48.足止め用魔道具(3)
現実的な話として、隆一が動いている狼や猪にピンポイントで針なりボールなりをぶつけるのはほぼ無理だ。
魔道具を投げつけて結界を展開させるのも・・・走り寄ってくる相手には外す可能性が高い気がする。
とすると、自分の前に壁のような形で結界でも展開しておいて、そこに魔物が飛び込んだら拘束する仕組みが起動するような魔道具が良いだろうか。
いや、人間相手にも使うかもしれないのだから、『魔物』ではなく、単に指定した座標範囲に一定以上の質量がある物が飛び込んできたら拘束という感じが良さそうだ。
「防犯結界や防御結界にそれ系の動き方をするのがあった気がするな」
考えを纏めながらメモ書きをしつつ隆一が呟いた。
「防御結界がどうかしましたか?」
隆一の声に反応したザファードが尋ねてきた。
「そう言えばさ、出歩く時に護衛をつけるか否かで揉めた際に防御結界でも張れたらいいかと思ったら、動く対象には結界を張り続けられないって分かったから諦めたんだが・・・襲われたらその場に結界を展開して相手の足止めをするような魔道具を造ったら、俺が一人で歩き回っても大丈夫だと思わないか?」
ザファードが小さく首を傾げた。
「どうですかね。
もしかしたら大丈夫かも知れませんが、その魔道具が完成したら神殿警備兵の誰かにでも襲撃してもらってどうなるか、試してみましょう」
「後ろから頭を殴りつけて誘拐っていうのは無しにしてくれよ。
流石にそういう危険は殆ど無いだろ?」
なんと言っても悪漢なり魔物なり、襲ってきた相手に対して魔道具を展開するのだ。
襲われていることを気づく前に後ろから殴られたのではどうしようもない。
ザファードがため息をついた。
「本当にリュウイチ殿は護衛が付くのを嫌がりますね。
では、その魔道具が実用的だったと判断された場合は魔術師か錬金術師のローブを着てなら出歩いても良いとしましょう」
「ローブを着ていたら切り札がバレちゃって不味くないか?」
「最初から切り札を切らなくて済むように威圧しておく方が物事が丸く収まるんですよ」
確かに、襲われない方が隆一にとってはありがたいし、隆一を襲撃したせいで魔術の攻撃を食らった上に『招かれ人に害を与えようとした』と警備兵に突き出されることになる暴漢も不幸だ。
最初から『襲うな危険』と周りに示しておく方が無難なのだろう。
魔術師や錬金術師を襲うような連中と言うのは、最初から相手の事を調べて危険が分かっていながらも何かの理由で襲撃するのだろうが・・・招かれ人というのはどんな理由があったって襲撃したほうが負けだ。
なんと言っても襲撃者だけでなく大元の依頼人まで天罰が下るのだから。
そう考えると、ずるずるとウザいものの、ローブを着て出歩くのが一番無難そうだ。
・・・というか、ローブを着ていれば足止め用の魔道具を持っていなくても大丈夫かも知れない。
まあ、どちらにせよ開発する予定なのでそれを一つ持ち歩いても構わないのだが。
それはともかく。
防犯結界と防御結界に関してはもう一度錬金術ギルドで確認する必要がある。
まずはその中で展開する足止めをどうするか。
電撃だと種類によって効果に違いがありそうなので、物理的に相手を止めるタイプの方が良いだろう。
となると、まずは粘着テープに変化するボールを調べてみよう。
「鑑定」
起動させる前の魔道具を鑑定する。
『粘着ボール型足止め用魔道具:20km/h以上の速度でぶつかった場合に破裂し、対象物の周りを時計回りに上方向へ回りながら粘着液で拘束する』
20km/hってどのくらいだったか微妙に記憶にない。
プロの野球投手が130km/h程度が云々と言う話を見た気がするから大した事は無いのだろう、多分。
粘着液の成分に集中して再度鑑定する。
『AREP168(通称:風蜘蛛)#D13::蜘蛛タイプ魔物AREP168の糸袋内液体を抽出・乾燥させてBQE205(通称:ネルデタール)の樹液と混ぜた化合物。魔力を含むと粘液化し、酸素と結合すると固まる特性を持つ』
とでた。
「なんじゃこりゃ」
隆一は思わず呟いた。
地球でも化学物質やアミノ酸などの名称がラテン語交じりの何なのか分からないカタカナの羅列となることは多いが、この世界ではそういった名称が何やら数字とアルファベットの羅列になっているらしい。
魔道具そのものを鑑定した時には普段と同じような名称とちょっとした説明が出てきていたので、成分に集中して鑑定するとアカシック・レコードで割り振られている記号が出てくるのだろうか?
ふと思い立って、以前採取しておいた大蜘蛛の糸袋を取り出してその中身の成分に集中しながら鑑定してみた。
『AREP254(通称:大蜘蛛)#D13:蜘蛛タイプ魔物AREP254の糸袋内液体』とでた。
#D13が糸袋の中の液体を意味するのだろうか?
AREPというのが蜘蛛系の魔物に割り振られた記号で、番号がその蜘蛛科の魔物の中の個別の種類に対する識別番号なのかもしれない。
番号の割り振りがどのようになされているのか、興味深いところだが・・・流石にこれは調べて回る暇は無い。
でもまあ、入手できる限りの素材を鑑定して、どのタイプの魔物にどのアルファベットが割り振られていて、どの番号がどこにいるのかを地図に纏めたり、強さを一覧表にしてみたりしても面白いかも知れない。
しっかし。
神様か、その助手役の天使か何かが、新しい魔物や動物が変異して定着するたびに番号やアルファベットを割り振ってアカシック・レコードが記録されているコンピューターモドキな端末に情報を入力しているのかもとか考えると、ちょっと笑える。




