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実は召喚したくなかったって言われても困る  作者: 極楽とんぼ


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488.付箋(10)

「ザファード。

毎日の気温や湿度、気圧を測定している組織ってあるのか?」

気象庁みたいなところがあっても良さそうだが。


なんと言っても気候の積み重ねは収穫にも影響するし、雨が多ければ土砂災害なども起きやすくなる。

迷宮からの収穫だけで国民全部の食糧を賄っている訳ではないだろうし、交易などにも天候は重要だ。

しかも異常気象が起きたりしたら森の生態バランスが崩れ、それを食べる魔物の数が異常変動して大繁殖スタンピードが起きるリスクだってあるだろう。


招かれ人がいる現時点では侵攻されるリスクは減っているらしいが、軍事情報としての側面もあるのだし。


・・・いや、軍事情報だったら集めていても隆一に教えてくれないか。


「気象情報は流行病の発生や普通に熱あたりで倒れる患者数などにも影響がありますからね。神殿と王宮がそれぞれ記録を取って研究しています」

ザファードがあっさり答えた。


お。

どうやら自分で計測器を作らなくても済みそうだ。


「商業ギルドもその情報を購入していますよ。

会員であれば使用料を払えばその情報を入手できます」

ダーシュが付け加える。


・・・良いのか、それ。

「気象情報は軍事行動に影響しかねないんじゃないか?

それを神殿はまだしも、商業ギルドの会員に有料とは言え明かしては不味い気もするが」


話がそれると思いつつもついダーシュに聞いてしまった隆一だった。

「流石に宣戦布告された場合は嵐が来るとか土砂災害の危険があるといった警報以外の情報は秘匿されますが、平常時はそこまで神経質になるよりは使用料を取って天気予測に研究費に回す方が効率的だろうというのがこの国のスタンスですね。

他国では竜巻が起きる予兆があろうが全ての気象情報を秘匿する国もありますが」

ダーシュが肩を竦めながら答えた。


最近はあまり戦争が起きていないという話だったが、常にそう言うことを計画しているもしくは警戒している国では機密保持が国民の命よりも重要なのだろう。


とは言え、きっと高位貴族や豪商は何らかの手段で命にかかわるような情報はゲットしているのだろうが。


「ふうん。

・・・ちょっと先日の魔力消費と体調不良の関係を確認する為の追加情報として、先週あたりからの日ごとの気象情報を神殿から購入できるか?」

『欲しい』と言えばくれる可能性も高いが、どうせ既に支払いが生じているのだ。

そこに追加項目として載せてくれる方が変な借りが生じなくて気が楽だ。


隆一の考えを理解したのか、あっさりザファードが頷いた。

「分かりました。

下町神殿の費用にそれも追加しておくよう、手配して情報はこちらに明日から持ってきます」


「助かる。

そう言えば、こちらでは気球でも使って上空での観測とかもしているのか?

場合によっては飛行具の改造版を提供しても良いが」

安全装置のテストに使ったような上下移動しか出来ない簡易飛行具だったら変な悪用はしにくいだろうし、魔力消費もそれほどではないので気球を一々上げるよりも効率的なのではないだろうか。


確か、上空の風向きの方が大きな前線の動きとかには影響が大きいと聞いた気がするから、天気の予測には重要な筈。


・・・こちらの世界の天気予報がどの程度発達しているのか知らないが。

何と言っても情報共有の手段が限られているのだ。

情報を集めて分析した時点で予測できる程度の『今日・明日の天気』は既に過ぎ去っている可能性が高いし、例え間に合ったとしても最新の天気予報をネットやテレビのニュースで広められる訳でも無いのだ。


そうなると王都の中枢部しかリアルタイムな意味のある天気予報を入手出来ないのでは無いだろうか?

1週間先とかの天気予報では精度がグッと下がるだろうし。


まあ、それでも商業ギルドで売っていると言うことは何らかに用立っているのだろうが。


地球の天気予報にしたって、コンピューターでガンガン計算する以外の方法だとどうやって天気を予測するのかも隆一は知らない。まあ、季節ごとの気圧配置や前線の動きとかはそれなりにパターンがあるのだろうから1、2日程度の観測と予測が出来るのかも知れない。


「気球、ですか?」

ザファードが目を丸くした。


「気象観測の場合、地上の風だけでなく上空の風の方向や強さが天気の予測には重要らしいぞ?

俺もあまり詳しい事は知らないが」

現代地球らしきそこそこ発達した機械文明や、反重力魔法陣を齎した宇宙にまで進出した魔法文明の世界から召喚された人間が過去にもいたのだから、そこら辺の薄っすらとした知識ぐらいは伝わっていても良そうなものだが、


まあ、宇宙に進出したような魔法文明だったらもっとぶっ飛んだ魔術で情報を得る方法があって参考にならなかった可能性もある。


それこそ、『気象衛星からの情報があると良いんじゃね?』と隆一が言ってもこの世界では復元できないのと同じで、突き抜け過ぎた技術は機械文明だろうが魔法文明だろうが専門技術を持った人間がピンポイントに召喚されない限り模倣出来ないだろう。


「・・・神殿は熱波で倒れる人の数の予測や流行病が蔓延する危険性の評価の為に気象情報を記録しているだけなので、あまり天候の『予測』に関する研究はしていません。

軍部の方がそう言った研究をしているので、今度騎士団の方にご相談してみてはいかがでしょう?」

暫し考えてからザファードが答えた。


「・・・そのうちな」

考えてみたら、隆一が欲しい情報は地上での気象情報だ。

旅行に行ける訳でも無いし、別に天気予報は必要ない。


そう考えると変に天気予報の分野に首を突っ込んで軍部に引き込まれる必要は無いだろう。

あちらだって安全装置のテスト用に簡易飛行具を使っているのだ。

気球を使うような場面で飛行具が使えるという事ぐらい、言われなくても気が付いているだろう。


隆一と交わした使用契約は『侵攻に向けた軍事利用は禁じる』と制限しているだけなので、気象観測に流用することは問題にはならない。


気象観測関連の作業をしている人間が飛行具に存在に気付くかは知らないが。


まあ、近いうちに安全装置のテスト報告に関してあちらの人間と会う事になるのだ。その際にでもさり気なく言及すれば良いか。


大きな組織での情報共有と情報漏洩防止は中々難しい問題ですよね。

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