40.『好奇心』だけでは駄目ですね(4)
『建国後XX年』を『グルダルヴァ暦XX年』に変更しました。
さて。
資料がありそうな場所が分かったが、わくわくした顔でこちらを見ているイルベルトを無視して読書にふけるのも微妙だ。
「午後一杯を使って教えてくれた本を読もうと思うが、取り敢えず先に安くて美味しい昼食を食べられる店をこの近辺で知っていたら教えてくれないか?」
昼食を食べる間の会話に付き合って、それで借りは返したことにしよう。
隆一の言葉にイルベルトが嬉し気に立ち上がった。
「任せてください!
あまり人が来ない、良い店を知っているんですよ~」
図書館の出口へ歩きながら、隆一はイルベルトに気になっていたことを尋ねた。
「ちなみに、イルベルトのギフトは一般的にどういう使い方をされるんだ?」
密偵とは地球で言えばスパイと似たような物だろう。
CIAやMI6向けな性格か能力を持っているのだろうか?
自国に都合がいい政治家が政権をキープできるように他国に武器を売りつけたり国民の不満を掻き立てたりといったかなりよろしくない活動をやっていたという噂のCIAの様な活動を、ギフト持ちだからとこんな若いのがやっているとは考えたくない。
もう少し温厚な、戦争回避のための情報収集程度であることを期待したいところだ。
「正直なところ、僕のギフトって『知りたがりな性格』というのが大元だと思うんですよね~。
何でも知りたがるから、色々なことが気になるし、細かい違和感も『気のせい』で済まさずがっつり調べちゃう。
ちょっと耳にしたことや、ちらっと見たことを覚えていてそう言った情報の断片を集めて裏で進んでいた計画を見抜いた・・・という能力を発揮した人も過去にはいたようです」
なるほど。
知りたがり屋だから色々調べるし、普通の人だったら『気のせいだろう』と無視してしまうことも覚えていて、他の情報とつなぎ合わせて答えを見出すのか。
まあ、悪用せずに国の治安が安定するように働くのなら、必要とされる能力の一つなのだろう。
「ちょっと失礼な質問かもだけど、そのギフトを持っていて、それを悪用しそうだと思われた場合はどうなるんだ?
というか、国の上層部としては悪用しそうな人間は拘束するなり見張っておくなりしておくべきだと思うが、やっているのか?」
最初から悪用するだろうと決めつけられて弾圧されたらあっさり悪に堕ちる可能性が高いギフトな気がするから、扱いには細心の注意が必要だろうが。
「一応、このギフトが見つかった場合は神殿の方で人格が歪んでいないかは確認して、根本的に問題があるタイプだった場合はギフトを封じるらしいですね~。
ギフトというのは神様からの贈り物なので余程のことが無い限りは封じないんですが、偶に家庭の環境が酷すぎてギフトが確認された段階で人格が救いようなく歪んじゃっている場合もあるんで。
極端な問題がある場合以外では、国から離反しないように家族が優遇されることが多いんですよ?
勿論、理由は秘密にされますが」
なるほど。
家族がいれば確かにそれとなく家族を優遇して国と利害が一致させるのが無難だろう。
・・・孤児でこのギフトを発現した場合にどうなるのか、ちょっと心配だが。
孤児院とかに親しい人がいればいいが、いないとヤバそうだが・・・取り敢えず考えないでおくことにしよう。
「ふ~ん。
他の国に留学しまくっていると言っていたから、イルベルトはこの国と上手くやっているようだな。
ちなみに、この国と周辺国の関係ってどうなんだ?
少なくとも俺がここに住んでいる間は戦争とかは是非とも避けてもらいたいところなんだが」
いくら招かれ人を死に至らしめたら天罰が下るということで戦場に送られるリスクがほぼ無いとは言え、知り合いとかが戦争で死ぬようになったらやはり気まずい。
イルベルトが肩を竦めた。
「大丈夫ですよ。
召喚の神託が下ったからには、招かれ人が生きている間はヴァサール王国が戦争には巻き込まれることはまずなくなりましたからね。
費用が掛かるし色々上層部には心労があるらしいですが、召喚をすることの一番大きなメリットは、軍費を削れることだと最近は言われているんですよ~」
思わず隆一の足が止まった。
「マジか?
戦場に行くことは無いとは言われたけど、国その物が戦争に巻き込まれなくなるとは聞いていないぞ?」
「戦争が起きると親友や恋人や恋人の家族が戦場に行くことになる可能性がありますからね。
数百年の間にとばっちり天罰が色々な国の上層部に落ちた結果、基本的に招かれ人がいる国は戦争に関与させないのが一番だと言うのが最近では常識として受け入れられているんです」
以前は招かれ人を『勇者』扱いで戦場に駆り出していたと言うような話を聞いたと思ったが、それはかなり昔の事だったようだ。
確かにちらっと神殿長のヒュゲリアから聞いただけで、実際の一般常識的な知識として教わった情報の中には具体的な話は出ていなかったが、そんなに昔の話だったのか。
「だが、召喚は国が毎回変わるにせよ、どこかで30年に一度ぐらいの頻度で行われているんだろう?
招かれ人が俺と同じような年代の人間だとしたら、その後60年近く生きると考えるとあちこちに招かれ人がいることにならないか?」
旧グルダルヴァ帝国の歴史を見ていた限り、この世界では戦争はそれなりに起きていたようだが。
「あ~まあ、ちょっとした国境での小競り合いとか、国を割っての内紛とかはまた別ですから。
でも、本格的に大掛かりな戦争はもうここ数百年、殆ど無いですよ?
どうも神様も戦争を面白く思っていないのか、招かれ人がいないうちにやってしまおうと戦争を計画していたら相手の国に召喚の神託が下る事もちょくちょくあるみたいだし」
・・・もしかして、ヴァサール王国もどこかの国から宣戦布告されるところだったのだろうか?
悪びれずに好奇心をむき出しに話しかけてくる相手の方が、つれなくしにくいですよねw




