61.リサーチしましょう(6)
机の上に落ちたレッサートレントの板で作った試作品はバラバラに壊れていた。
試作品の破片を手に取って確認したところ、魔法陣の線にそって素材がボロボロになっていた。
指で触れると完全燃焼後の灰のような粉が指にうっすらと付着する。
「反重力の術式って素材の魔力も無理やり引き出して消費するのか。
それにしても、魔力がゼロになると気絶すると言うが・・・本当に完全に使い切るとミイラになりそうだな」
ボロボロの断面をルーペで確認したところ、完全に侵食しきっている訳ではなく、1ミリ程度は素材が残っていたようだが天井(と机)へぶつかった衝撃に耐えられなかったようだ。
天井にぶつかった衝撃で屑魔石が外れて術式が解除されたのか、今回は屑魔石の方にもごく僅かに魔力が残っている。
意外な発見だが、どうやら20センチ平方程度の板でもレッサートレントの素材に残っている魔力というのは実は屑魔石よりもかなり多いようだ。
通常の手法で素材から魔力を引き出すと、完全に絞り出せていない為に魔石よりも少ない量しか利用できないのだろう。
それを絞り出して素材を灰のようにしてしまう反重力の術式も中々怖いところだが。
異世界の術式だからこうなるのか、それとも進んだ世界の術式だからそれだけ強力で効率的なのか。
焼却炉みたいな感じに素材を灰に変えてエネルギー(魔力)を抜き出す発電所(発魔力所?)を造ることになったらこの反重力の術式のどこがここまで完全に素材の魔力を引き出しているのか研究しても良いかも知れないが・・・まあ、普通に迷宮から魔物の魔石が取れる現状では特にそんな施設は必要ないだろう。
隆一としてはここまでエネルギーを奪いつくす術式というのは効率的ではあっても何か不自然に感じられて嫌だったし、完ぺきな死体遺棄の方法として流用されてしまいそうな気もしたのでそちらの研究はしないことにしておいた。
とは言え、この世界だったら死体なんぞ迷宮に放置しておけば影も形もなくなるのだから『死体遺棄に利用されそう』という事なんぞ心配する必要は無いかも知れないが。
それはともかく。
南の方の大陸では、身体能力強化の術式を体に直接顔料で描いたり、入れ墨で刻む社会もあるらしいが・・・うっかり空を飛ぼうと反重力の術式を体に描き込んだりしたら、一気に全身の魔力を使いつくして大気圏を突破する勢いで飛んだあげくに魔力を枯渇してミイラになって落ちてきそうだ。
まあ、大気圏を突破したら大気圏再突入の際に燃え尽きしまう為、ミイラになっているかどうかは確認できない状態になっているだろうが。
「無茶はしないで下さいよ~。
空を飛びたいのでしたら、いつでも飛行船の予約を入れますので変なことはしないで下さいね」
そんな不穏な隆一の考えを読み取ったのか、ザファードがため息をつきながら注文を付けてきた。
「飛行船もそのうち試してみたいけどね・・・。
まあ、今のところは良いよ」
空を飛びたかったらパラグライダーでも使って自分で飛ぶ方が面白そうだし、そうでなくても気球ぐらいだったら比較的簡単に作れるだろう。
却って安全対策が十分以上に為されているであろう商業用飛行船の方が飛んでもあまり面白くなさそうだ。
どうせ魔法のある世界に来たのだから、身一つで空を飛べたらいいな~と密かに思っていたのだが、下手に術式に触れたら砲丸のように飛んで行ってしまう上に魔力が尽きてミイラになりかねないと思うと、流石に迂闊な実験をする気はない。
「取り敢えずは荷車を動かしやすい様に使えないか、ジュラルミン合金を使って反重力の術式を色々試してみよう」
ついでにあちらの世界で良く使われていた他の合金でも魔力保有量ゼロ(=反重力の術式を書き込む素材に使える)になるのか、確認してみるか。




