27.今度は実験台:ゼルガン(2)
「いて~~よ!!!
別に傷痕なんて今更治さなくても良いのに!!」
いつまでも続くびりびりする新しいポーションの痛みに、ゼルガンが文句を言った。
男の勲章とまでは言わないが、腕にだったら別に傷痕が残っていたって特に問題はないのだ。
傷痕を治すためにこのびりびりした痛みをいつまでも耐える必要性は感じない。
一回程度ならそれ程酷くないと思っていたが、長引くにつれて何か段々辛くなってきた気がする。
「諦めろ。
無料での治療を受ける代わりに実験台になることに合意したのはゼルガンだ。
痛くなってもちゃんと治すって俺は言ったぞ?」
残念ながらゼルガンの訴えに対するリュウイチの言葉は何ともつれない物だった。
確かに『痛いかも知れないが安心して』と言っていたが、骨折を治すときの様な必要不可欠な痛みなのだと思っていた。
まあ、実際に切られた時の痛みや骨折した骨を戻す時の痛みに比べれば天地の差だが、このびりびりと継続する痛みも中々辛い。
ゼルガンの文句を聞き流しながらリュウイチは淡々と体中にあった裂傷の手当を続け、砂時計が3度目に落ち終わった後は今度は何やら痛いポーションを他のポーションと混ぜた液体をしみ込ませたガーゼを肩にあった古い傷跡に当てた。
「こちらのピリピリ具合はどうだ?」
「う~ん、あまり痛くないな」
「そうか。
かなり厳しいと感じたら言ってくれ」
そう言ってリュウイチは次々と別のポーションを混ぜ始めてそれをガーゼにしみ込ませ、別の傷跡に貼り始めた。
4か所程更に貼られたところで、ゼルガンが声をあげた。
「かなり辛くなってきた。
極端に痛い訳じゃあないが、あちこちのびりびりした感じが合わさって痛みが酷くなってきた感じがする」
リュウイチが不思議そうに首を傾げたが、肩を竦めてガーゼを机の上に戻した。
「ふむ。
一気に何箇所もやると蓄積した刺激から神経が過敏になるのかな?
まあ、これで一通り試したからどちらにせよ良いとしよう」
何やら待つ体制になったリュウイチがガーゼをしまいながら声をかけてきた。
「ちなみに、ゼルガンは随分と怪我をしているな。
今まで練習台をしてきた他の探索者達と比べても傷痕が多いが、ちょっと戦い方がまずいんじゃないのか?」
「・・・怪我で休んでいる日数は他のパーティより多い訳ではないはずだが」
他のパーティの攻略日数を調べてはいないが、どうせ他の探索者達だって同じような盛り場を徘徊する顔見知り達である。
探索者の贔屓する酒屋で耳に入る話から推測する限り、自分たちは標準レベルなはずである。
「ポーションで傷を表面的に治して誤魔化しているだけだろう?
きっちり治していないから傷痕が多いのだと思うが、経済力的な話からしたら他の探索者だって似たり寄ったりだと思うから、ゼルガンのパーティだけがポーションをケチっている訳ではないのならば、やっぱりあんた達は怪我を負う回数が多いようだぞ」
「マジか?」
思わずショックを受けてゼルガンは立ち上がった。
魔術師のザックを除いて自分たちは田舎から出てきた農家や樵の次男や三男だ。斥候のダヴィードはどっかの爺さんに罠解除の方法等を習ったものの、ゼルガンともう一人の前衛のベルグは碌な訓練も受けずに独学で腕を磨いてきた。
それでも中層で安定して稼げるようになったから自分たちがベテラン探索者として成功したと思っていたのだが・・・。
「一度、元探索者なギルドの職員にパーティで戦う時の立ち回りについて何か改善点が無いか確認して貰ったらどうだ?
ダルディールが言っていたけど、ギルドの職員で助言できる職種だったら高ランクの探索者に助言してもらうと考えるとかなりお手軽な値段でやっているって言っていたぞ」
「・・・」
探索者が元気に継続して活動し続けることが、ギルドにとっても探索者にとっても望ましい状態だ。
だからこそ探索者ギルドは登録したばかりの初心者が直ぐに死なないように初心者講習を行い無謀な依頼を請けないように誘導するし、それなりのランクになっていれば探索者に対する外部からの理不尽な圧力からも守ってくれる。
ギルドの提供してくれるサービスの中には伸び悩んだ探索者に対する助言や訓練というのがあるというのは知っていたが、忘れていた。
今まで自力で何とかしてきたのだから、これからも大丈夫だと言う自負があったのだが・・・他の探索者と比べて傷が多いというリュウイチの指摘は痛かった。
確かに最初にリュウイチに治療してもらった時はかなり危ない状況だったし。
「まあ、別にゼルガンが死んだところで俺には関係ないって言えば無いし、今回かなりの部分の古傷を治しちゃったから実験台としても利用価値も大分減った。
だが、このままゼルガンが長生きしてくれたら体を酷使した探索者が年を取ったらどういう風に体が劣化していくかの良い見本になるだろう?
だから出来れば死なずにこのまま探索者を続けてもらいたいところだ」
肩を竦めながらリュウイチが軽い調子で続けた。
年をとった探索者というのは少ない。
だが、そういった数少ない生き残りが探索者ギルドの職員になることが多いのだから、別に実験体がいない訳ではない。
戦い方を一度ギルドのベテランに見直してもらってはどうかと言うのは、リュウイチなりに真摯な助言なのだろう。
「まあ、ちょっと行き詰っているところもあるからなぁ。
今度、仲間とも相談してみるわ」
最初はお金がないから見様見真似でやってきて、もっと経済的基盤がしっかりしてきたらちゃんと戦い方とかも習おうと思っていたのが、なんとかなっちゃったらそういう考えも忘れるものですよね。




