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実は召喚したくなかったって言われても困る  作者: 極楽とんぼ


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31.傷痕は消さないと言っているのに:アーシャ・スルフェイナ(2)

「やあ、治験に協力してくれる・・・方だね?」

ザファードの説得に応じて神殿で待っていた部屋に入ってきた男はアーシャを見て、言葉の途中で微妙に口ごもった。


招かれ人が様々な髪や肌の色の人間が現れることから、この世界では容姿による差別は禁忌とされている。

今回は黒髪・黒目の人間が来たとは聞いていたが、微妙に顔の造形が薄い印象だった。

目鼻の場所も形も特に違うという訳ではないのに、『違う』という印象を受けるのは、骨格が微妙に見慣れた形と違うからなのだろうか?


人の顔に『人物の識別』ということ以外あまり興味がなかったアーシャとしては何か意外な発見をした気分になった。


身長はアーシャより多少高い程度。

ヒールを履いたら追い越すかもしれない。

研究者らしくちょっとひょろっとしているが、まあ平均的な体形と言えよう。


「え~っとぉ。

それなりに痛いし失敗する可能性もあるから最初の治験者は女性じゃ無い方が、良いかも?」

男は少し首を傾げながらザファードとアーシャを交互に見やった。


「何を言うか。

出産のことを考えてみろ。

女の方が痛みには強いぞ。

男が股の間を割いて赤子を生み出さす痛みに耐えて何度も出産できると思うのか?

ちなみに、悪化して体の動きに支障が出ると言うのでない限り多少の失敗は構わん。

ザファードにも言ったが、私は特に火傷の傷跡を消したいわけではないし、顔の傷跡は絶対に残したいのでな」


男はアーシャの言葉に目を丸くしたが、肩を竦めてそのまま部屋に入り、握手をする為にアーシャへ手を差しだしてきた。


「そうか。

まあ、確かに男の方がピーピー痛みに関して文句を言いそうだよな。

じゃなきゃ変にストイックに我慢して正確なフィードバックをくれないか。

じゃあ、よろしく頼むよ。

リュウイチと呼んでくれ」


「アーシャだ。

騎士をしているので痛みには慣れているし、男の周りで治療を受けるのも多々ある事なので変に気を使わないでくれて大丈夫だ」


リュウイチが肩を竦めた。

「了解だ。

じゃあそこに座って、傷跡がどこにあるのか教えて貰えるか?」


「手足の傷跡は既に治してある。

背骨の上や首回りだけはナイフで削ぐのは危険があるということで残っているから、そちらを治せるのだったら治したい」


もっと皮下脂肪が沢山ある体形だったらこれらの箇所の傷跡も削ることが出来たのだが、アーシャは近衛になってからも騎士として厳しい訓練を続けて体を鍛えていた為に余分な脂肪は胸周りの他は殆ど無い。


治療のために態々無理に太るほど問題があった訳ではなかったので、手足の傷跡を治療した後は首や背骨近辺の危険が高い部位の傷跡は放置した。

だが、やはり背中は肩甲骨の稼働範囲に多少影響があるようなので、治せるのだったら治してもらいたいと思ってこの治験に協力することにしたのだ。


「ふむ。

取り敢えず、今日は首の正面の部分で試してみようか。

そこだったら夜中に違和感が生じたら自分で直ぐに鏡で確認できるし、もしも異常が起きても気管切開をすれば呼吸路は比較的簡単に確保できるからな。

頸動脈や脊髄関係に支障がでたら取り返しのつかない障害が出る前に治せるか分からないから、出来ればそちらは後回しにしたい」

リュウイチの言葉は中々怖かった。


「おいおい。

何か問題が起きると思っているのか?」


「いや、起きないと思うし、取り敢えず今まで自分と探索者で試した時には問題は起きていない。

だが、首回りは人間にとっては色々と急所が集まっているからな。

問題が起きないと『思う』で命に関わるようなことをしない方がいいだろう?」


リュウイチの言葉は論理的だったが、どうも言い方に難がある気がした。

イマイチ安心感にかける。


「他の治験をする時、リュウイチは表に出てこないほうが良いんじゃないか?」

何やらボトルとガーゼを取り出して準備を始めたリュウイチを横目に、アーシャはザファードに声をかけた。


「元々、彼は細かい治験はするつもりがないと公言しているからね。

今回は本人的にもちょっと珍しい発見だったから特許登録をする前に一応何度か治験をしているだけだよ」


そんなことを話していたら、ガーゼを手に持ったリュウイチが近づいてきた。

「まず、これを貼らせてくれ。

ピリピリ痛いと思うが取り敢えず5分程やってみて効果を確認したい。

痛みが悪化する、もしくは薄れたような気がした場合はすぐに言ってくれ」


ガーゼを貼り付けられた瞬間は特に何も感じなかったが、すぐさまピリピリと痛みが出てきた。

確かにこれはちょっと痛い。


「騎士と言っていたが・・・ちなみに、スライムに襲われたことってあるか?」

砂時計をサイドテーブルの上に置きながらリュウイチが尋ねてきた。


「流石に普通のスライムに取りつかれるような失態を犯したことは無いが、キングスライムと戦って触手にはたかれたことはあるな」


「キングスライムねぇ。

普通のスライムよりも消化力は大分強そうだな。

はたかれただけでも肌に支障がでたか?」


「まあな。

切り付けたら剣でも溶けるんだ。

人間の肌も触手で叩かれると高濃度の酸を掛けられたような感じになったな」


「このガーゼをつけてピリピリするのと感触は似ているか?」


「どうだろうな?

戦いの最中は痛みを感じる暇は殆ど無いし、終わったら興奮が冷める前にさっさと回復してもらったからなぁ。

でもまあ、キングスライムを倒し終わって治療してもらおうと思った時には左腕の骨が見える程えぐれていたから、これより痛かったんじゃないか?」


アーシャの言葉にリュウイチが目を丸くした。

「叩かれただけで肉が抉れるのか。

それじゃあ参考にならんな。

ちなみに、キングスライムは王都迷宮にも出るのか?」


「下層の真ん中あたりから時折見かけるな。

リュウイチも迷宮に潜るのか?」


「基礎能力を上げておいた方が無難だから子守役と一緒にある程度は潜る予定だが・・・叩かれた程度で肉が抉れるような魔物がいる層まで潜る気はない」


「まあ、リュウイチがある程度身が守れるようにならない限り、どれだけ腕利きの護衛がいても安全なのは中層の上部程度だろう。

スライムのことを気にかけているようだが、この治療方法と何か関係があるのか?」


「ああ、その治療薬はスライム水を使っているんだ。

どうもスライムの核を取り去った時に残るスライム水は、魔力が抜けるまでの暫くの間はスライムの獲物を溶かす効果が残るようでな。

そのスライム水でポーションを作ると肌の上皮を溶かしながら回復させるのか、傷跡が消えるようなんだよ」


あっさりと答えたリュウイチの言葉に今度はアーシャが目を丸くした。

「体を溶かすと分かっているスライムの体の一部でポーションを作ったのか?!」


招かれ人というのはこの世界の常識とは違う論理に基づいて動くことがあるとは歴史の授業で習ったが・・・。

確かに、想定外なことをする人種なようだ。


確かに、考えてみたらアルカリ性で浸食性が強いかも知れない普通のスライム水を元に、飲んで使用することもあるポーションを作るって非常識ですよねw


しかもそれを使ってみるのもねぇ。

ピーリングというのを聞いたことがあってもやったことが無い隆一だったので、痛くても美肌(というか肌の修復)の為に微量の皮を溶かすというのもありかなと思った訳ですが。

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