39.『好奇心』だけでは駄目ですね(3)
『建国後XX年』を『グルダルヴァ暦XX年』に変更しました。
「しっかし、ヴァサール辺境伯の話が全然出てこないなぁ」
取り敢えず目についた旧グルダルヴァ帝国の本には殆ど言及が無い。
王家の始祖とでもいうべき人物の出世話が王立図書館に殆ど置いていないとは、不思議なことだ。
探す場所が悪いのか。
パラパラと捲って中身が薄そうな本を後回しにして調べたのだが、そちらにしっかり目を通していくしかないか。
そんなことを考えながらため息をついたら、先ほどからちょろちょろと本を探す様子で隆一のことをチラチラ見ながら部屋に出入りしていた若いのから、声をかけられた。
「あの~、何か探しているのでしたらお手伝いしましょうか?」
好奇心一杯な顔でこちらを見ながら何度も出入りしていたので、いつ声をかけてくるかと思っていたのだがどうやらやっと動く決心がついたらしい。
「そうだな。
ちょっと初代ヴァサール辺境伯の旧グルダルヴァ帝国における活躍について調べているのだが、意外と資料が見つからなくてね」
隆一の言葉に、少年と青年の間位の年齢の若い男はぴょこんと元気に斜め迎えの椅子に座り込んだ。
「ああ~。
初代ヴァサール辺境伯の話はこの国ではちょっと微妙な扱いになっていますからね!
偉大な人物だったんだから王家の始祖として皆も自慢にすればいいのに、隣のファルーナ国で探す方が資料が沢山あるぐらいなんですよ。
あ、僕はイルベルト・レイナナルと言います。こんにちは!」
「隆一だ。
王家の先祖なのに、なんで微妙な扱いなんだ?」
「初代ヴァサール辺境伯は貧乏男爵家に婿入りした男爵が、奥さんが長男を身ごもっている間に手を出した女中に産ませた庶子だったんです。
しかも長男よりも頭も魔力も武力も優れていたから男爵夫人に目の敵にされて、探索者になってからも命を狙われたし、金ランクになって皇帝に請われて騎士団に入った際にも散々邪魔をされたせいで帝国中でもその生まれが有名になっちゃって」
にこやかに笑いながらイルベルトが答えた。
「ただの平民だったら『平民から叩き上げた立身出世した人物』と謳われればいいし、親が分からない孤児だったら『とある偉人の落とし子』と脚色できたし、普通に貴族の子供だったらそれはそれでよかったんだけど。
下級貴族の女中に産ませた庶子じゃあどうもお上品な貴族様達には気まずいみたいで」
王家の先祖で、そこらの貴族よりもよっぽど生まれのはっきりしている人物なのに、なまじ生まれが『はっきり』しているからこそ今の貴族様や王族には女中に産ませた庶子という事実が微妙らしい。
この国の貴族全てがその初代ヴァサール辺境伯もしくは彼の子孫に取り立てて貰った平民なり庶子なり貧乏貴族の次男・三男だろうに。
そう考えるとイマイチ貴族制度というのは好きになれないかもしれない。
まあ、日本でも『愛人の子供』と知れ渡っていたりしたら学校でいじめが起きていたから、本人にはどうしようもない生まれ等を人を見下す基準にする卑しさはどこの世界でも同じなのだろう。
それを自国の王家の先祖に当てはめるところが凄いが。
というか、通常なら見下す相手なのに、見下せないから気まずいのかな?
「ちなみに、金ランクの探索者から騎士団に入って活躍した話とかも、この王立図書館には置いてないのか?」
取っておいでとボールを投げられた犬のようにイルベルトが元気に立ち上がり、先ほどから隆一が見ていた書架より右の方へ行って分厚い本を取り出してきた。
「あ、それだったらこの本が良いかな?
旧グルダルヴァ帝国のグルダルヴァ暦400年前後の戦乱の話が詳しく載っているから。
これは鎖付図書の写本なんです。
初代ヴァサール辺境伯の活躍に関する話は鎖付図書に他にも何冊かありますよ」
おや。
どうやら探す範囲を間違えていたらしい。
普通の本では無く、超高価で貸し出し禁止な装飾本が揃えられているところが誰かお偉いさんの複雑な心境を表しているのだろうか?
どうせだったらもっと気軽に誰でも読める普通の本で揃えておけば良いのに。
せめて、きちんと貸し出し出来る写本を揃えておくべきだろう。
まあ、どうでもいいことだが。
「イルベルトは歴史学者なのか?」
隣国の図書館事情を知っているとなると、まだ若いが他国に行くほどの学者なのかもしれない。
「いいえ~。
僕は密偵のギフト持ちなんです。
何でもかんでも知りたがるんで、煩いから分別が付いて落ち着くまで他の国に行ってろって言われて周辺国に留学しまくっていたんですよ~。
でも、今度招かれ人がヴァサール王国で召喚されたって聞いて、是非とも自分の目で見たいと思って帰ってきちゃいました!」
密偵のギフト。
そんなものがあるのか。
あっさりとバラされたそれなりに重要そうな情報に思わず隆一の顔が引き攣った。
「ギフトのことをそんな風にバラして良いのか?
10年なり20年なりしたらお前さんも国家機密を扱うような重職に着くことになりそうな気がするが」
イルベルトが笑いながら首を振った。
「良いんですよ!
招かれ人は何でも知る権利があるんですから!」
「おい。
禁書庫をあさりに入る口実に俺を使うなよ」
政治的に危険な情報に安易な好奇心で手を出すことは既に諦めているのだ。
いくら国の上層部に説明しなくて済むとしても、勝手に自分の名でヤバい情報を集めてこられても困る。




