64.迷宮5階再び(3)
「ファイヤーボール!」
足止め用魔道具に引っ掛けて拘束したクレイゴーレムの核に隆一の中級魔術が炸裂した。
ゆっくりじっくり近距離から狙ったので、流石の隆一でもちゃんと核を一発で砕けた。
「うっし。
粘土は猫車に入れて持って帰ろう」
幸い5階に降りてきてすぐにクレイゴーレムに行き当たったのだが、別に態々突撃豚の肉を捨ててバックパックに粘土を入れる必要は無い。
猫車に粘土、バックパックに肉を入れて持ち歩くなんて、かえって本格的に探索者っぽいではないかと密かに自賛していた隆一だが、猫車の横に取り付けてある軽量スコップを取ろうとして、バランスを崩した。
「うぉっと!」
「バックパックに荷物を入れている時は、うっかり腰を上げたまま頭を下げて物を取ろうとするとバランスを崩すぞ」
バックパックの後ろを掴んで転がりかけた隆一を支えてくれたデヴリンが教えてくれた。
「なるほど。
今まではバックパックを使う場合でも基本的に降ろしてから作業していたから、重心の移動の事を考えていなかった。
下手に荷物を降ろして迷宮に吸収されたら困ると思ったんだが、バックパックを背負ったまま作業をするのに慣れないとだな」
「我々が側にいるのだから、荷物を降ろしても大丈夫だぞ?」
「ちなみに、通常の探索者だったらこういう場合ってどうしているんだ?」
吸収を阻害する距離に自分たちがいるのだから荷物を置いても大丈夫だと指摘したダルディールに尋ねる。
「まあ、休憩時とかじゃない限り基本的に荷物は降ろさないな。
魔物に襲われるなり、魔物を襲うなり、誰かを助けるなりの理由で急に動くことになる可能性は色々とあるから」
肩を竦めながらデヴリンが口を挟んだ。
どうやらダルディールの言葉はちょっと隆一を甘やかしたものだったらしい。
まあ、元高ランク探索者が2人も護衛に付いている時点で隆一は『普通の探索者』ではないのだから探索者の常識に従う必要は無いと言えば無いのだが。
「取り敢えず、普通に探索者に売り出すことも考えて今日は出来る範囲では通常の探索者と同じように動いてみるよ」
そう二人に伝え、隆一はクレイゴーレムの粘土を猫車に積み込み、魔石を拾い上げてウェストポーチに放り込み、足止め用魔道具を回収して立ち上がった。
「うっし。
次だ!」
◆◆◆◆
「ちなみに、これって荷物を沢山積んでいて階段を降りる際に轢かれるなんてことはないのか?」
ランチの後にリヤカーを借りて迷宮に戻ってきた隆一は、後ろ向きにリヤカーを引っ張って階段を降りながら横を歩いていたデヴリンに尋ねた。
猫車は比較的小型だったし手を離したらデフォルトで手元の部分が地面についたのでうっかり手が滑っても階段を勝手に落ちていくという事はなさそうだったが、リヤカーは猫車よりも車輪が真ん中にあるので積んでいる荷物の配置や重心しだいではそのまま階段を転がり落ちそうに隆一には見えた。
「まあ、リヤカーが階段を落ちてしまって中身がぶちまけられることは時折あるが、探索者が避け損ねることは余りないかな。
基本的に下に人がいる際は降りるのを待つし」
やはり、落ちることはたまにあるようだ。
普通の探索者やリヤカーの扱いに慣れた運搬係ならうっかりリヤカーが手を離れてもヒラリと避けられるのだろうが、隆一としてはイマイチ自信がない。
取り敢えずは試してみるが、通常は階段を降りる際はデヴリンに任せる方が無難そうだ。
◆◆◆◆
「討伐結果だけを見たら一人前ぐらいになったと思わないか?」
4階で階段に向かっている際に寄ってきた森狼を仕留めた隆一は護衛役の二人に尋ねた。
一応、4階と5階が見習い探索者の試金石と言われている。
物理系は5階のゴーレム、魔術系は4階の森狼を問題なく倒せたら一人前扱いなのだ。
隆一はどちらも問題なく倒せているのだから一応一人前と言えなくはない。
「一人前のお坊ちゃま探索者だな」
笑いながらデヴリンが答えた。
一流の護衛が2人付き、更に足止め用魔道具を毎回使っているのである。
確かに金持ちお坊ちゃま探索者と同レベルと言われても文句は言えない。
「やっぱりそういうお坊ちゃま探索者も基礎能力アップの為に探索するのか?」
「大抵はそうだな。
偶に金の力と自分の力の違いが分かってない夢見るアホが一人前の探索者になったつもりで勝手に自滅したり周りを巻き込んで死んだりすることもあるが」
デヴリンが肩を竦めた。
馬鹿が自滅する分には構わないが、巻き込まれた周りはいい迷惑だろう。
「・・・金持ちのお坊ちゃんでも探索者にあこがれるのか?
デヴリンやダルディールみたいな一流探索者は別として、ギルドで回復を受けに来た探索者達を見ていると探索者ってそこそこハードで危険な肉体労働者という印象を受けたから、金持ちがなりたがる職業だとは思わなかったんだが」
なんと言っても王家の先祖が探索者として身を立てた人物なのだ。
ヴァサール王国の貴族社会では、家を継げない次男・三男が探索者として迷宮の攻略を目指すのも、軍人になるのと同じぐらい身を立てる手段として認められているらしい。
お蔭で探索者ギルドで探索者を見ていても、明らかに違うタイプの人間が時折混じっているのだが・・・隆一としては大多数の探索者は文字が読めるのかも微妙な肉体労働者タイプな気がした。
「確かに貴族で探索者になるのは下級貴族か没落しかけな名門貴族の次男・三男が多い。金に飽かせた探索はしたくても出来ないから、それなりに下準備やリサーチもしている。
ただ、羽振りの良い家門の人間でも、婿入りや一族の下級爵位すら与えられないようなバカは探索者になることがあるんだよ・・・」
デヴリンがため息をついた。
どうやらこの国では有害レベルでバカな貴族の子息の終身雇用先として『探索者』の職業があるらしい。
「たとえ護衛がいて費用度外視して魔道具を使えたとしても、いつまでもバカが生き残れるほど迷宮は甘くはない。だが、残念ながら金の力ってそういうアホでも周りに迷惑をかけまくれる程度に命を長らえさせてしまう効果もあるんだよ・・・」
ダルディールもため息をつきながら付け加えた。
どうやらバカ貴族は探索者ギルドにとっても頭の痛い存在らしい。
「まあ、招かれ人だったら貴族でも危害を加えそうだったら切り捨て出来るから心配無用だぜ!」
デヴリンが非常に良い笑顔で言った。
バカ貴族が近づくだけでも『危害を加えそう』と見なされて切り捨てしそうな雰囲気だ。
まあ、迷宮は危険な環境であるし、権力のあるバカほど厄介な存在はないと隆一も思ってはいるが。
「俺の祖国には『君子危うきに近よらず』っていうことわざがあるんだ。
出来るだけバカは避ける方向で頼むぞ」
当事者として切り捨て御免を体験したく無い。
他国の貴族の場合、バカ息子が何度かやらかしたら領地に幽閉された後ひっそり『病死』します。
ヴァサール王国の場合、『あ、こいつバカじゃね?』と思われた段階で探索者にあこがれるように周りが色々と煽り立てます。
探索者になってもバカなままならそのうち死ぬし、心を入れ替えて一人前になることもあるので親側にとってはまだ救いがある感じ?
周りの探索者にとってはいい迷惑ですが、その分ヴァサール王国では領主からの探索者ギルドへの支援がやや多め。




