114.ほぼ試運転、少しだけ鍛錬:迷宮4階(4)
「森狼が飛行具までジャンプして飛び乗れそうでもない限り、俺を襲っている間は放置しておいてくれ」
デヴリンとダルディールの飛行具に対する好奇心を満たした後、3人は改めて4階での鍛錬を開始した。
3人と言うよりも、隆一が鍛錬しているのを残りの2人が見ているだけという形になったが。
宙に浮かんでいる飛行具に乗っているのだから初撃で失敗しても2発目でも3発目でも撃てると見込んで、隆一はデヴリン達に手を出さないように頼んだ。
最終的には飛んでいる飛行具の上から魔物を撃破できるようになりたいが、取り敢えずは距離の感覚の調整を省くために森狼がある程度近づいたら飛行具を上空で止める予定である。
そんなことを考えながら迷宮を進んでいたら、魔力探知に森狼が現れた。
(考えてみたら、ある程度この階での鍛錬が終わったら今度は5階や7階で同じように動く魔物の魔力探知での見分けが確実に出来るように練習した方が良いかも知れないな)
この階にははっきりと魔力が現れるのは森狼と林蛇しかおらず、移動速度が明らかに違うのでどちらが来たかははすぐにわかる。
全ての魔物の種類を魔力探知で見分けられるようになる必要は無いが、出来れば一々簡易鑑定をしなくても種類を見分けられるようになりたいところである。
そんなことを考えながら、程よい場所で推進器を逆噴射させて飛行具の動きを止め、勝手に下降しないように上昇方向にごく僅かに推進器の出力を出し続けておこうとしたのだが・・・。
「上手く停止してくれないじゃん」
上昇した状態でのポジションをキープするのにちょうどいい出力でストップするような仕組みが無いので、ふらふらと飛行具が上がったり下がったりしてしまう。
「大丈夫か?」
そんな隆一の様子を見てデヴリンが下から声をかけてきた。
「ああ」
取り敢えず、軽く頭を天井に押し付けられる形でストップすることで停止状態を達成することにして、かなり近づいていた森狼に魔術を放つ。
「水球!」
かなり近くまで来ていたお蔭か、今回は一発で倒せた。
「あ~。
取り敢えず、魔石だけ取っておいてくれるか?」
隆一のリクエストに、ダルディールが頷いて森狼の死骸から魔石を切り出していた。
「反重力の魔法陣を修正して、地表膜を突き抜けた上空で停止する反重力の出力も選べるように二段階にしておいた方が良いな・・・」
隆一は自分への脳裏メモに改善事項として書き込んでおいた。
実際にやってみて確認する必要があるが、地表膜を超えた後だったら3メートルでも50メートルでも反重力の出力は殆ど変わらないはずなので機体を停止した場所にそのまま残るはずである。
とは言え、外だったら風に流される可能性が高いが。
中々難しいものだ。
もしかしたら、飛んでいる状態の方がポジションのコントロールも容易かも知れない。
そう考えるとかなり高性能で複雑な魔法陣を必要とする可能性が高い空中静止機能を開発するよりも、動いている飛行具から攻撃を当てられるように訓練する方が良いのかも知れない・・・。
軍の方では飛行船から攻撃することがあるのか、もしも静止して攻撃するのだったらどうやってそれを達成しているのか一度確認してみよう。
そんなことを考えている間にダルディールの作業が終わったので隆一は再び飛行具を前進させた。
やがて現れた森狼に今度は止まらずに攻撃を加えてみたら、ある意味予想通り、かすりもせずに外した。
「完全に空ぶるのは久しぶりだな。
やっぱり動いている飛行具からの攻撃はまだ難しいんじゃないか?」
下からのデヴリンの言葉にため息をつきながら再び頭を天井につっかえさせて飛行具を静止させ、魔術を練る。
「水球!」
今度はちゃんと命中して、森狼を倒せた。
「・・・もしかして、頭を天井に押し当てないと高度を同じに保てないのか?」
天井につっかえることで微妙に首が変な角度に曲がっている隆一を見て、デヴリンが恐る恐る尋ねた。
「要改善なポイント発見というところだな」
身体を張って試運転+鍛錬中・・・。




