52.招かれ人とはこんなモノ?:スフィーナ
「やっこさん、10日足らずで足止め用の魔道具を作り上げたぞ」
夕方になると探索者ギルドは依頼終了の届け出や討伐した魔物の買取を求める人でごった返す。
そのピークがもうすぐ始まると思って手伝いに表に出てきたところを迷宮装備をつけたままのダルディールに声をかけられた。
リュウイチ氏が魔道具の開発に忙しいので暫く迷宮での護衛は中止になっていたはずなのだが、何か他の依頼が入っていたのだろうか?
ダルディール程の高位探索者職員への依頼が記憶にないのは意外だが・・・と思っていたら、ダルディールの言葉が頭に入ってきた。
「え?
開発の為に休むと言っていた魔道具を、ですか??」
新しい魔道具の開発というのは最低でも数か月から数年かかるものだ。
リュウイチ氏が『自力である程度は魔物を倒せるようになりたい』と魔道具の開発を始めると言い出したことで、当然の事ながら半年から数年程度は迷宮の探索を中止するのだろうと思って招かれ人へのギルドの支援期間の停止と延期の手続きをしようと書類を取り寄せていたところだったのだが・・・。
「まあ、魔道具なんて無くてもデヴリンが斬撃で足止めしてくれればいいだけの話なんですから、開発を諦めたとしても構いませんし、支援期間中に探索で使う程度の足止め用魔道具だったらギルドで提供しても構わなかったんですが・・・どのような魔道具が出来あがったんです?」
何かの機能を持たせた魔道具を作る事自体は必ずしも難しくない。
それこそ、足止め機能だって強力な結界を張ればある意味魔物の足を止める事になる。
敵からの魔法攻撃は弾くのにこちらからの魔法攻撃を通すタイプの高価な魔道具を使えば王宮と探索者ギルドが付けている助っ人の2人がいなくても迷宮の上層程度だったら比較的安全に魔物を倒せるだろう。
問題は、経済性なのだ。
使い捨ての魔道具の値段ですら上層で倒せる魔物の買取り価格より高い事を考えると、高価な結界用魔道具なんぞますます使う意味がない。
より安く、使い易い魔道具を造ろうとするから時間がかかるのだ。
10日弱で出来上がった魔道具では経済性は目も当てられないものになりそうだ。
まあ、招かれ人であるリュウイチ氏だったら異世界人基金からいくらでも金を出せるのでどれほど素材が高級な魔道具であろうとなんとでもなるだろうが、それを割引料金で入手する羽目になる探索者ギルドとしてはちょっと頭が痛いかも知れない。
とは言え。
迷宮保存箱の特許料を探索者ギルドに譲ってくれたので、その代価だと思えば超高級結界魔道具を湯水のごとく使われても長期的には探索者ギルドの得る物の方が多いのだから、文句は言えないが。
「なんかもう、凄かったな。
魔物が走ってくる方向に適当に箱を投げると、近づいてきた魔物の前に粘着網の結界が展開されるんだ。
2頭でも2か所に結界が展開される。
3頭だと強度が足りないのか途中で破れていたが、それでも粘着網が絡みついていたからある程度動きは阻害されていた。
しかも結界が破られなかったらそのまま何度でも再利用できるようだったし、結界が破られても粘着粉を補充したらまた使えるそうだ」
ダルディールの言葉にスフィーナの目が丸くなった。
「何それ。
ありえないわ」
魔力灯のような再利用できる魔道具は幾つかあるし、それこそ今回開発している迷宮保存箱だって『魔道具』ではあるが中のダンゴムシの命を阻害要件として使っているだけなので水と餌を補給すればダンゴムシが死ぬまで再利用は何度でも出来る。
だが、結界は破られたら基本的に魔道具が壊れるので再利用できないし、粘着網を生成するようなタイプの魔道具が再利用できるなんて話も聞いたことがない。
「デヴリンも頭抱えていたな。
再利用できる戦闘用魔道具なんて聞いたことがないし、しかもそれが10日で開発できるなんて非常識極まりないって」
流石王立騎士団の副団長。
既存の魔道具の種類に関してそれなりに知識がある為に、リュウイチ氏の開発した魔道具の非常識さが分かったのだろう。
招かれ人を『勇者』として利用しなくなってからもう長い年月が経っているが、それでも彼らは現れるたびに政治的・経済的な動乱を招くことが多い。
リュウイチ氏の穏やかな気質を知ってから、そのような動乱が起きたのは過去の招かれ人の気質が激しかったのか、もしくは周りにバカが集まっていたのだろうと思っていたのだが・・・。
もしかしたら、招かれ人とは全員こんな存在なのだろうか?
招かれ人が不便を感じるごとに、10日弱でこんなとんでもない魔道具を造られたら確かに経済に大きなうねりが生じるのは当然の結果だ。
リュウイチ氏は利益を上げることに特に興味は無い様だが、過去の招かれ人の中には資金を持つことで身を守ろうとする人間もそれなりにいた。
リュウイチ氏のようにどんどん新しい物を開発し、そして彼のように最低限の特許登録だけして残りを既存の組織に任せるのではなく、自分の利益を最大化しようとされたら・・・招かれ人が現れた地域の商会などは壊滅状態になりかねない。
招かれ人が新しい技術を生み出すと言われているのに国の上層部が召喚に関して微妙な感情を有している理由が、初めて薄っすらと理解できた気がした。
隆一はいつでも回復師として職を見つけられると思っているし、いざという時は異世界人基金から金を借りれば良いと思っているので収入を得ることに特に拘っていません。
経済的に安定していなかった招かれ人(特に異世界人基金にがっつり金がたまる前の時代の被召喚者達)は『見も知らぬ異世界で身を守るには金が重要!』と思っていたのでそれなりに異世界の知識を使って積極的に金儲けに走った人も多く、経済界を大きく揺るがしちゃったこともありw




