21.迷宮1階再び(2)
「ちなみに、魔力が無くても攻撃魔術を放てる魔道具を開発したらかなりの高額で売れるぞ」
スパチュラ杖(改)でスライムと大鼠(要:デヴリンの支援)及び大蜘蛛を倒しながら1階を歩き回り、前回と同じ泉の脇で薬草を採取した後に昼食を食べていたらダルディールが思い出したように教えてくれた。
「あ~。
魔道具の参考売値のリストを見せてもらったが、そう言えばそうだったな。
武器系の魔道具を造るつもりは無いからあまり注意を払っていなかったが」
戦争や人殺しに使われかねない武器の作成に貢献する気はない。
この世界だと『魔物を倒すために』という名目があるものの、権力者の手に集まったらどう使われるかは・・・想像できる。
より安全に鉱山で採掘作業ができるようにダイナマイトを開発したらいつの間にか死の商人へ勝手にジョブチェンジさせられてしまっていた地球のアルフレッド・ノーベルではないが、いくら善意で人の為になることを願って作ろうが、一度売ってしまった危険物に使用制限は掛けられない。
まあ、物凄く高機能なプログラムを組む技能が身に付いたら人間相手に使えないよう制限を組み込んだ魔道具を造ることも可能かもしれないが・・・どう考えても費用対効果はマイナスな改造になる。
つまり、普通に経済的合理性に基づいて造った殺傷能力をある物は、人間を殺すことに使われる可能性がかなり高くなる。
たとえ戦争が神に禁じられていたとしたって山賊の手で商人を殺すのに使われるかもしれないし、暗殺者に活用される可能性とてあるのだ。
自分が飢えていて明日の食事の為にどうしても売らねばならないというのならまだしも、生活費は支給されている。
だから、武器を売る理由は皆無だ。
人間の生活圏が魔物に圧迫されていて、放置していたら自分の生活にも支障が出るというのならば人間が使いやすい魔道具の提供に協力せざるを得ないかもしれないが、幸いにもこの世界は良い感じに魔物と人間の争いが拮抗している感じだ。
魔物が程よく間引いているのか、この世界では余剰人口によってスラムが形成されまくってしまうほどは人口増加が経済圏の拡大を上回っていない。
しかも人間がそれなりに『より良い未来』に希望を持てる程度には技術開発(魔法や錬金術も含めて)が起こり続けている。
まあ、少子高齢化が問題になっていた地球の先進国と、先進国からもたらされた医療ケアによって幼児の死亡率が大きく減ったのに妊娠率を減らさなかったせいで爆発的に人口が増えてまともに金を稼げない人間が大量に出てしまった発展途上国のように、同じ世界の中でも地域間の人口増減バランスは簡単に調整できるものではないが。
隆一たちが召喚された国では良い感じに魔物と人間のバランスが拮抗していても、他の地域では問題が起きているかも知れない。
とは言え、余剰人口の調整が出来ないぐらい遠い場所で問題が起きているとしても、魔道具をここで発明したところでその問題が起きている遠隔地域での問題解決にはあまり貢献しないだろう。
だとしたら変に理想を追いかけて『魔物と戦う用(だけど人間も殺せる)』武器なんぞ作るべきではないと隆一は考えていた。
「物理攻撃が無効だったり耐性持ちだったりする魔物もそれなりにいるからな。
剣士でも攻撃魔法を使えるようになったら迷宮の攻略が捗るぜ?」
デヴリンの言葉に隆一は肩を竦めた。
「別に、今のままだって魔物が迷宮からあふれ出てくることは殆どないんだろ?」
「それはそうだが・・・ぶっちゃけ、物理職は森に出てきたゴブリンを棍棒で退治してきただけの農家の次男や三男が腕を磨いてなることが多いんだよ。
死亡率は高いが、なりたがる人間も多いから剣士も戦士も盾職も人員不足には滅多にならない。
それに対して、魔術師や回復師は見習いレベルの迷宮に潜っても辛うじて役に立つ程度の奴らですら、2~3年はしっかり教育を受ける必要があるからどうしても人数が足りなくなる」
この世界では、『魔物を殺したらスキルスクロールをドロップして一瞬で魔術を学べる』といったご都合主義な魔術の取得方法は存在しない。
『確率の低いレアドロップ』とかいう以前の話として、スキルスクロールなどという物が存在しないのだ。
つまり魔術も回復術も、しっかりと学ばなければ使える人間は皆無に等しい。
勿論、最初に魔術を開発した人間がいたのだから教わらなくても自力で覚えられる天才もどこかにはいるのだろうが。
「つまり、物理職だけの探索者のパーティがそこそこいる訳だ?」
「そ。
で、そういうのは物理無効な敵が出てくると足止めを食らうか、全滅する」
それを考えるとちょっとは同情を感じる。
必死の思いで貧しい(多分)農村から出て来て身を立てようとしているのに、魔術師を運よく見つけてパーティに加えられなければ探索者としても頭打ちしてしまうのだろう。
が。
「でも、デヴリンがやっていた斬撃なら物理無効な敵でも効くんじゃないのか?」
物理攻撃耐性を持っていたスライムをデヴリンの斬撃はあっさりと隆一の風矢よりも素早く倒していた。
「そりゃあ、俺は天才だから」
デヴリンが照れる様子もなくあっさりと答えた。
「ダルディールは?
物理無効な敵に対する対応手段を持っているのか?」
「盾打に『気』を籠めればレイス程度ならばなんとかなるが・・・生命力が強い、もしくは回復力の高い物理無効な敵が相手だったら倒し切るのはほぼ不可能で、せいぜい逃げる時間を稼ぐ程度だな」
ダルディールが肩を竦めながら答える。
「結局、物理職でもそれなりに訓練を積めば何とかなる訳だろ?
魔道具で魔石を使って放てる程度の攻撃魔術だったらデヴリンの斬撃と大して違いは無いから頭打ちになることに変わりはないさ」
つまり、そんな魔道具があったところで迷宮の探索で達成できる深度に大した違いは生じないという事だ。
反対に、平の兵士でも攻撃魔術を打てる魔道具が大量生産されるようになったら、戦争での死者の数は大幅に増えるだろう。
なんと言っても戦争で使い捨てされる平兵士は高ランク魔物よりもずっと脆いのだから。
神の介入が実在するこの世界だが、宗教戦争は禁じられているものの政治的・経済的な理由による戦争そのものには神も介入しない。
つまり人を殺せる武器を造ればいつかはそれが人殺しに使われる。
どちらにせよ。
人の為に武器を開発するよりは、もっと面白い研究に時間を費やしたい。
少なくとも『人間相手に撃てない』というプログラミングも魔道具なら可能なので、どうしても強力な魔道具を造るのに協力する羽目になった場合も安全装置を組み込むことは可能なのが救いですね。




