65.バックパック
探索者ギルドで貸し出しているリヤカーは猫車より大きかったので、午後の探索では3体のクレイゴーレムと2体のアイアンゴーレム(小)を倒してその部位を持って帰ることにした。
もっとも、途中から重すぎて隆一が動かすのには支障が出ていたのでデヴリンが引っ張ることになったが。
己が両手両足で踏ん張る感じでやっと何とか動かせるリヤカーを、デヴリンが片手ですいすいと引っ張るのを見て隆一は目が点になった。
高ランク探索者、技だけでなく身体的能力もハンパない。
中ランク探索者相応でも片腕で懸垂とか親指一本で腕立て伏せと言ったような映画でマッチョなヒーロー役が見せびらかしていた芸が出来るのだろうかと思わず考えてしまった隆一だった。
それはともかく。
取り敢えずはバックパックの改造である。
これから中層部を探索し始めたらもっと研究のやり甲斐がある面白い素材も見かけるかもしれないのだから、登山をするような大きなバックパックを1日背負って歩き回っても疲れない程度に負荷を軽減したい。
まずは出力の制御だ。
荷物の重さに対応して反発力を増やす形で出力を制限出来ないと、うっかり空のバックパックで重量軽減の魔道具のスイッチを入れたら跳ね飛んで天井に激突なんて話になりかねない。
・・・空を飛べるならそれはそれで楽しいそうだから試してみたいところだが。
残念ながら、成人男性の体重を『空を飛ぶ』という高度まで上げようとしたら先日の魔力消費量を見る限りではバックパック一杯に魔石を詰め込んでも数分程度でエネルギー切れになりそうだし、跳ね上がるだけでなく自分が好きなように飛びたかったら進行方向の制御手段も必要だ。
取り敢えずはバックパックで重さを軽減するという現実的で地味な使い道の為にどの程度の魔力でどのくらいの反発力が得られるのかの確認だ。
「また天井にゴンゴンぶつかるなら、錬金術ギルドの実験室で作業したほうが良くないですか?」
ご機嫌に色々と素材を机の上に出して準備を始めた隆一を見て、ザファードが机から声をかけてきた。
「錬金術ギルドで作業するとザファードの書類関係の確認事項を夜に纏めて対応しなくちゃならなくなるだろ?
ここで作業すればザファードは何か確認事項があったらすぐに俺に聞けるし、俺は帰宅してから更に書類仕事をする羽目にならないしでどちらもハッピーなんだからいいじゃないか。
こないだの実験で試作品が天井にぶつかったのはうっかり飛行船用の術式をそのまま使ったから出力が高すぎただけなんだ。
今日はまず出力をぎりぎりまで下げてから徐々に上げていってどの程度の魔力でどんな効果が得られるかの確認だから、大丈夫なはずだよ」
ザファードがため息をついた。
「別に神殿から出ていけと言うつもりはありませんが・・・お願いですから危険な実験は安全対策をしっかり施した場所でやって下さいね。
私が傍にいると便利というのだったら、自分の家を改造してそこに安全対策を万全に講じた実験室を造っていただいて毎日私がリュウイチ家へ出勤したって構わないのですから」
神殿の図書室をまだ読破していないので隆一としては、現時点では外に引っ越すつもりはない。
元々かなり快適な作りになっている生活空間なのだ。
ホテルのように定期的に清掃の人間も入ってくれるし、食堂での食事も悪くない。
とは言え、実験の度に錬金術ギルドに行くのは面倒と言えば面倒ではある。
術式の出力パラメーターを見つけた隆一はそこを別に定義できる変数に変え、顔を上げた。
「まだあと数か月は神殿から出るつもりはないんだけど、家を見つけて実験室を改造するのってどのくらい時間がかかるのかな?」
「不動産は希望に一致した物件が無ければ無いですから、何か月で見つかると確定は出来ません。
家の改造は1、2ヶ月といったところでしょうかね」
「そうか、条件にあった家が見つからない可能性があるのか。
じゃあ、取り敢えず出てきたら押さえるという感じで、探索者ギルドと錬金術ギルドと神殿と王立図書館にそこそこ行きやすい場所にある実験室を造れるような家を探しているって不動産屋に伝えといてくれ」
「分かりました。
予算はどのくらいですか?」
不動産の購入となったら住宅ローンが地球では常識だった。
隆一としてはこの世界では借金なんて怖くてしたくないが、異世界人基金から金を貰ってローンなつもりで返金すればいいだろう。
「俺の特許収入で10年返済の住宅ローンで買えるぐらい?」
「・・・どんだけ豪邸を買うつもりなんですか」
ザファードと隆一が暫しお互いを凝視して沈黙した。
「豪邸?」
「もしかして、渡した報告書を確認していませんね??」
二人の声が重なった。
バックパックが殆ど出て来てない・・・




