47.足止め用魔道具(2)
探索者ギルドでスフィーナが職員割引を効かせてくれると言ったので、隆一はその言葉に甘えて人間用の拘束具3種類と、魔物用の足止め用魔道具を2つほど購入した。
スフィーナはただで譲ると言ったのだが、流石にそれは遠慮した。
下手に探索者ギルドに借りを作りすぎると後で技能がレベルアップした際に便利に使われそうで怖い。
ただより怖いものはないというのはこの世界でも通用する真理だろう。
その後に錬金術ギルドにも寄って足止め用の魔道具を調べてみたのだが、見本は幾つかあったものの売りに出ている現物は無かったので特許申請書にある魔道具の構造スペックの記憶だけして帰ってきた。
探索者ギルドでゲットした人間用の魔道具は、テイザー銃(ドラマでアメリカの警官が使っているスタンガンの一種)のようなワイヤーのついた針を相手に撃ちこんで電撃を与える物と、自分の周りに広範囲に電撃を出すタイプ(味方が半径3メートル以内に居たら巻き添え必至)、そして最後の一つは何やらボールの様で、ぶつけるとそれが粘着テープの様なネバネバな物体に変化して対象をぐるぐる巻きにすると言う中々ユニークな物だった。
非常に面白い。
が。
味方巻き添えタイプ以外だと、まずはボールなり針なりを相手に命中させなければならない。
つまりかなり隆一にとってはハードルが高いことになる。
「面白いんだけどなぁ・・・」
アメリカにいる間にせめてハンドガンを撃つ練習でもしておくべきだったのかも知れない。
まあ、こっそり家に押し入ってきた強盗や、『金を出せ』と言って立ち止まってこちらを脅しつけてくるごろつきに対して銃を撃つのと、狼や猪のような動きの速い動物(魔物)が襲い掛かってくるところを撃つのでは命中度に大きな差が出ただろうから練習していてもあまり役に立たなかった可能性は高いが。
対魔物足止め用魔道具は魔物の足元に魔道具を投げつけて結界を展開するタイプだった。
一つはその結界の中で重力を3倍にして動きを鈍くさせる物、もう一つは結界の中で空気に触れると固まる粘着網を展開させる物だ。
「重力を操る術があるのか。
もしかして、飛行船にも使っているのか?
というか、重力を増やせるなら反対に減らせば荷物運びをかなり楽に出来るだろうに。
ザファード、荷物を軽くするような魔道具は無いと言っていたよな?
重力を操る術があるならば荷物を軽くできるんじゃないのか?」
部屋の隅の机でいつものように書類と格闘しているザファードに声をかける。
「詳しい事は知りませんが、重力を増やすのは比較的簡単なのですが減らすのは難しくて、飛行船ぐらいの大きな物ならばまだしも馬車にすら使おうと思ったらかなり場所を取る上に高額になると聞いた気がしますね」
書類から目を上げたザファードが答えた。
なるほど。
馬車ですら難しいなら、通路に狭い箇所もあり、階段を登り下りしなければならない迷宮に持ち込める形で製造するのは更に難しいのだろう。
だが、重力に作用する魔術があるとは・・・面白い。
魔術そのものが不思議テクノロジーだし、結界や回復の術だって地球の技術では再現不可能な現象だが、重力を操れるというのは何とも更に一層に不思議テクノロジーな気がする。
重力を反転出来れば空を飛べるかも知れないなんて考えてしまうのは、男としての本能的な野望のようなものなのではないだろうか。
まあ、女性でも空を飛びたい人はいるだろうし、男でも高所恐怖症で空を飛びたくない人間もいるだろうけど。
どちらにせよ。
これは是非とも研究せねば。
研究したいことが沢山ありすぎて迷宮の探索もストップしてしまいたい気もするが・・・引きこもらずに時折出かけるのは良い事だし、基礎能力を上げて魔力も増やしておく方が研究で試作品を作るのも捗るだろう。
「まずは足止め用の魔道具だな」
ちょっと興奮した精神を落ち着かせるためにお茶を淹れながら隆一は自分に呟いた。
興味が引かれたことに手当たり次第に手を付けていたらどれもこれも中途半端になってしまう。
まずは足止めの道具を作ろう。
ちなみに、錬金術ギルドにあった足止め用の魔道具はブスっと対象に刺したら魔力を一気に抜き去って気絶させるタイプの物と、近くに投げつけて結界を展開させ、氷漬けにする物だった。
「魔物って魔力を抜くと気絶するのか・・・」
「人間でも魔力を使い切ると倒れますよ。
以前気をつける様に説明しましたよね?」
魔道具の構造スペックを頭の中で見直して呟いた隆一に、ザファードが声をかけた。
少し声に棘がある。
「そう言えばそんなことも聞いたな。
気絶する前に気持ち悪くなるから、使い切るなんてことが無くて忘れていたよ」
魔力がある程度以上減ると頭がガンガン痛くなる上に吐き気がするのだ。
あれを我慢して気絶するまで魔力を使い切れる人間がいるということ自体が意外だ。
迷宮に行かない日に毎朝やっている魔力チェックでも、基本的に頭痛の兆しが出てきたら止めているのだが・・・一度、寝る前にでも頭痛の兆しが出た段階から気絶するまでにどのくらい魔力を籠められるのか、確認しておくのもアリかも知れない。
気絶するまで魔力を使わなければならない程に自分が追い込まれる状況なぞ想像もつかないが、『ちょっと無理をした』つもりで気絶しては格好が悪いし、魔力回復剤も飲めないので回復そのものが遅れる。
『頭痛の兆しを感じる』から『気絶する』までの魔力の使用量を把握しておくのは、もしもの時の為にも悪くはないだろう。
いくら天罰によって守られた招かれ人だとは言え、ここは日本よりは圧倒的に物騒な世界なのだ。
誰かに間違えられてとか、巻き込まれで命が危険に晒される可能性はゼロではない。
自分を害した人間が天罰で殺されるというのは一種の慰めになるが、折角色々と魔法を使った研究が出来る世界に来たのだ。
どうせならば年を取ってボケるまで、研究に精を出したい。
ザファードに怒られないように、こっそりベッドの上で寝る準備をして気絶する予定w




