28.迷宮2階
「よう、おはようさん」
探索者ギルドの中から出てきた隆一にデヴリンが声をかけた。
今日もチャラい挨拶に似合わず待ち合わせタイム5分前のデヴリンである。
「ああ、おはよう。
今日は2階のマッピングをしたいから出てくる一角ウサギと突撃豚だっけ?の退治よろしく」
考えてみたら、一応どちらの魔物も風矢で倒せるか試しておいた方が良いかも知れない。
絶望的にダメそうだったらちょっと標的の動きを阻害するような魔道具を真剣に開発する必要がある。
まあ、暫くはデヴリンに斬撃で足を切り飛ばしてもらうのも手だが。
そんなことを考えていたらダルディールも現れた。
「よし、行こう!」
王都迷宮の2階はちょっとした公園のような、芝生ではないが歩くのに問題ない程度の比較的背の低い草が生い茂る遺跡っぽい場所だった。
壁や天井が石造りなのに床だけ芝生モドキというのはあまりにも不自然な印象だが、一角ウサギや突撃豚のような草食魔物が生息するには最低でも草が生えていることが必須条件らしいので、これも王家のご先祖様がダンジョンマスターと交渉した結果なのだろう。
「お、ウサ公発見。
今日はちゃっちゃと倒せば良いんだな?」
早速魔物を発見したデヴリンが確認に尋ねてきた。
「ああ。
次回は自分で倒す予定だから足止めを頼むかもしれないけど、今日はさっさと全部殺しちゃって魔石を回収してくれ」
隆一の返事に、デヴリンがあっさり斬撃を飛ばして一角ウサギを倒していた。
デヴリンが隆一に確認をとっている間に3人に気が付いた一角ウサギは突進してきていたので、5メートルぐらい離れたところで首を飛ばされた一角ウサギはそのまま滑ってすぐ傍まで来た。
「一角ウサギって草食魔物だって言われたけど、なんで草食なのに襲ってくるんだ??」
普通、草食動物は人間を襲わない。
まあ、テリトリーを守ろうとしてサイやカバとかは襲ってくるという話も聞いたことがあるような気がするが、ウサギにそこまで強いテリトリー意識があるとも思えない。
「人間を見たら襲い掛かる生き物が魔物なんだ。
だから魔石があっても人間を襲わない個体もいる竜とかは一元的には魔物と定義されていないんだ」
ダルディールの言葉に一角ウサギの方へかがみこんでいた隆一が目を丸くした。
「え、そうだったんだ??
1階を歩き回った時にスライムに襲われてない気がするんだけど」
ガラスの水槽に入れてあるから出られないというのもあるが、部屋で飼育しているスライムだって別に隆一のことを襲いたげな様子は見せない。
まあ、魔力には吸い寄せられているようなので、うっかりスライムがいるところで寝ていたら捕食しようと寄ってくるだろうが。
「スライムは動きがとろいからな。
スライム系でももっと上位の魔物だったら明らかにこっちを殺しにくるぜ」
デヴリンが肩を竦めて答えた。
そんなデヴリンの解説を聞きながら一角ウサギに氷結の術をかけて、バックパックから小箱を取り出して一角ウサギの前に置いた隆一に、ダルディールが首を傾げた。
「何をやっているんだ?」
「1時間程度放置したら生きていない物は全て迷宮に吸収されるから荷物を放置できないって以前言っていただろう?
生きている大蜘蛛の巣が迷宮に吸収されていないことを考えたら、人間じゃなくても『生きた存在』がいれば迷宮への物体の吸収が阻害されるのかもと思って、取り敢えずダンゴムシを死骸の傍に置いておいたら吸収されないか試そうとしている」
隆一の言葉に興味をひかれたデヴリンが一角ウサギの前におかれた小箱を覗き込んだ。
「『実験中:この小箱をギルドの受付に提出して肉の状態を職員に見せたら5パドの支払あり。肉はその後売却も持ち帰りも可』?」
「取り敢えず今日倒す魔物の死骸が消えないか確認したいんだが、いつまでも消えなかった場合でも多分肉目当てに回ってくる探索者に拾われちゃうだろ?
だから拾われたから無くなったのか、吸収されて消えたのかを確認する為にギルドでダンゴムシとこの時間確認の簡易魔道具を回収させようと思ってね」
隆一の言葉にデヴリンとダルディールが目を丸くした。
「魔物の売り上げがそれなりのレベルになってきたら運搬係を雇ってそいつに荷物番もやってもらうのが一般的なんだが・・・確かに生きてさえいればダンゴムシでも大丈夫な可能性はあるな。
なんで今まで誰もそれを考え付かなかったんだ??」
思わず頭を抱えたデヴリンに、隆一は肩を竦めた。
「どちらにせよ、ある程度以上持ち帰る戦利品が増えたら運搬係が必要になるからあまり深く考える必要が無かったんじゃないか?
まあ、スフィーナはぜひ協力したいから小箱の回収費用はギルドが払うって言っていたけど」
「運搬係を雇えるのは下層まで潜れるような一流探索者だけだ。
探索者の大部分は中層までしか潜れないから、そこで効率的に荷物を保管しておいて休憩時にでも整理できる手段が見つかれば、影響は大きいな」
まじまじと小箱を覗き込みながらダルディールが呟いた。
「まあ、だとしたら今日の実験がうまくいった場合はダンゴムシの有効範囲とか有効時間の確認には探索者ギルドの方で頑張ってもらおう」
肩を竦めながら隆一が立ち上がり、歩き始めた。
この実験のために、昨日はスライム水ポーションの試作品を作った後に庭に出てそれなりに苦労してダンゴムシを集めたのだ。
のんびり話し合うのではなく、さっさと2階のマッピングを済ませて回収結果を確認したい。
考えてみたらダンゴムシを只の箱の中に入れていたら乾燥とかで直ぐに死んじゃうのかも?
2匹ずつぐらいをちょっと湿った土と一緒に入れておかないと駄目かもですね~。




