63.迷宮5階再び(2)
迷宮の中を最短ルートで降りながらデヴリンが運搬具に関する質問を続ける。
「で、どんな感じになりそうなんだ?」
「まだ色々試しているところだから、何とも言えないな。
反重力の術式に普通の素材を使えないのは術式が無理やり素材の魔力を消費してしまうのが原因だというのは分かったし、以前マイクロチェアに使った合金を使えば元々魔力が全く含まれていないから素材の侵食が起きないのも分かったから何か出来るとは思うが、どうやって現実的なレベルの魔道具に出来るかはまだまだ試行錯誤が必要だ」
階段を下りるのに邪魔にならないように右腕に抱えていた猫車を地面に下ろしながら隆一が答えた。
軽くて丈夫な素材で作られて中も空っぽなのだが、それなりのサイズがある猫車をずっと抱えて歩くのはまだ厳しい。
「中に乗る必要は無いが、小型な飛行船みたいな感じに宙に浮かせる運搬具を造れないのか?
探索者は自分で集めた魔石を使えるから、迷宮用だったらそれなりに魔力消費量が多くても使いたがる探索者は多いと思うぞ?
探索中だったら魔石を現地で集められるから大量消費することになってもあまり問題にならないし」
ダルディールの言葉に思わず隆一の足が止まりそうになった。
20センチ四方程度の板を持ち上げただけで屑魔石が空になったことを考えて、個人が動かすサイズの運搬具を宙に浮かせるのは魔力消費が大きすぎて非現実的だと思っていたが、確かに迷宮を潜って現地補給できるのだったら可能かもしれない。
まあ、魔石が足りなくなりそうな時用に出力を絞った使い方も可能な形にした方がいいだろうが。
「平らなところだけを進むなら単純に地面に対して反発する力をかけさせればいいが、それだと階段や起伏がある場所で運搬具が傾いてしまって中身が零れるとか、運搬具そのものがひっくり返るとかする可能性があるだろ?
だから宙を浮かせるなら常にバランスを保たせる機能も必要なんだ。
出力的にもかなり厳しいから宙に浮かせるのは無理だと諦めていたんだが・・・確かに魔石を現地調達出来るんだから魔力消費に関しては度外視するのも有りかもな」
もしかしたら飛行船に拝借できるバランサー機能があるかも知れないから錬金術ギルドの資料を確認する必要があるが、無いとしたらそれなりの時間がかかる。
重さを軽減する程度の運搬具を先に開発したほうが現実的かも知れない。
「頼むぜ~。
運搬具が改善されたら大分探索しやすくなるからな」
デヴリンが突進豚を斬撃で倒しながら言ってきた。
そう言えばデヴリンは今でも個人的に時間が空いた時に迷宮を探索していると言っていた。
確かに運搬具の改善は資金的に余裕のある高ランク探索者にとっては大歓迎だろう。
「まあ、頑張るよ。
あ、ちなみにその突進豚も取り敢えず運んでみたいから猫車に入れてくれ」
金銭的にはクレイゴーレムの粘土を持って帰る方が収益が大きいが、昼までに5階でクレイゴーレムを倒すかどうかは分からない。
取り敢えずは突進豚の肉を入れておいて荷物を運ぶのがどんな感じになるのか、試しておく。
「了解~」
デヴリンが手早く突進豚を解体し、隆一が差し出した保管袋に肉を放り込んで猫車に置いた。
「・・・俺も解体を学ぶべきかなぁ?」
素早く魔石も抉り出すデヴリンの様子を見ながら隆一が呟く。
更に下の方に降りて行ったら隆一では倒すのも難しくなってきて、解体しか役に立たなくなる可能性は高い。
解体しながら鑑定したら色々新しい発見もあるかも知れないし。
とは言え。
「やりたきゃ教えるけど?」
「取り敢えずは良いや。
まだ色々とやりたいことが多いから」
もう少し手も足も出なくなってきたら考えよう。
◆◆◆◆
「思ったよりも猫車って使いにくいな。
これだったらバックパックの負担を軽減する魔道具を作った方が良い気がしてきた」
突撃豚の肉とカボチャを収穫して猫車に入れて押していた隆一だが、4階に着いた頃には猫車に嫌気がさして荷物をバックパックに移していた。
同じ重さを運ぶにしても、猫車に入れて運ぶよりもバックパックに入れて運ぶ方が楽だ。
もっと重くなったら辛いとは思うが、それこそ重さ軽減の魔道具を周囲と触れないようにジュラルミン合金で覆ってバックパックの中にでも入れれば、手っ取り早いしイライラしないで済む気がしてきた。
「いやいやいや、それはお前さんが魔道具で魔物を固定して魔術で倒しているからそんなことを言えるんだ。
普通の探索者はもっと激しく動いて魔物を避けるなり倒すなりしなくちゃならないんだ、大きなバックパックなんて担いでいたら寿命が縮む!」
隆一の言葉にデヴリンが慌てたように反対した。
確かに隆一のように魔力消費を度外視して足止め用魔道具で雑魚魔物まで拘束して魔術で倒している探索者は他にはいないだろう。
そう考えるといくら重さを軽減したところで大きなバックパックを担いで探索するのは危険だ。
「あ~、確かにそうかもな。
取り敢えず自分用には明日にでもバックパックを改良して、長期的な開発目標として運搬具をどうにかするか」
5階への階段を下りながら隆一が合意した。
ジュラルミン合金で反重力の術式を使えるようにしたら、残りの開発は他の錬金術師に任せても良いが・・・探索に興味を持っている錬金術師はそれほど多くない。
反重力魔道具に興味を持つ錬金術師がいるとしても、商業ギルドがスポンサーになってくれそうな馬車や荷車への応用を先に研究しそうだ。
そう考えると、隆一が探索者ギルドに探索者用の運搬具の開発を懇願されることになる可能性が高い。
『不可能』と思われていれば、反重力の術式を使った運搬具の開発が進まなくても誰も文句を言わないだろうが、ダルディールは探索者ギルドの職員なのだ。
今日の隆一の言葉は間違いなくギルドに伝わるだろう。
ある意味そのためにギルドが無料で彼を護衛に付けてくれているのだから。
まあ、アイテムボックスなどが無い世界なのだ。
便利な荷物の運搬手段を開発しておいて損は無いだろう。
重い荷物を背負うと肩こりが辛いですが、基礎体力が上がってきている隆一なので意外と沢山荷物を持てますw




