17.その頃の煌姫(2)
「俺の方はともかく、煌姫は最近どうなんだ?」
ギフトの使い方を学び、試作品に色々とダメ出しを食らっていた煌姫だったが、先月あたりから自分の商品を店に並べられるようになったと言っていたはず。
この世界の宝飾店は基本的に個人経営なので資金力には限りがあり、高級品はオーダーメイドで前金を受け取って製作しないと資金繰りに行き詰まることになる。
なので店に出しておけるのは若い夫婦などがちょっと背伸びして買える程度の物がメインで、後は数点だけ貴族や金持ちの商家の奥様が気まぐれで訪れた時に参考に示す為のショーピースを置いているのが普通だ。
煌姫が弟子入りして無事正社員として雇われた宝飾店は神殿から招かれ人を任されるだけあって資金力もコネも十分ある老舗で、それなりに高級品を造る機会もありそうな店だとのことだったが、流石にそこまで煌姫の腕は上がっていないが、若者向けのオシャレ装飾品を幾つか作って良いと言われたと前回会った時には言っていた。
「うふふ~~~~。
二つも売れたのよ~~~!!!!!」
嬉しさが抑えきれなかったのか、突然椅子から立ち上がって応接間スペースを踊り始めた煌姫を隆一は目を丸くして言葉もなく見つめた。
・・・装飾品造りが好きなのは知っていたが、お嬢様然として『冷静沈着』とか『冷徹』という言葉が似あいそうな迫力美女だった煌姫が踊りまくる程だとは想定外だった。
しかし日本人なのに盆踊りではなくワルツを踊るところが流石お嬢様と言ったところか。
まあ、普通の日本人女性でも嬉しい時に盆踊りを突然踊り出すことは無いかも知れないが。
「それはおめでとう。
工房の人とも問題なくやっていけそう?」
招かれ人であることからそれなりに店のトップから考慮されている煌姫に対して同僚から嫉妬される可能性は低くはない。
流石に自殺しそうなほどの虐めやパワハラは無いだろうが、さりげなく無視して冷たく扱われるかもしれないと密かに隆一は心配していた。
踊りを終えてポスンと元の席に座った煌姫は肩を竦めてお茶の入ったカップを再び手に取った。
「羨ましいとは思っているでしょうけど、装飾品というのは作品を作る技能だけでなくデザイン性も重要なの。
腕が良くなければ作れないような精巧なデザインの作品を私はまだ作れないけど、ちゃんと自分の腕でも作れるようなデザインを工夫して作ったのがお客様の目に留まって買われたんだもの、文句は言わせないわ」
流石煌姫。
ちょっとやそっとの嫉妬など跳ね除けているようだ。
だが。
突然煌姫が不満をぶちまけた。
「だけど、聞いてよ~~!!
こっちの人って床に降ろした鞄を置いた机の上にクッキーやパンを直接乗せるのよ!!!!!
不潔すぎる!!」
ほぼ誰でも使える『クリーン』という生活魔法は、食事前の手洗いの代わりになるぐらいに汚れをほぼ完全に落としてくれる。
お蔭で風呂に入らなくても垢が落ちるので研究所に連日泊まるような研究馬鹿でも臭くならないので隆一としては非常にありがたいと思っているのだが・・・やはり日本人にとっては『魔法で綺麗にしてあれば万事OK』というこちらの感性がちょっとついていけないところが無きにしも非ずといったところだ。
しかもこの『クリーン』、本人の清潔感に依存するのか隆一が使うと埃や垢だけでなく殺菌まで出来るのに対し、こちらの人間が使うと大抵の場合は『多少綺麗』になったと言う程度だ。
イマイチがっつり綺麗になると言う姿がイメージしきれないらしい。
どうやら煌姫も同じような複雑な心境を抱えているらしい。
確かにクリーンの魔法を使えば机の上だって清潔になっているはずだが・・・それでも土足で入る床に置いた鞄を載せた机、つまり実質は土足を乗せた場所に食べ物を直接置くと言うのは嫌なのだ。
が、こちらの人にはそれを言っても理解してもらえない。
まあ、そう言った不満をシェアしたいがためにこちらの生活に慣れてきた今になっても時折二人で会っているのだが。
「厳密に言えばクリーンを使えば机の上もお皿の上も大して差はないはずなんだけどね。
確かに何か嫌なんだよなぁ」
「でしょ?!
第一、あの人たち時々クリーンをかけ忘れてるし!」
隆一の合意に煌姫が勢い込んで言葉を重ねる。
「まあ、日本人の清潔基準は地球でも突出して高かったからな。
ある意味ちょっと不潔なぐらいな方が免疫力も高まるんだろうと感心してあげるしかない・・・んだろうなぁ」
考えてみたら、宝飾店の工房だったらそれなりに清潔な環境は保たれるはずである。
これから迷宮を潜り始めたら更にもっと日本人の清潔感から乖離した環境を目の当たりにする可能性は高い。
ちょっとうんざりしながら隆一はため息を飲み込んだ。
魔法という新しい技術がある世界に来て、色々と研究が楽しい毎日だが・・・やはり異国(異世界)は価値観が違う。
そのうち馴染んで日本でのやり方を当然と思わなくなるのだろうが、慣れるまではちょっと精神的に疲れそうだ。
ある意味海外に行った時のあるある経験みたいな感じ?
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