53.招かれ人とはこんなモノ?:スフィーナ(2)
「リュウイチ殿!
足止め用の魔道具が完成したそうですね。
是非詳しい事を教えてください!」
買取りカウンターから戻ってきたリュウイチを捕まえ、スフィーナはリュウイチとお目付け役2人を奥の個室に連れ込んだ。
何やら機嫌が良さげなリュウイチ氏はにこやかにスフィーナに挨拶をした後、部屋の椅子に座り込んで成人男性の拳2つ分ぐらいのサイズの箱を取り出した。
「いや~、基礎機能は2日目ぐらいに大体出来たんだけど、その後色々と拘りまくっちゃって。
プログラミングを魔道具に落とし込むのって楽しくって気が付いたら10日近くたってた!
知り合いに試すのを手伝って貰ったものの魔物相手に上手くいくか心配していたんだけど、想定以上に上手くいったよ」
基礎機能が2日で出来上がっていたって・・・。
10日弱でも非常識なのに、それよりも更に短かったのか?!
「どんな機能が組み込まれているのか、良かったら教えていただけますか?」
魔術も魔道具も、機密の塊である。
だが、魔術を新規開発した場合は魔術師の奥の手として秘匿することが多いのに対し、魔道具は売り出すことが多いので防御系は特にそこまで秘匿されない。
なので聞いても相手の怒りを買わない可能性が高い。
リュウイチ氏は明らかに機嫌が良さそうだったし。
「基本機能は、放り投げたら大体縦横3メートル四方ぐらいの力場を発生させて、そこに一定以上の質量を持った存在が触れると粘着網から形成された結界が展開されるってところかな。
拘ったのは、まず保護対象の登録。
つまり、俺だけ登録していたら俺を中心として力場が発生するんだけど、もう一人登録していたら2人をカバーできるぐらいに近い位置関係だったら両方を守る場所に力場が発生する。
まあ、優先順位を設定しないと保護対象を登録できないようにしたから、2人目が離れすぎてたら無視するけどさ」
スフィーナは思わず机の上の箱を凝視した。
リュウイチは簡単に言ってくれたが、通常、保護結界というのは指定した場所か魔道具を置いた場所を中心に展開される。
それを登録した人間を中心に展開するなんて、聞いたことが無い新機能だ。
「あと、排除対象も3人まで登録できるようにしたから、今だったらデヴリンとダルディールが力場に触れても結界は展開されない。
ただしすぐ傍に魔物が突っ込んできたら展開された粘着網に巻き込まれる可能性があるから気を付ける必要はあるけど」
「結界の排除対象の登録って機密術式ではありませんでしたっけ・・・?」
スフィーナが弱弱しく尋ねた。
王家の血を引いた人間だけが入れる結界の設定などは王宮魔術師の責務の一つだったはず。
それを突破されないように、その登録方法は秘術とされていると聞いた記憶がある。
リュウイチ氏が首を傾げた。
「あれ、そうなの?
保護対象の登録も排除対象の登録も所有権登録の術式の応用だから、別に秘匿ではないと思うけど?」
・・・どうやらリュウイチ氏は招かれて半年ちょっとで魔術や錬金術に生涯をささげてきた専門家を超えてしまったらしい。
「まあ、それはともかく。
肝心の足止め機能としては力場に接触があったポイントを中心に粘着粉を吸着させて魔力を流して粘着網の結界を展開させるんだけど、その際に魔力の膜で薄く覆っておいて使い終わった後に魔道具の箱に粘着粉として回収できるようにした。
ただし、結界に負荷がかかりすぎて壊れると魔力の膜も破れちゃうんで、そうなったら粘着粉を入れなおす必要があるけど」
展開した粘着網を再利用できるなんていうのは初めて聞いたが、どうやらこの魔力の膜でそれが可能になるらしい。
場合によってはこの技術も役に立ちそうだ。
結界も破られても再展開できるタイプは高いはずのだが・・・何か特別な工夫をしたという雰囲気は無い。
もしかして再利用可能な結界が高いのは製造コスト故ではなく、錬金術ギルドの価格戦略なだけなのか?
「凄いですね・・・。
あったら凄く便利なのに今まで誰も作ってこなかった機能ばかりです。
ちなみに、登録はもう終わりましたか?
出来れば探索者ギルドの方でも入手したいのですが」
リュウイチ氏が肩を竦めた。
「ザファードに任せたから、書類はもう提出されているんじゃないかな。
ただ、これって襲ってくる相手にしか使えないから、探索者ギルドでは使い道が限られるんじゃない?
魔術師よりも物理系の攻撃職の方が多いという話だから、魔術師が自分の身を守らなくちゃならない状況になんてそうそう無いと思うが」
スフィーナは頷きながらも魔道具を手に取った。
「確かに魔術師が一人で迷宮に潜るということはまずありませんが、何かがあって他のメンバーとはぐれるということはありますし、魔物によっては後衛を優先的に狙うタイプもいますので、もしもの時用に欲しいと考える人は多いと思いますよ」
そう。
前衛役が死んでも後衛役さえ帰ってきてくれれば迷宮の探索にそれ程支障はない。
言い方は悪いが、剣士や戦士は十分スペアがいるのだ。
しかし現実としては前衛役に守られない後衛役は前衛役が死んだ時点で死んだも同然なので、前衛役が倒れた場合に後衛役が帰ってこられることはほぼ無い。
だが。
この魔道具があれば。
攻撃手段の無い回復師はまだしも魔術師だったら魔道具で魔物を足止めし、魔術で倒しつつ何とか帰ってこられる可能性がある。
リュウイチ氏は自分用に迷宮の上層にいる魔物相手を想定した魔道具を造ったようだが、設計さえきっちり出来ていれば中層や下層でもそれなりに使えるように威力を上げることもある程度は可能だろう。
そう考えると、この魔道具はいざという時の保険として探索者ギルドが探索を行う全ての魔術師に貸し出しても良いぐらいだ。
しっかし。
迷宮保存箱にせよ、この足止め用魔道具にせよ。
リュウイチ氏が迷宮の探索を始めて1月もしない間に探索の常識が変わりそうな魔道具が二つも開発された。
・・・招かれ人というのはこうも影響が大きい存在なのだろうか?
魔道具に刻まれている術式は、一部しか解読されていない古代遺跡のピクトグラムで書かれたプログラミングみたいな感じです。
この世界の人は過去の経験則に基づいて試行錯誤しながら使っているんですが、招かれ人は異世界言語理解を召喚の際に付与されているので書いてある内容が読めちゃうんですねw
なので隆一は比較的簡単に必要なプログラムをあちこちの魔道具の術式から取り出し、改善して自分のに組み込めます。
それに対し、現地人は過去に成功した術式を『こんな意味かな?』と半ば行き当たりばったりに推測しながら使っているので、新しい術式を造ったり既存のを改善するのも多大なる試行錯誤が必要になって時間がかかります。
隆一に術式プログラム言語の解説書でも書かせたら一気にこの世界の魔道具の開発が捗りそうですが、周りの人間は『何故こうも開発が早いのか』を考えずに『招かれ人だから』で思考が止まっちゃってるのでダメですね〜。




