22.迷宮1階再び(3)
「しっかし。
全然速くなった感じがしないな」
一生懸命魔力の出るスピードを速くして何とか風矢が察知されて避けられる前に大鼠を倒そうと頑張っているのだが、思わしくない。
時折あたるのだが、どうもまぐれ当たりな気がする。
「便所で踏ん張っているんじゃないんだから、尻に力を入れても無駄だぜ?」
デヴリンがからかい混じりに下品な助言を投げつけてきた。
「じゃあどうすりゃいいんだよ??」
いい加減、上手くいかないのに苛ついてきた隆一が八つ当たり気味に尋ねる。
「術を発動するのに魔力を高めている時間が長いから大鼠に警戒させちゃって避けられているんだよ。
もっとあっさり素早く術を起動させないと。
発動した後の術の速度なんてそうそう変わらんぞ?」
デヴリンの言葉に隆一は動きを止めて考え込んだ。
今まで、発動した風矢の動きを速くしようと一生懸命集中してきたのだが、どうやらそれは間違いだったらしい。
とは言え、流石に魔法という慣れない技術は集中して魔力を高めなければ初歩の術でも発動できない。
ならば発動した後の術に追尾させるしかないのか。
だが・・・風矢は目に見えないのが心理的なネックになるのかどうも上手く発動した後の術に干渉できないのだ。
「火矢で試してみるか」
次に現れた大鼠に対し、追尾を意識して火矢を打った。
「ぶわはははは!
何それ、歩くよりも遅そうじゃん!!!」
追尾させるために魔力の紐づけを残した火矢が隆一の意識に従ってふらふらと歩くぐらいの速度で空を動いていく。
この火の塊(矢とは間違っても言えない。まだ火玉に近いかも)を見てデヴリンが爆笑した。
「デュゥゥ」
まるで獲物を狙う猫のように用心深く(?)ゆっくりと大鼠に近づく火の塊を大鼠も警戒して見つめ、やがてそろりと左へ逃げようとする。
「逃がすか!」
大鼠の先に回り込もうとする火の塊。
さっと右に飛びのいた大鼠を追いかけて火の塊が飛び出し、大鼠に突進するものの今度は前へ飛びのかれてしまい、あわや壁に激突・・・しそうになったところを真上に避け、その隙に逃げようとした大鼠の先を遮るように前へ突進!
大鼠には避けられてしまったがその前に飛び出して逃走は防げた。
手に汗を握るような(笑)大鼠と火の塊の追いかけっこが暫く続いたあと、ようやく火矢(?)が大鼠に激突し、倒した。
「いや~ここまで切迫した大鼠と火矢の戦いって初めて見たよ」
笑いすぎて力なく床にしゃがみ込んでしまったデヴリンが思い出し笑いをしながら隆一に言った。
「火矢って標的を焼くのではなく、ぶつかった瞬間に爆発することで打撃を与えているんだな。
今まで火矢が速く動いていたせいで気が付かなかった」
デヴリンのからかいを無視して、隆一は今回の発見について考える。
隆一の反射神経では、魔力の高まりを感じられる魔物を魔術で倒すのは難しそうだ。
かといって自分で物理的に退治するのも無理だろう。
元々、錬金術師は戦闘に向いた職業では無いのだ。
初級魔術こそは全ての属性で発動できるが中級は微妙だし、術の発動に時間がかかる上に当てるのも苦手だしでつくづく向かないことが実感できた。
本来ならば迷宮の攻略なんぞ自分ではしないタイプのギフトなのに、招かれ人だからと言う例外的な条件のせいで助けを受けて潜っているが...更に続けるならば考え方を変え、使い勝手が良い魔道具を造ってそれをガンガン使っていくべきだろう。
「爆弾岩みたいなのを造れないか、調べてみるか」
確か昔やったゲームでは衝撃を与えると爆発する岩の魔物がいて、それのドロップが原始的な手榴弾っぽく利用できた・・・気がする。
小型な魔物を適度に痛めつけられる程度の衝撃を出せる魔道具があれば、大鼠やそのレベルの雑魚魔物の動きを阻害して隆一でも魔法で倒せるようになるかもしれない。
魔力の高まりを必要としない道具を投げつけてダメージを与えて動きを鈍くし、動けなくしてから退治するのが隆一としては一番現実的だろう。
もしくは火矢の爆発力をもっと高めて、外しても爆風である程度動きを阻害する程度のダメージが入るようにするか。
でもそれだとそれなりの魔力を必要とする。
素材の入手と製作が難しくないなら爆弾岩モドキの方が現実的な可能性が高い。
でなければ、それこそ蜘蛛系の魔物の糸でも使って破裂したら粘着性の高い糸ががばっと飛び出して動きを阻害してくれる粘着爆弾でも作れるか試してみても面白いかもしれない。
どちらの選択肢でも、使い捨ての魔道具を使うと言う時点で持ち込まなければならない荷物の量が多くなるので色々不便かも知れないが。
まあ、これからどの程度隆一の魔力があがるか、またどのぐらい隆一が魔物の討伐に関与するかによって最適解は変わる。
基礎能力が上がることで運動神経が大幅に改善されるのだったら物理で殴り飛ばすという選択肢だってある程度の段階まではありかも知れないし。
「いや、錬金術師だった段階で無いだろうな」
自分で自分の考えを否定して隆一は首を横に振った。
ゲームでは魔力ポーションをケチるために魔法は出来るだけ使わずに物理で殴り倒すことが多かった隆一だが、現実の世界では己の適性という変えようのない制約があるのだ。
取り敢えず、魔力アップの様子を見つつ、荷物を運び込むのに良い道具でも開発しようと考える隆一だった。
隆一は頭脳的には地球でトップレベルの天才ですが、運動神経的には平均ぎりぎりもしくは平均よりちょっと下というところです。
だから魔法を動いている的に当てるのも苦手。
追尾機能をちゃんと魔法につけられればそれで解決なのですが、魔法の練習よりもスライム生態の基礎研究(笑)や魔道具の開発の方が楽しいので攻撃魔法の練習をする気はあまりありません。




