57.リサーチしましょう(2)
「ヴァダス。
重力や飛行船に関する術式の資料ってどこにあるか知らないか?」
反重力の術式が大きいという話は聞いたが、隆一が求めているのは荷物運び程度の出力なのだ。
飛行船ほど大きくなくても何とかなるかもと期待して錬金術ギルドに来たら、ちょうどヴァダスを資料室で見つけたので捕まえて尋ねてみた。
「うん?
重力系の術式?
あれは150年ほど前の招かれ人がもたらした術式なんだが、何故か重力を増やす方向になら普通に機能するのに減らす方向に使おうとすると妙に劣化するから使い勝手がめちゃくちゃ悪いんだよな。
研究記録はG19の棚あたりにあったはずだぞ。
そう言えば、レティアーナ女史の研究ノートの写本も残っているから、見るか?」
資料から顔を上げたヴァダスが答えた。
「女史?
女性だったのか」
ちょっと失礼な思い込みだが、隆一は飛行船の発明をしたような発明者は男だと思っていた。
日本ですら理系の女性が増えてきたのだ。
アメリカでは科学者のそれなりの割合は女性だったことを考えれば、この世界に召喚された招かれ人が女性の技術者(錬金術師?)だったとしても不思議はない。
「おう。
こっちで結婚して子供まで生んだそうだぞ。
亡くなった際に家族が錬金術関連の資料をギルドに寄贈してくれたお蔭で珍しく神殿ではなく錬金術ギルドにメモ書きも含めた全ての資料が残っている」
招かれ人の世話は召喚が行われた直後は神殿が行うことになっている。
社会との軋轢の解消の為の秘書のような役割も神殿が人を派遣することが多い為、自然と招かれ人の資料は神殿に集まる構造になっている・・・と隆一は思っていた。
どうやらこのレティアーナ女史は神殿の秘書を必要としないぐらいこちらの世界に馴染んでいたようだ。
もしくは家族が神殿の希望を無視して錬金術ギルドに資料を渡したのか。
「是非、見せてくれ」
「こっちだ」
案内されたのは資料室の奥にある小部屋だった。
入口の傍に何やら箱があり、そこにヴァダスがギルドカードを乗せたら扉が開いた。
「おお~。
ギルドカードでの認証が必要な部屋もあると聞いたが、初めて見たな。
ちなみに俺でも入れるのか?」
ヴァダスが肩を竦めた。
「招かれ人なんだからどこでも入れるはずだが・・・試してみろ。
駄目だったら総務に文句を言いに行けばすぐに変更してくれるだろうさ」
小部屋の扉を一度閉めて、隆一が錬金術ギルドのカードを取り出して箱に乗せたところ、再び扉が開いた。
「大丈夫そうだな。
レティアーナ女史関連の資料はこの棚だ」
部屋に入ってすぐの棚をヴァダスが示した。
「・・・大切な資料は奥の方に仕舞うもんなんじゃないのか?」
「大切な資料程早く見たいんだから入口の傍に置くんだよ。
ちなみに、この部屋にある資料は全て持ち出し禁止だから個人的に欲しかったら写本してくれ。
持ち出そうとすると扉が閉まって警報が鳴るからな。
写本職人はギルドが指定した人間を使わなくちゃならないんでちょっと不便だが、後の方の資料だったら何冊かは写本してあるからなんだったら俺の部屋を先に借りに来ても良いぞ」
「それは助かる。
後で見に行かせてもらうよ」
ヴァダスに軽く答え、隆一は棚に入っていたノートをごっそり抜き取って机へ持って行った。
何冊かめくってみたところ、ノートの使用開始日及び主な研究項目が最初のページに書いてある。
レティアーナ女史は中々几帳面な研究者肌な人間だったようだ。
コンピューターが無いこの世界では過去の資料を探すのも一歩間違うととんでもない長丁場な作業になりかねない。
考えてみたらこういったメモの整理方法は重要かも知れない。
いくら隆一の記憶が完璧とは言え、これから何十年間もの間の研究結果を山ほど作成されるノートの中から探そうとしたら大変なことになりそうだ。
いつの日かは自分の研究結果を弟子なり生徒なりに教えたいと思う日が来るかもしれないし。
現時点では想像も出来ないが、もしかしたら子供が出来てその子に研究ノートを残したいと思うことだって絶対にありえないとは言い切れない。
それはともかく。
飛行船が開発されたのは150年ぐらい前だという話だから、取り敢えずは160年前から140年前ぐらいの期間のノートをまずは見ていこう。
レティアーナ女史のノートのかなりの部分(特に初期の研究メモ)は彼女の母国語で書かれているので現地人には読めません。
だからヴァダス氏も後期のノートだけ写本してるんですね~!
が、隆一は異世界言語理解があるので大丈夫!
『異世界言語』には他の招かれ人が来た世界も含まれているんですが、すべて同じように読めちゃっているので隆一は違いに気が付かずw




