189.迷宮8階再び(2)
「なんかまた、面白いが随分と突拍子もない物を造ったもんだな」
キックボードもどきをスフィーナに渡して迷宮に入った隆一に、デヴリンが声をかけてきた。
「構造そのものは、最初に作った飛行式運搬具を幅3分の1ぐらいまで縮めて長さも少し削り、車輪を多少小さくして車体を下げて、取っ手を横向きから垂直に変えた程度なんだけどね。
魔法陣はあの飛行式運搬具にあったのをちょっと簡潔化した程度だし。
見た目と用途が違うから印象としては全く別物だろうけど、内容的には飛行式運搬具とほぼ同じさ。
確かにああいうデザインの乗り物はこの世界にはないだろうから突拍子がないように見えるだろうが」
隆一が簡単に説明しながら肩を竦めた。
停止した際に濡れた地面に足をつけたくなかったので車輪は2つではなく4つだし、本当に構造的には飛行式運搬具を一人乗りサイズに縮めて地上を走る程度に出力を下げただけといえる。
もっとも、飛行式運搬具は人間を載せる用の物ではないのだが。
「あれだったら雨の中を歩いても足が濡れなくて良さそうだから泥道ででも試してみたいところだが・・・下ががたがたしていたら難しいかな?」
デヴリンが顎をさすりながら言った。
「だろうね。
一応石畳程度の凹凸には引っかからないように車輪を大きめにした上で重量も軽減したが、街の外の舗装されていないがたがたな道だったら流石に無理だろうな」
まあ、隆一は王都の外の道なんぞしっかり見たことは無いので、どの程度道のコンディションが悪いのかは知らないが。
何とはなしに、長距離をキックボードで進むというのは違和感がある。
魔石の無駄だし。
長距離を移動するなら馬に乗るか、馬に馬車を引かせるのが一番エコだろう。
「今日は雨だったから貴族の坊ちゃんとかは来ていなかったと思うが・・・噂が広まったら、絶対に特許登録してくれって話がスフィーナ経由で来ると思うぜ」
オモチャとしてのキックボードだったら、移動その物も使用者の魔力を使うように出来ないだろうか。
反重力魔法陣を利用して魔力を抜き取り、それを風魔法の推進器の方へ横流し出来れば魔力使用量次第では誰にでも使えるお手軽なオモチャ兼移動手段になるのだが・・・。
反重力魔法陣がそういう使い方ができるかどうかが微妙なところだ。
もう一度、レティアーナ女史の資料を見直して勝手に魔力を抜き取る魔法陣の構造を確認して、風魔法の推進器にもそれを適用できないか、調べるべきか?
とは言え、使用者の意図を無視して勝手に魔力を抜き取れる魔道具なんぞは造っては危険すぎる気もする。
反重力魔法陣という限られた利用用途だけだったらまだしも、推進器という一般的な魔法陣にまで使い始めたらその構造を研究させて悪用する人間が出て来ても不思議はない。
「どうするかなぁ・・・」
7階で栗を集めながら隆一は発明の便利さと危険について改めて悩む羽目になった。
危険な道具を発明して、それが人を害するのに使われたところで責を負うのは道具を使って害を与えた人間である。
普通の台所用包丁だって使い方次第で人を殺せるのだ。
道具を使った人間が一々意図しなかった悪利用にまで責任を負っていたら、何も作れない。
だが、今までになかった手段で人を害し得るような道具を発明して社会に広めてしまうのは、それはそれで無責任、もしくは考え無しだとも感じられるのだ。
細菌兵器や化学兵器、核弾頭等がテロリストや無責任な政治家の手によって世界を破滅に導くのではないかとそれなりに真剣に懸念されていた地球に暮らしていた隆一としては、こちらの世界終末時計を進めるような発明を世に解き放ちたくはない。
まあ、魔道具は対個人な道具なので悪人が栄える手助けになるとしても世界は滅ぼさない可能性は高い。
キックボードもどきに関しては、上限スピードを抑えた設計にしておけばオモチャとしての魅力はそれほど増えず、魔石の無駄遣いも最低限に抑えられるだろう。
スフィーナから実際にリクエストが来てから詳細は考えれば良いだろう。
取り敢えずは。
「芋討伐だ!」
あの大鼠よりも素早く動く芋どもをちゃんと倒せる様に腕を磨かねば。
やっと8階に辿り着きました・・・。




