387.実務は任せちゃいたい(2)
「誰か新しく雇いますか?」
ザファードが静かに尋ねた。
「ああ。
ザファードは招かれ人たる俺が、周りの思惑で変に強制されたり不本意な目に合わないように色々手伝ってくれるのが本来の役割だろ?
俺の主たる収入源が開発なせいで特許関係の面倒な手続きをほぼ全部やって貰っているけどさ。
更にこの上に生産や販売に関することもやってくれって言うのは無理がある。
この際、軍事関係の理解があって、商業関係でも顔が広く、生産管理とかも指導できるような誠実で有能な人間を雇えたら良いんだが・・・どっかに良い人材、いないかな?」
自分で言っていて無理があるだろうと思った隆一は思わずため息を漏らしながらお茶へ手を伸ばした。
残念な事に、現実において有能な人間と言うのは基本的にかなり限られた資源なのだ。
しかも有能であれば既に自力で事業をやっていて今さら雇われ人になりたくないか、もしくは大きな組織でそれなりに責任のある地位についていて隆一が提供できる給与なんて鼻で笑うような収入がある可能性も高い。
やってもらいたい事の範囲が広まれば広まるだけ、それが出来る人間で自由に転職できて転職したいと思っている人数は少なくなる。
まあ、場合によってはゴマすりが嫌いな有能な人材が上司に恵まれなくて燻っているケースもあるだろうが・・・商業と生産に詳しい上に軍事にも明るい人間なんて言う条件そのものもかなり難しい。
「誰かを雇いたい時に全ての条件が一致した人材なんてそう見つからないと思いますが、妥協できない最低限の条件はなんですか?」
軽く首を傾げながらザファードが尋ねた。
「まあ、知識はこれから学べばいいから、最低限の要件として誠実で、それなりに有能で、分からないことは自分から質問して理解しようとするタイプの人間であることだな。
よぼよぼであと数年でボケそうな老人は困るが、それ以外だったら年齢・性別・国籍・家族構成は何でも構わんぞ」
がっつり条件を削る。
まあ、国籍に関しては外国人を隆一が雇うことは国が嫌がるだろうが。
「・・・性的志向に関してはどうですか?」
暫し考え込んでいたザファードがお茶に手を伸ばしながら尋ねた。
「未成年者がターゲットな人間は駄目だが、それ以外の場合は他の人間に迷惑を掛けないんだったら基本的に何でも構わんぞ。
そう言えば、この国は性的志向に関して何かタブーがあるのか?」
中世ヨーロッパやイスラムの世界では同性愛は禁じられていたが、日本では衆道は武士のたしなみに近い扱いだった。
現代日本や欧米では性的マイノリティは一応市民権を得つつあったが、それでも現実ではそれなりに偏見の目で見られ、イスラム国家では今でも下手したら処刑される国だってあったはず。
性的志向というのはかなりデリケートな問題だ。
はっきり言って召喚直前の失敗に疲れた上にこちらでの招かれ人の利用価値の高さからハニトラが怖すぎて、男も女も現時点ではそう言う意味の興味が皆無になった隆一は特にこの話題に関して聞いていなかったことに気が付いた。
「未成年者を性的に扱うことは法で禁じられています。
同性愛は禁じられてはいませんし一応神殿で結婚することも可能ですが、やはり社会的にはマイナスな評価に繋がりますね。
工房の共同経営者をしていた腕を買われて商業ギルドに入った知り合いで、配偶者が同性であるために結局ギルドの上層部から煙たがられて正当な評価をされていない人がいるんです。
実家が先祖代々軍人一家なのでそう言った方面の知識や知り合いも多いと思いますし、理想的かも知れませんが・・・どうでしょう?」
人格について何も言われなかったが、ザファードがここで提案してくるのだ。
それなりに誠実な人格なのだろう。
「本人が俺の為に働くのが吝かでないんだったら良いんじゃないか?
なんだったら暫く個人として俺に雇われて、お互い相性が良さそうだったらそいつが自分の事業を立ち上げて部下を雇えるようにして事業を広げていっても良いし」
隆一が手当たり次第に節操なく開発を続けていけば、商業関係のビジネスは色々と増えていくはずだから部下も必要になるだろう。
機密保持の為に色々と気を付けてもらう必要はあるが、そこら辺は勝手にやって貰う方が隆一も楽だし、相手にしても小さくても自分の事業のトップという方が気楽な可能性もある。
まあ、そこら辺は本人が成功するかも分からない新しいビジネスの為に安定した現在の職場を捨てる気があるかにもよるが。
開発者の為に商業ギルドの代わりに製造・販売を手配するエージェントみたいな職業はそれなりにニーズがあるだろうから、ビジネスを隆一だけに限定する必要は無い。
ザファードが薄く笑った。
「確かに、製造・販売を商業ギルドに任せすぎるとそのうち嘗められるかも知れませんからね。
人材があるならこちらで手配した方が安心でしょうし、そこら辺は拡大の余地が大いにありという事で釣ってきましょうか」
「本人が釣られたいと思っているんだったら、頼む。
別に極端に急ぐ訳ではないんだから、そいつが転職を考えていなかったら他の人間を時間をかけて探すなり育てるなりしよう」
正確には『しよう』というより『してくれ』だが。
特許登録だけして製造販売をいつも商業ギルドに丸投げしたらかなり中抜きされますよね。
美味しいビジネスを取りさられたらギルド側は悲しみそう。
招かれ人の隆一に露骨に嫌がらせはしにくいのが幸いなところ?




