46.足止め用魔道具
「あ、リュウイチ殿!
丁度よかった、少し時間を頂けますか?」
森狼の革と魔石を売り払おうと探索者ギルドに寄ったらスフィーナに捕まった。
隆一としても足止め用魔道具に関して聞きたいことが有ったので頷いたところ、そのままカウンターの奥の小部屋に連れ込まれる。
「こちらが迷宮保存具のテスト結果です」
ばさばさっと紙を渡された。
どうやらダンゴムシ保存箱は『迷宮保存具』と呼ばれることになったらしい。
箱を分解すれば中に何が入っているのか分かるだろうが、態々名前で明示する必要はないということでそれっぽい名称を決めたと教えられた。
渡されたテスト結果にさっと目を通したところ、大体想定内な情報が書かれていた。
物が迷宮に吸収されない条件も細かくテストされているし、ダンゴムシの生存の為の餌や水、湿度も詳しく確認されている。
かなりの数のダンゴムシが犠牲になったようだが、これで安心して使えるだろう。
「・・・ちなみに、ダンゴムシの寿命ってどの程度なのかな?
餌や湿度を最適な物にしても小さな虫なんだからいつまでも生きているとは思えないけど・・・。
それとも、どこぞのダニみたいにガンガン卵を産んで増えていくから寿命を心配する必要はないのかな?」
考えてみたら、ダニだったら探索者の服や荷物には絶対に湧いていただろう。
それでも荷物や死体が迷宮に吸収されることを考えると『命のある存在』が迷宮の吸収を阻害するとは言っても、サイズはある程度必要とされるようだ。
・・・保存具に入れる虫をどんどん小さくして色々と実験してみたくなるが、小さな虫が逃げないようにするのは大変だし寿命も短そうだから、ダンゴムシあたりが妥当か。
そこまで深く考えて選んだ選択ではなかったのだが、当たりだったかもしれない。
「ダンゴムシの寿命ですか。
確かにそれは考えていなかったですね。
適当に植木鉢で増えたのを使っていますが、どれも生まれたばかりとは限りませんし。
卵からライフサイクルを把握しながら増やして保存具に入れていく必要がありますね」
スフィーナが何やらメモを取りながら頷いた。
探索者ギルドは魔物の養殖も何種類かこなしているせいか、どうやら寿命サイクルの管理に関するノウハウもそれなりにありそうだ。
「これならしっかり実用性のある迷宮保存具が出来そうで良かった。
完成したら俺にも使わせてくれ。
ところで、魔物を足止めする用の魔道具ってどんなのがあるか一覧表みたいのあるかな?
使い勝手を教えて貰えたら良さそうなのを自分用に作ってみたいんだけど」
錬金術ギルドにも魔道具の一覧表はあるが、あちらのリストは基本的に発明された魔道具全てである。
使い勝手が良いかは錬金術ギルドの登録書類からでは読み取れない。
販売部に確認すればどのくらい売れたかも分かるのでそれなりに使い勝手も推測できるが、値段と効能の関係もあるから必ずしも使いやすい魔道具が沢山売れたとも限らない。
なんと言っても自作するのだ。
余程原材料が高いとでもいうのでない限り、ちょっとぐらい店売りの販売値段が高くても隆一にとっては問題ではない。
「足止め用の魔道具ですか。
魔物用だとそれなりに下の層で使う強力な魔道具しかありませんが・・・警備隊が使う犯罪者拘束用や商人の護衛が人手の足りない時に使う広範囲足止め用の魔道具を試してみますか?
人間用の物だとタイプによっては魔物に効きませんが」
ちょっと首を傾げて考えた後、スフィーナが答えた。
なるほど。
確かに倒しても一匹分の魔石と革の買取りに討伐報酬を合わせて5パド(=1000円)にならないような下級魔物に一つ10パドや20パドするような魔道具を使う探索者はいない。
だが、人間の拘束用となればそれなりに需要はある。
ただし、電撃ショックタイプなんかだと魔物によっては耐性を持っていて効かない場合もある可能性は高いのだろうが。
どちらにせよ。
使い勝手が良くて広く使われているタイプと、その他のものも色々研究して自分に合った足止め用魔道具を造れないか研究してみよう。
人間にも使えるとなったら街中で持ち歩けば一々護衛についてきてもらわなくても良くなるかもしれないし。
誘拐する為に後ろから頭を殴られたりしたら足止め用魔道具を持っていても無駄なんですけどね・・・。
まあ、そこまで殺気とか気配を察知できる人はこの世界でもそれ程いないと想定すれば、取り敢えず襲われそうになった時に相手の足を止めて逃げられるようになったら一人前ということでw




