35.迷宮3階
アーシャの治験は無事問題なく終わった。
(ちなみに、2日目の朝に簡易体力測定モドキをやっていたらアーシャもやりたがったので試したら彼女の腕力は隆一の倍以上強かった・・・)
迷宮2階2日目はデヴリンに足止めをしてもらって一角ウサギと突撃豚を倒した。
夕方に探索者ギルドによったらダンゴムシ活用術に関するアイディアの特許申請破棄に関する合意書を準備し終わっていたスフィーナに捕まったのでそれに署名(ちゃんと隆一が使用する際のダンゴムシの確保と無料での使用許可をゲット)。
昨日はザファードが準備してくれたスライム水を活用したポーション関係の特許申請に署名して治験を含めた製造・販売関係のことを神殿と錬金術ギルドに丸投げして、隆一は図書館でこの世界の政治体制に関する資料を読みふけっていた。
ちなみに迷宮2階の魔物の方が1階のよりも蓄えている魔力量が多いのだから基礎能力アップ量も多いかと期待していたのだが、残念ながら成長率というのは逓減する傾向にあるのか、腕力の増加量は微減していた。
この調子ではアーシャに腕力で勝つ日は来ない可能性が高そうだ。
まあ、考えてみたら相手は聖騎士のギフト持ちなのだ。
最初から諦めておく方が良いのかも知れない。
そして今日は迷宮3階へ降りてきて・・・
階段の傍で茫然としている隆一だった。
「ニンジンがカボチャと戦ってる・・・」
いや、大きさから言っても隆一の知っているニンジンでもカボチャでもない可能性が高いが。
二股になった根のオレンジな可食部分(別に上の葉も食べられるらしいが)で歩き回っているニンジンは可食部分だけで隆一の膝辺りまで来ているし、カボチャも本体(?)は成人男性の頭程度もありそうなカボチャだ。
ニンジンはのしのしと二股になった根菜部分で歩き回ってふさふさと生い茂った葉の部分で敵を絞め殺そうとしているのに対し、カボチャは成人男性の拳程もありそうな子カボチャ(?)をそんなニンジンに対して投げつけている。
サイズだけの問題ではなく、隆一の知っているニンジンもカボチャも自力で動いて戦ったりしないので、一般的なニンジンやカボチャの品種と違うのは確実だ。
遺跡型だった1、2階と違い、王都迷宮の3階は広い農地のような場所だった。
普通、こういう場合は『平地』とか『野原』の様な形になると思うのだが、なんと言ってもここでは土がちゃんと耕かされたかのように茶色に平らになっている上に畝があり、ところどころでお互いと戦っていないニンジンやカボチャが雑草に蔓や葉っぱを巻きつかせて引っこ抜いているのだ。
これは畑と言って良いだろう。
何故か収穫物であるはずのニンジンが歩き回っているし、カボチャは小さな実を投げつけてくるが。
それとも、二股になって歩いているのであれはニンジンではなく、もしかしたらマンドラゴラとかいう魔植物だろうか?
引き抜かれる時に悲鳴を上げて引き抜いた相手を殺すとか地球の伝説ではあったが、既に抜けて歩き回っているのだから悲鳴は上げようがない気がする。
と思っていたら、小ぶりなカボチャの直撃を受けて倒れたニンジンが倒れ、その隙に巻き付いてきたカボチャの蔓にギリギリと締め上げられていたら急に悲鳴をあげた。
「キギヤャャャャ!!」
ガラスに爪を立てるような、有機物が立てるには違和感ありまくりな音が響き渡ったと思ったら、締めつけていたカボチャ・・・と本植物であるニンジンも何やらビリビリ震えた感じで痙攣したと思ったら動きが止まってしまった。
「お、共倒れしたか。
ついでにちょっと収穫しておくか?美味しいらしいからキッチンで喜ばれるんだよな」
そんなことを言いながらデヴリンがひょいっと倒れたニンジンを取り上げて首(というか上の葉っぱの部分)を切り離し、カボチャも大きく育っていた実を3つほど収穫していた。
「一体これは、何が起きているんだ?」
「中途半端に野菜と魔力が混ざり合った結果らしい。
どうも王家の先祖かその仲間に野菜を重視する人間がいたらしくてね。
肉の後は野菜だとダンジョンマスターと交渉して、カボチャとニンジンとレンコン等の根菜類を頼んだら、美味しく栄養満載だが妙に好戦的な魔植物に変異したらしい」
隆一の茫然とした質問にダルディールが答えた。
「薬草、肉ときたら主食じゃないのか?
ジャガイモか小麦、トウモロコシなり米なり?
カボチャだってそれなりに腹が膨れるが・・・」
思わず首を振りながら王家の先祖様やらの選択に突っ込みを入れる。
隆一もある程度自炊したのでその際に読んだ料理本や栄養学の本から植物繊維やビタミンの重要性はそれなりに理解していたが・・・イマイチここでニンジン、カボチャとレンコンを選んだ大昔の辺境伯の選択肢に納得がいかない。
「主食ぐらいは農家が育てるようにしないと、ここが探索者だけの街になっちまうだろ?
そうなると技術を有する職人か戦える探索者しか住めない街になっちまう。
不作の時はカボチャと肉で腹を膨らますにしても、主食の為には農家を必要とすることでちゃんと単純労働しか出来ない人間も金を稼げるように迷宮を設計したという話だったらしいぜ」
肩を竦めながらデヴリンが更に続けた。
「連作は良くないとかでジャガイモと小麦の他に大豆と放牧を順番にやっているがな。
お蔭で牛乳やチーズも入手しやすいのは助かるが、偶に放牧地のつもりで魔物を追いかけて馬で乗りこんだら小麦畑になっていて農家にどやされる」
騎士団をどやす農家とは、中々ダイナミックだ。
まあ、ちょっとした魔物相手だったら農家は騎士団に頼るよりも自分たちで対処することも多いのかも知れない。
「ちなみに、あの歩き回っているニンジンは本当に野菜のニンジンなのか?
死ぬ際の悲鳴と言い、動き回っている事と言い、俺の知っているニンジンとはかなり乖離しているが」
「『マンドラゴラの劣種かも知れない』と淡い期待を抱いた錬金術ギルドや神殿が何か上位ポーションを作る材料にならないかと色々調べまくったものの、ニンジンとしての通常の効能に毛が生えた程度しか違いは無く、魔石すらない不思議な魔植物だそうだ」
小さなニンジンを狙ったカボチャ攻撃が逸れて隆一の方に来るのをキャッチしながら
ダルディールが隆一の質問にあっさり答えた。
「あれだけ動き回っていて魔石すらないなんて信じられないな。
普通の生きている土のついたままのニンジンをこのフロアに持ってきて移植したらあんな風に歩き回るようになるのか?」
かなり軽やかに走ってカボチャに突撃をかますニンジンを見ながら隆一が尋ねた。
「あ~。
大抵は歩き出す前にカボチャに攻撃を食らって死んじまうみたいだが、2日程度生き残ったら歩き出すという話だ」
デヴリンの答えに隆一が『信じがたい』という顔をして辺りを見回す。
「大体、あのカボチャとニンジンは何をやっているんだ?
お互いに抜いたり絞めつけたりして殺しあっているように見えるが、食虫植物みたいな感じに共食いしているのか?」
植物の共食いと言うのも何とも微妙な気はするが。
まあ、自分の食卓に上がってきているニンジンやカボチャが肉を吸収していると思うよりは他の野菜を吸収していると考える方がまだましではある。
「いや、別に倒したニンジンやカボチャを吸収している様子はないようなので、単に畑の領土戦争的な争いではないかと言うのが学者の意見だな」
どうやらこの世界では、人間が戦争をする代わりに野菜が戦争するらしい。
Wikiで調べて驚いたんですが、マンドラゴラって実在するナス科の植物なんですね。
勿論抜いたら悲鳴を上げたりはしないそうですがw




