機能を一部カットできるようにすれば赤外線も光もカットできる状態ならそこまで暑くならないだろうと見送ることに。
馬車には暖房すらついていないし、サスペンションも微妙なことを考えるとどう考えてもこの飛行具の機能はオーバーテクノロジーだろう。
まあ、飛行船だってかなり大幅にオーバーテクノロジーなことを考えると、この世界は今までに連れ込まれた招かれ人の提供した技術であちらこちらにオーバーテクノロジーな技能がある。
そう考えると、日常の足とも言える馬車が何故あまり発達していないのか、不思議だ。
隆一が開発した浮遊式カブリオレ程度だったら飛行船の開発者だったレティアーナ女史なら簡単に出来たと思うが。
まあ、オリハルコンの代替品となるジュラルミン合金が無かった事が致命的ボトルネックだったのかも知れないが。
とは言え、反重力魔法陣を使わなくてもサスペンション程度だったらもっと良い物が開発できただろうに。
それとも、反重力で浮くことが当然な社会ではサスペンション技術なんて日本での石炭を使った蒸気機関と同じで『聞いたことはあっても特殊な観光地以外ではリアルで見たことが無い技術』になっていたのだろうか?
それはさておき。
最初は単に飛ぶだけの飛行具を造ろうと思っていたのに、問題点に気付き対処していく中でどんどんハイテク化していってしまう。
ハングライダーや気球に毛が生えた程度のオモチャを考えて気軽に始めた開発だったのだが、意外と色々出来てしまったせいでどんどん現代技術で当然な機能を付け足したくなってしまうのだ。
はっきり言って紫外線カットなんて無くても良いとは言え、飛んでいる間にがっつり日焼けしたら嫌だし、毎日何時間も飛ぶのだったら紫外線による劣化は無視できないファクターになりそうだと思って機能を組み込んだのだが・・・お蔭で魔法陣がどんどん複雑になり、使用する魔力量も増えていっている。
なまじ魔石という小さな動力源で動いてしまうから、色々と無理が効いてしまうのだ。
魔石の消費量を増やすことは世の中の陽と陰のバランスを保つ視点から考えるとあまり好ましくないのだが。
「考えようによっては、無駄に高機能化して製造コストを上げたら大量生産されなくていいのでは?」
お茶を飲みながら考え込んでしまった隆一にダーシュが声をかける。
何度かキュルトとフリオス(及び飛び降り隊の若いのとデヴリン)に飛んでもらって問題点や消費魔力量を確認し、これからの改善点を持ち帰るのを繰り返した隆一は、今日は少し息を抜こうと隆一邸へちょっと早く帰ってきてアリスナの焼いてくれたケーキを食べながら皆とお茶を飲んでいた。
「ダーシュは大量生産されない方が良いと思うのか?」
隆一的に、魔石の消費と迷宮からのその他の素材の採取のバランスを取りたいと考えていることはまだ伝えていないと思ったが。
魔石消費の他に、飛行具を大量生産しないメリットがあるのか?
「個人が気軽に空を飛ぶなんて、問題が起きるに決まっているじゃないですか。
少人数の金持ちが極まれにやる贅沢というレベルに暫くは押さえておく方が絶対に良いですよ。
軍部だって少数の偵察用の魔道具として使う程度に抑えておく方が、専門の戦闘部隊を作るより良いでしょうし」
ダーシュが肩を竦めながら答えた。
確かに、社会的なインパクトとしてあまり急激に多数の飛行具なんぞ提供するのは絶対に良くないだろう。
だが。
「あれだけ熱心に協力してくれるんだから、軍部はもっと大々的に使うつもりなのかと思っていたが」
部隊のトップがほぼ付きっ切りでテストを手伝っているのだ。
いくら本人の趣味が大きな部分だと言え、上層部が容認していることを考えると軍部もそれなりに利用価値を認めていると思われる。
「探索機だって重要ですよ?
飛竜は必ずしも小回りが利かないですし、長期間になると餌の問題が出てきますから」
エフゲルトが付け加える。
「あれ?
エフゲルトは飛竜に興味があったのか?」
ちょっと驚いた。
「いえ、飛び降り隊のキュルト殿の部下の人と色々と話す機会があったんで、あちらの上がどういう理由でここまで協力しているのか、尋ねてみたんです。
飛竜で探索に行くと他の飛竜と縄張り争いになることがあるし、餌も捕まえないといけないんでその残骸から侵入していることがバレたりするんですって」
エフゲルトがニコニコしながら説明した。
中々役に立つアシスタントだ。
なるほど、そう考えると潜入任務にも飛行具は目立ちにくくて良いのかも知れない。
まあ、下手に敵国に持ち込むと撃墜されて機体情報を盗まれることになると思うが。
機密の為と言われて特許申請をしない様要請された場合、他国で不時着して情報を抜き取られて特許申請されてしまったらどうなるのか、確認しておかねば。
折角開発した個人用飛行具の特許を全て仮想敵国に取られたら泣くでしょうねぇ。




