411.迷宮14階再び(3)
「イマイチだな・・・」
ヘルメット型センサーをつけてゆっくりと森の傍を歩いていた隆一は暗殺蛇を見つけて立ち止まり、ため息をついた。
穴兎を狩りまくり、そろそろ運搬具も一杯になって来た上に腹も減ってきたので上に行こうと15階へ降りる階段へ戻る途中なのだが、ついでに暗殺蛇を探してみたのだ。
昨日、やっと熱センサー魔法陣の画像処理の箇所を見つけ、一番簡単な改善策として暗視スコープっぽくしようと見える画像を全般的に緑色系統にするようちょっと手を加えてみたのだが・・・微細な温度差が見えやすくなった、かも??という程度で大して役には立っていなかった。
緑が一番視認性の高い色だから暗視スコープが緑になっているとどこかで読んだ気がしたので変えてみたのだが、元々白黒ではなく色がついて見えていたスコープの映像なので緑になったからと言って特に見やすくなったかと言われると・・・微妙なところだ。
温度変化があるところに無理やり注意を引くような画像処理をしないとダメっぽい。
かなり変な映像になりそうな気がするので心配だが。
空気なり木なりを『ベース温度』として設定させて、そこからの温度差で色付けするようなかなり介入度の高い変更でも加えないと、厳しい気がする。
取り敢えず、9階の陰蛇のピット器官を使ったらもっと見やすい魔道具になるか、試してみよう。
・・・暗殺蛇のピット器官はどうなのだろうか?
確保の難しさを考えると素材価格が一気に上がるので商業的には駄目だが、自分で使うようにはより見やすい結果が出るなら確保しても良いかも知れない。
「氷矢!」
ということで、暗殺蛇も確保。
頭を砕けないので胴を串刺しにして、巻き付いていた木の枝ごと切り落とした後に首を切り落とすというかなり時間のかかる狩り方になってしまった。
考えてみたら陰蛇も同じように頭を潰さないよう狩らねばならない。
死ぬまでに時間が掛かってちょっと可哀想な気もしないでも無いが、しょうがない。
じっくり鑑定していくと、やはり目と鼻の間の所に何かある。
『RZQA110(通称:暗殺蛇)の熱探知器官。30メートル以内の10度~50度の熱を感知する』
アラクネの熱探知器官よりもそこそこ機能性が高い。
これは是非、9階の陰蛇とも比べて、センサーに組み込めるものなら組み込んでみたいところだ。
「暗殺蛇もしっかり見つけられるようにこのセンサーを改造出来たら、14階は俺の為にあるような階層になりそうだな」
なんと言っても魔物が走って襲い掛かって来ないのはありがたい。
だいぶ慣れてきたとはいえ、やはり走り回って襲い掛かって来られるというのは緊張するし、もしもの時の危険が大きい。
だが、14階だったらヘルメットが万全に機能するようになりさえすれば、一人で来ても何とかなりそうなぐらいだ。
15階を通りすぎなければならないし、二本足の『人間』という危険な存在がいるので一人で動き回るのは周囲から認めてもらえないだろうが。
「・・・確かに、その隠密系の魔物を見つけられる魔道具さえあれば、この階層は後衛系の基礎能力アップと金稼ぎに良いかも知れないな」
デヴリンが頷きながら合意した。
「そう言えば、軍部の魔術師なんかはどうやって基礎能力アップをするんだ?
訓練はまだしも、基礎能力をアップさせるのに実戦方式というのはちょっと怖い気がするが」
迷宮だけでなく、普通に地上で魔物を倒した場合でも基礎能力は上がる。
軍部が迷宮に潜っているという話を特に聞かないことを考えると、軍は町や村の外を徘徊する魔物を狩ることで基礎能力を上げているのだろうが・・・大繁殖の時以外だったらちょっと数が少なそうだし、大繁殖の時では危険すぎそうだしで、防御力の低い魔術師なんかの基礎能力アップは中々難しそうだ。
それでも頑張って物理職で守りながら何とか育てるのだろうか?
外の巡回に参加する魔術師は少ないと聞いた気がするが。
「よし、その『せんさー』っていう魔道具が完成したら、是非軍部の方に売ってくれ。
それさえあれば14階で手間を掛けずにガンガン基礎能力アップが出来る!」
デヴリンがにっこり笑いながら言った。
「確かに。
探索者ギルドにも時折どうしようもなく戦闘に向いていない癖に基礎能力を上げたいから協力しろという依頼が来ることがある。
是非ギルドの方でもこの魔道具を買わせてくれ」
ダルディールも頷きながら口を挟んできた。
まあ、魔術師なんて元々もやしタイプのインドア派が多そうだ。
戦闘に向いていない研究職肌のもいるだろうし、そう言う人間だって魔力の量を増やすためには基礎能力アップをしたいだろうから、14階(とヘルメット型センサー)に対する需要はそこそこ高そうだ。
「分かった。
暗殺蛇もちゃんと見つけられるようにしたら喜んで売りつけさせてもらうよ」
訓練でも能力はアップしますが、魔物を倒すのはレベルアップ的な別次元の底上げ効果があるので軍人には必須です。
とは言え、ひ弱な魔術師系を安全に育てるのは中々難しかったり・・・。




