59.リサーチしましょう(4)
この世界の技術は大量生産の工業化は起きていないのに、魔道具を製造に使うことでそれなりに高等技術が部分的に普及している。
例えば、王都では下町でも殆どの窓にガラスが入っているし、馬車や猫車の車輪などにはごく小さなボールベアリングの軸受けを使っている。
何やら衝撃を逃がすサスペンションが使われているのか馬車もあまり揺れないし、ベッドにもかなり良い感じな反発感のあるマットレスが置かれている。
そして不思議なことに、馬車を使っている世界なのに何故か飛行船が大都市や各国の王都を行き来している。
魔道具と魔法のファンタジーな機能のお蔭と言うのもあるが、何より大きいのは招かれ人が齎した技術だろう。
神殿にあった資料によると、隆一のように機械文明の世界から来てそれを魔道具で再現させた人間もいるし、魔法文明が進んだ世界から来て魔道具や魔術を何世紀分も進展させた人間もいる。
何やら神様かどっかの権力者が失敗したのか、魔物が増えすぎて人類の生存圏が大幅に縮小した時期に召喚された勇者モドキな戦闘特化だった招かれ人以外は、ほぼ全ての招かれ人がどちらの方向であれ、より進んだ文明の世界から召喚されている様子であることを鑑みると、召喚による文明の進展もこの世界の神が意図するところなのだろう。
はっきり言って、長い年月をかけて技術を培って伸ばしてきた地球での人類の苦労の成果を安易に入手させる神の手法はかなり業腹なところだが、そうは言っても自分が不便なのでついつい色々と発明・開発してしまう隆一だった。
それこそビールを冷やす冷蔵庫や、快適に眠れるマットレスが既に開発されていなかったら、確実に自分で開発しただろう。
どちらにせよ、こちらの世界に来てしまったのだ。
神への嫌がらせの為に何も開発しなくては不便だし、暇すぎる。
金だって先人の遺産に寄生するのは嫌だし。
そんな風に、招かれ人は便利に技術の情報提供源として使われているようなのだが・・・意外にもこちらの世界では再現できていない技術も多い。
工業生産の技術が無いのだから完全な再現は無理だとはしても、元の世界で魔道エンジニアだったレティアーナという異世界人が錬金術師として自分が分かっている物ならばほぼ何でも完全に錬金できる状況であったにも関わらず、元の世界の技術の半分も使えるレベルで再現できなかったと錬金術ギルドにあったノートには書いてあった。
レティアーナの世界は高度に工業化した魔法の世界という非常に不思議な文明だった。なんと、魔法技術で宇宙に打ち上げたソーラーパネルで星全体のエネルギーを供給し、他の星にも植民を始める程の進んだ文明を持っていたのだ。
この文明がもしも地球の文明と出会った場合、地球人も魔法か魔道具を使えるようになったのかと隆一としては非常に興味があるところなのだが・・・多分世界の基軸が違う為に二つの文明が出会うことは無いだろうという結論に達した。
この世界では、地球とエネルギーの反応が違う。
なんと言っても電気が存在しないのだ。
勿論、自然の雷や雷撃のような攻撃魔法としての電気は存在するのだが、磁石とコイルを使っても発電出来ないし、魔道具で調整してごく弱い雷撃を流して電流として使おうとしてもフィラメントを光源として光らせる事が出来ない。
単に星が違うだけでエネルギーや化学反応に違いが出るとは考えにくいので、やはり世界の基軸と理が違うのだろうと隆一は考えている。
だからエネルギーの論理が地球と違っているらしきレティアーナ女史の世界もまた地球と違う基軸にある可能性が高いだろう。
完全に機械文明から来た招かれ人の故郷の方が、地球と同じ基軸に存在していつの日かどちらかの宇宙船でお互いが出会う可能性がある。
まあ、それはともかく。
『この世界にある技術の延長線上にあるテクノロジーならば問題なく魔道具で再現できるのに、反重力やワープ技術といった技術はほぼ全て大幅に劣化した形でしか再現できない。
これは世界を大きく変えないという神の意志なのだろうか?』とレティアーナ女史の走り書きにあったが、隆一としては神の意志というよりは世界の理が違うことが原因なのではないかという結論に達した。
ワープ技術があったという話には非常に心が躍ったが・・・まあ、違う基軸の世界の話なので地球では機能しなかった可能性が高い。
魔法なのでワープと言うよりも転移と言うべきだろう。
考えてみたら、迷宮で転移門が存在するのにレティアーナが転移の魔道具を全く部分的にも再現出来なかったのは不思議だが。
宇宙へ植民出来るだけの技術があったらFTL(超光速)通信技術も当然開発されていたのだろう。
だが、その移動技術も通信技術も、こちらではちゃんと機能しなかったと書いてあった。
とは言え、劣化した反重力の力を使って飛行船が開発されたのだから、この世界的には大きな進歩があったとは言える。
折角ならば反重力ブーツで空の散歩と洒落込みたかったが。
ちなみにこれはオリハルコンを使っても不可能だったとノートには書いてあった。
「どうせならこの世界になかった素材を使ったらどうなるか、試してみるか」
反重力の術式がこの世界に馴染まないせいで普通の素材では侵食されてしまうというのなら、元来この世界になかったジュラルミン合金を使ったらどうなるのか、興味がある。
「ヴァダス師が色々と試しているという例の合金ですか?」
書類に目を戻しながらザファードが尋ねてきた。
「そう。
魔力を完全に素通りさせちゃって蓄積出来ないのは何をやっても変わらなかったらしいし、直接魔力を蓄える使い切りタイプの魔道具としては起動すらしなかったらしいが、魔石から力を得る再利用タイプの魔道具だったら特に問題なく使えるらしい。
まあ、魔防がゼロなせいで壊れやすいとは言っていたが」
電気の回線とかだとしたら電気抵抗のない(=電気を逃がしやすい)銅が向いていることを考えると、ジュラルミン合金だって術式を刻む媒体として使い勝手がいいのではないかと隆一は思っていたのだが、ヴァダスによると特に他と比べると優れた点があるというほどではなかったらしい。
多少は魔力効率が良いようだが、魔防がゼロなので魔力が漏れたらすぐに壊れること、そして素材を生成するのに錬金術師が必要となる事などを考えると利用価値は微妙との話だった。
それでもオリハルコンとは違い、普通の錬金術師でも生成できるので多少は高くなるがもしも反重力の術式を使えるとしたら一般普及は難しくない・・・はず。
合金と言うとジェラルミンはすぐに頭に浮かびますが、他に何か有名な近代工業で使われている合金てありましたっけ?




