13.迷宮1階(3)
「お、これが薬草か」
迷宮に入って色々鑑定したりサンプルを採取したりしながら3時間ほど歩いていたら、行き止まりの奥にちょっとした周りに草が生えている水たまりのある場所にたどり着いた。
「その泉は大丈夫だが、迷宮の泉は危険なものも多いから必ず鑑定してから近づく方がいいぞ」
無防備に近づいて手を伸ばした隆一にダルディールが教えてくれた。
「・・・これって泉なんだ?」
よく見たら、確かに奥の方から湧きだしている感じに水面がちょっと持ち上がっている場所がある。
排水先は見えないが、水が湧き続けているのに2メートル程度のたいして深くない水たまりに収まっているのだからどこかに排水口があるのだろう。
おかげで普通の水たまりみたいに見えたので、隆一は迷宮の中でも雨水がたまった水たまりが出来るのだと思っていた。
「迷宮の上層では雨は降らない。
地上から水が漏れてくるということもないから水が溜まっていたらそれは泉か、魔物が擬態したものだぜ」
デヴリンの言葉に再度泉に伸ばしかけていた手が思わず止まった。
「泉に擬態する魔物って?」
「中層の下以降だったら傍に植物が生えていたら食虫植物の魔物の消化液ということが多いな。
そうじゃなくても水の中に魔物が隠れていて、水を飲みに来た生き物に襲い掛かる事もある。
基本的に魔力感知で周りを見回した上で、鑑定で水を確認する癖を付けた方が良いぞ」
消化液が泉になるとは。
なんとも常識がひっくり返される感覚だ。
隆一はまだ魔力感知が得意ではなかったが、どうやら迷宮探索を続けるならば急いで常時使用を習得する必要があるようだ。
上手く習得できなかったら鑑定しまくらなければないかもしれない。
一応目に魔力を集める感じで集中すれば魔力を感知できるのだが、『やろう』と思って集中しないと出来ないので、このままではうっかりやり忘れて痛い目にあいそうだ。
「ちなみに、薬草は色々と試してみたいから採取したいのだが、どのくらい取っても大丈夫なんだ?
子供の収入を絶ってしまうのは避けたいが」
泉の脇にしゃがみ込みながらお目付け役たちに尋ねる。
ダルディールが肩を竦めた。
「迷宮でも繰り返し根こそぎ採取すると再生しなくなることがあるが、普通なら2割程度残しておけば半日も経てば元に戻るから別にさほど遠慮しなくても良いと思うぞ」
ふむ。
他の場所でも薬草も集めたいので、半分程度に抑えておくか。
この世界では幾らでも入るマジックバッグという物は無いらしいので採取する際も手当たり次第に何も考えずに集める訳にはいかない。
代わりに、泉の水は大き目の1リットル入りぐらいの探究者ギルドで購入した折りたたみ式のペットボトル擬き(折りたためる細い枠の中にサランラップみたいな防水素材でできた袋が入っている優れモノ)に集め、ダルディールの背負い袋に入れてもらった。
泉の水は鑑定すると、『迷宮の水:魔力が籠った魔力水』と出る。
さっきのスライム水とどちらが魔力の量が多いのか、興味がわくところだ。
観測する方法を後で錬金術の教師役のヴァダスにでも聞いてみよう。
この世界では当然のように使われている魔力だが、その力のせいか地球から来た隆一にしてみたら、この世界は本当に不思議と矛盾に満ちている。
こんな子供でも取りに来られる迷宮1階で採取できる薬草を使ったポーションですら、地球での医療現場で見せられたら『奇跡だ!!!』と大騒ぎするような効果がある。
なのに、簡単な喘息を抑える薬はない。
肺炎になったらかなり上位の回復師による完全治療を掛けてもらえない限り治療は運と体力任せになる。怪我なら魔力と不思議素材を使ったポーションでは奇跡のような治療が可能なくせに、普通の簡単な病気に対する治療は全然ダメな場合が多く、健康に対する対応策の有無にかなり偏りがある感じだ。
一応、ペニシリンと吸入ステロイド薬は錬金術で生成し、神殿と錬金術ギルドに好きなように研究するように渡してある。
少なくともこれで自分が簡単に救える命に関しては対応策を提供したので、残りはこちらの世界の人々に頑張ってもらいたいところだ。
もっとも、吸入ステロイド薬は予防薬として毎日吸入しておくことで気管支の炎症を抑えておく薬なのに、日本ですらちゃんと正しく毎日吸入している人は少ないと言う話だった。この世界で正しく使われるかどうかはかなり微妙なところだ。
まあ、喘息の発作が起きた時にもそこそこ効果があるので、間違った使われ方をしても助かる人は居ると期待したい。
周りが口に出さずとも願っているように医療系の錬金術の腕を上げることに集中するつもりはないが、地球とはロジックが全然違う治療薬というのは興味深いので、機会があったらそれなりに色々研究はしてみたい。
他はともかく、招かれ人に何かを強制してはいけないという神の教えには感謝してもいい。
この世界では傷は薬草の薬効を魔力でごり押しするポーションで、欠損以外の外傷をほとんどの場合はあっさり直せます。
代わりに病気に関してはかなり高位の回復師じゃないと殆どお手上げな状態。
金持ちや権力者は高位の回復師を雇えるので、基礎研究に資金が回らないんですね~。




