37.『好奇心』だけでは駄目ですね
「王家のご先祖様が王都迷宮を攻略した時の書籍って王宮図書室に行けば読めるのかな?」
迷宮3階の野菜に脱力した隆一は、適当に周辺をマッピングし、カボチャを幾つか集めて4階への階段の位置を確認して帰った。
そして翌日にザファードを捕まえて質問したのだが・・・。
「建国に関わる記録やその後の王族に関する記録は王家のプライバシーや正当性に関わる可能性があるので、子供向けのおとぎ話のような絵本や教科書に載っている程度の歴史書を除いた研究書や書籍の多くは禁書庫に保管されています。
招かれ人である隆一殿でしたらそれなりの理由があれば全て閲覧できますが、どういったご理由でしょうか?」
返ってきた返答は意外にも渋かった。
「え、禁書なの??
単に辺境伯としてこの土地を下賜されて、迷宮を攻略して領都を栄えさせて国にしていったというだけだろう?
別に隠さなくちゃならないような情報は無いように思うが」
と言うか、現時点では国に成り上がった頃の情報は特に必要ない。
どういう考えに基づいてダンジョンマスターに今の迷宮を交渉したのか知りたかっただけなのだ。
隆一の言葉にザファードが肩を竦めた。
「王家というのは莫大な利権を有しているのですよ?
それを乗っ取れるような隠し子の情報のようなものを見出されたりしたら面倒じゃないですか。
第一、どの王家だって自分の配下の貴族に独立されて国を築かれたりするのは避けたいですからね。
いかに王家の設立に成功したかなんて情報が開示されている訳がないでしょう」
ギフトというフィルターで最低限の有能さを確保している王家といえども、『血統』をその継承の正当性の礎としているだけに、『正当な後継者』の血筋が他にあるかもと思わせるような情報は開示させないらしい。
危険な情報を開示しないのはまだしも、研究書までも潜在的に危険と見なされて禁書扱いというのは驚きだった。
『勝てば官軍』と言う言葉がある様に、権力者とは勝者が自陣に都合の良い歴史と偉業を適当にでっち上げてでも書き立てると思っていたので、詳しい書籍は一般公開されていないと言うのはかなり意外だ。
権力を持つ王家というものに縁がなかった隆一にはイマイチ実感が湧かない話だが、神による王権授与が実在する世界では情報管理に神経質にならざるを得ない部分があるのかもしれない。
ふと、ザファードの言葉が隆一の注意を引いた。
「『いかに王家の設立に成功したか』って独立宣言して武力と経済力でそれを既成事実化したんじゃないのか?」
「勝手に宣言して王家を名乗るだけでは後継者に確実に統治に向いたギフト持ちが生まれるようにはなりませんよ。
それではどこもかしこも国だらけになってしまうではありませんか」
おっと。
神が介入してくれるだけの『正当』な王家になるには何か条件があるらしい。
理論上はちゃんと子供と部下の教育をしっかりやっておけば、適切なギフト持ちが必ず王位後継者に生まれるように神様に介入してもらわなくても大丈夫なはずであるが、現実的な話としてそれでは後継者争いが勃発するリスクが高いだろう。
もしくは愚王が擁立されてしまって国が傾くか。
周りの国がそういう問題に悩まされないのだとしたら、周辺国で唯一後継者問題に悩まされる国と知れ渡ってあちこちから狙われるだろうし。
「どういう条件を満たせば神様が後継者問題で介入してくれる王家になれるんだ?」
「さぁ?
競争相手を増やさないために、どこの王家も自国が認められた条件を開示していないですからね。
国家の最高機密ですよ。
だからこそ、そのヒントが潜んでいるかもしれないような建国関係の情報はどこの国でも禁書扱いなのです」
なるほど。
確かにそういう風に言われれば、王家のご先祖様の話が禁書扱いになるのも納得がいく。
「・・・そんな最高機密なのに、招かれ人であればそれなりの理由があれば閲覧できるんだ?」
思わず先ほどのザファードの言葉を思い出して隆一の顔が引き攣った。
一体どれ程招かれ人と言うのは特別扱いされているのか。
ザファードが肩を竦めた。
「言ったでしょう?
招かれ人は神の奇跡の体現者なのです。
だから招かれ人の意志を挫くことは許されません」
「うわぁ・・・・。
じゃあ、招かれ人が『より良い世界の為に、建国関係の情報を集めて王家設立の秘密を調べ上げて開示する!』と主張したらそれを阻止できないのか?」
無意味に世の中を乱すようなことをするつもりはないが、全く行動に制限が掛からないのはそれはそれで怖い。
過去に義憤なり理想なりに燃えて国を乱した招かれ人がいたのに、何故そこに制限を科さないのか、理解に苦しむ。
合理性に欠けるように思えるが、そこが宗教というものの盲点なのだろうか。
「それなりに真摯な理由を国家の上層部の前で述べる必要は出てきますが、誰か特定の人に肩入れして王位を簒奪させたいとでも言うのでない限り王家設立の秘密を調べて開示すると言っても禁じられはしないでしょうね。
それがいかに危険で、いかに多くの流血に繋がるかを切々と説かれるでしょうが」
「取り敢えず『ちょっとした好奇心で』という程度では禁書を閲覧させてもらえ無さそうだというのは理解できた。
王家の設立のシステムというのもある意味では興味深い案件だが、政治的意味合いが強すぎるんで調べるのは諦めるよ。
だが、王都迷宮の攻略とダンジョンマスターとの交渉の部分ぐらいの情報でも『好奇心』では入手できないのか?」
少し考えてから、ザファードが口を開いた。
「ヴァサール辺境伯が領地を下賜された背景に関しては、旧グルダルヴァ帝国のファーナ王国との戦争について調べればある程度情報が出てくると思いますから、まずは普通に王立図書館や神殿の図書室で調べると良いでしょう。
ヴァサール辺境伯と迷宮を攻略した仲間のことでしたらあの時代に活躍した探索者の記録を探索者ギルドで閲覧したらそれなりに出てくると思いますよ」
なるほど。
この王国の情報として探すと出てこないが、その前身時代の情報ならばある程度はゲットできそうだ。
「ちなみに、王家のご先祖様が正当な『王家』として後継者問題が無いように神様が介入するようになったのっていつなんだ?」
独立を宣言してから、『上手く後継者問題に神様の手伝いを得られませんでした。将来的にバカが王座に就く可能性がありますが、皆で頑張っていきましょう』では賛同者も限られる気がするが。
ザファードが肩を竦めた。
「さあ?
それも明らかにされていないから、ヴァサール辺境伯の情報は迷宮攻略の時期のものですらあまり開示されていないのでしょうね」
隆一は『薬草』『肉』『野菜』を迷宮に求めた王家のご先祖様に興味を持って調べることにしました。




