11.迷宮1階(1)
「探索者タグをシャツの上から見えるようにしておいてくれ」
迷宮の入り口で落ち合ったデヴリンに指示されて、昨日受け取ったタグを通した鎖を引っ張り、シャツから出す。
銀のタグをつけた二人に挟まれて木(石ランクでも、流石に石のタグは割れやすいので木片を代用しているらしい)のタグを出したら、すれ違った探索者に二度見された。
これでもっと金持ちっぽい格好をしていたら貴族の若いのがベテラン探索者を雇って迷宮でのレベリングをしていると思われるのだろうが、隆一は普段着に毛が生えたような恰好をしているのでかなり違和感を醸し出しているらしい。
低ランク魔石を30個提出したら青銅ランクに上がれるらしいので、出来れば今日中に集めてもらってランクアップしておく方が無難かも知れない。
隆一としては魔物を殺さなくても基礎体力等が上がるのか確認したかったから、付き添い二人にガンガン雑魚魔物を倒して魔石を集めてもらう予定である。この世界はラノベによくあるように魔物が死んだら魔石とドロップアイテムに姿を変える訳ではなく、解体して必要な部位と魔石を取り出す必要がある。死体は放っておけば勝手に迷宮に吸収されるのは同じらしいけど。
だから魔石を集めようと思うとちょっと時間がかかるが・・・まあ、しょうがない。
ちなみに、護衛に魔石を取ってもらってランクアップしても良いのかと先日そっとスフィーナに確認したところ、『資金力も能力の一つです』とにっこり笑いながら言われたので構わないらしい。
元々、探索者のランクというのはどの程度の依頼や階層まで行っても安全かの目安なだけなので、自分のランクを金で買って何かの時に守ってもらえず迷宮で死んでも自己責任なのだろう。
「色々観測したいので、取り敢えず今日は1階を歩いて回ってマッピングしながら1階に生えているという薬草を採取するのと、この層に出る魔物の解剖や鑑定をしたいと思っている。
まずは本人が直接手を出さなくても基礎体力が上がるのか確認したいから、今日の魔物退治はお二人にお願いしていいか?」
迷宮に入ってタグをシャツの下に戻してから尋ねたら、デヴリンが肩を竦めた。
「回復師も迷宮に潜っていればそれなりにしぶとくなるから、俺たちが始末しても基礎体力が上がると思うぜ?
まあ、1層に出てくる雑魚程度でどれ程成長するのかは知らないが。
取り敢えず出てきたら討伐するから、どっちの方向に進みたいかだけ指示してくれ」
ダルディールの後を続いて足を踏み込んだ迷宮は、遺跡タイプという感じな石造りの迷路だった。
「洞窟のような形なのかと思っていたが、随分と人工的な感じなんだな」
元々、遺跡とかが迷宮化したというのならまだしも、ここは迷宮の周りに人が集まり、街になって栄えてきた都市であると歴史の授業で聞いていたので、この遺跡ちっくな迷宮の外見は隆一にとって意外だった。
石の床の方が歩きやすいので助かるものの、自然発生タイプの迷宮は洞窟タイプが多いと教わったのだが。
「王都迷宮は、王家の先祖であるヴァサール辺境伯がこの地域を下賜されて攻略し、ダンジョンマスターを倒した際にこれからの領地の収入源とするのに使い勝手がいい様に色々と配置や形に関して交渉したという話だ。
まあ、王家にとって都合のいいおとぎ話かもしれないけどな」
デヴリンの説明にダンジョンの攻略について教わったことを思い起こす。
最下層までたどり着ける探索者は各国に1~3パーティぐらいいるらしいが、ダンジョンマスターを倒すのは『たどり着く』のに比べてはるかにハードルが高いらしく、数十年に1度、迷宮が攻略されたという話が出る程度だと授業では聞いた。
まあ、地球での高額宝くじ当選者と同じで、攻略しても公表していない探索者もいるのだろうが。
この王都の脇にある迷宮では、薬草や肉だけでなく鉄などの金属の鉱石も採れるとの話だ。
ここまで人の営みにとって都合のいい迷宮というのは珍しいらしいので、確かに王家の先祖が新しく自分の領地になった地域を栄えさせるためにダンジョンマスターにそういった変更を交渉した可能性は高いかもしれない。
辺境伯という一応名門であるはずの貴族の当主が迷宮を攻略できるほど腕が立つというのは意外な気がするが、もしかしたらその辺境伯は元々戦場で名をあげたタイプの成り上がり貴族だったのかもしれない。
戦功に対して未開発なへき地を下賜されたのだとしたら、継続的に都市にとって必要な資材を提供してくれるよう迷宮を変更してもらう方が、下手に財産や金貨等の一過性の物を貰うよりもよっぽど役に立つだろう。
迷宮にとっても人が来ることがありがたいならメリットがあるだろうし。
・・・迷宮の存在理由として人に来て欲しいのかは微妙に不明な点だが。
そんなことを隆一が考えながら通路を歩いていたら、斜め前を歩いていたデヴリンが立ち止まって床を剣で指した。
「これが、一番弱くて数が多いと言われる一般的なスライムだ。
気絶して寝転がっていたら顔を覆われて窒息死する可能性はあるが、動きが遅いのでそうでもない限りはそれほど危険じゃあない。
ただし、触れると肌が火傷するから気を付けてくれ。
ちなみに、初心者でもここに見えている核を砕くと倒せる。
核を砕くと魔石が取れないので金にならないから嫌われるが」
ふむ。
某RPGソフトによって国民的人気モンスターとなり、ラノベでもテンプレなモンスターとなったスライムが本当に存在するとは感慨深い。
スライムの脅威度はラノベによって大分違いがあった気がしたが、この世界ではどうやら某RPGソフト同様に雑魚扱いのようだ。
「鑑定」
スライムに集中して鑑定してみたところ・・・『スライム:粘液状魔物。物理攻撃耐性(微小)』と出た。
意外にも、魔法が弱点という訳ではないらしい。
もしくはまだ魔物に対する鑑定の精度が低くて弱点は見えないのか。
まあ、物理攻撃に耐性があるみたいだから結果的に魔法が弱点と言えなくもないのかもしれない。
しっかし。
最初にギフトとスキルを教わった際には錬金や治療用の鑑定だと思ったが、魔物にも隆一の持っている鑑定スキルは問題なく使えるようだ。
金属や植物の鑑定にも使えたし、人間にも一応(名前や身長と体重という程度)は使えたので魔物にも使える可能性が高いと思っていたが・・・面白い。
鑑定とは一体どういうスキルなのだろう?
紹介されなくても人の名前が分かると言うのは不思議なものだ。
とは言っても、二階の窓から人を見ている程度では名前は見えない。
何故か、しっかりと話をする程度に接触があると名前が教わらなくても鑑定に出てくるようになるのだ。
何らかの形で周囲の存在の情報をアカシック・レコードからアクセス出来るようなスキルなのだろうか?
何だってそんな情報にアクセスできるのか不明だが、魔法が使える世界なのだ。
鑑定スキルは、魔力を使う回復師や錬金術師のような職業だと技能が上がればそのうち勝手に取得するようになるらしいから、『陰』が形成する世界の共通情報ネットワークがあって、知識が深まるとそれにアクセスできるようになるのかもしれない。
錬金術師としての技能はこの半年でそれなりに磨いてきたが、魔物に関しては机上の知識しかないので鑑定できるか微妙だと思ったが、一応情報は得られた。
迷宮に潜ってもっと知識を増やしたら、魔物に関する鑑定力も治療の際の鑑定と同じぐらいのレベルに深まる可能性はそれなりにある。
中々楽しみだ。
「じゃあ、やっつけてくれ。
魔石を回収して石ランクからはランクアップしちゃいたいんで、可能ならば魔石の回収も頼む」
デヴリンが肩を竦め、ひょいっと剣を振るったところ・・・見事に核の部分がスライムの体から切り飛ばされた。
器用にそれをキャッチしたデヴリンから渡されたその核は、既に魔石になっていた。
「鑑定」
『魔石 (スライム):少量の魔力の凝った塊』とでた。
魔石とは純粋に魔力が固まったものなのだろうか?
だが、そうだとしたら何故『(スライム)』と詳細が出るのだろう?スライムとゴブリンの魔力に何か違いがあるのだろうか?
魔石の使い方の研究をする際には、そこら辺も確認してみたいところだ。
ついでにスライムの死体も鑑定してみたら『スライム液(汚染):汚染された魔力水』とでた。
おや?
汚染されていなければ利用できるの魔力水になるのか?
「スライム液って何かに使えるのか?」
付き添いの二人に聞いてみた。
「地面にこぼれるからそれを集めてきて使う人間がいるとは聞かんが」
肩を竦めながらダルディールが答えた。
ふむ。
汚染されていなければどうなるのか、確認してみたいところである。
迷宮の中にあるという泉から水を汲もうと思って持ってきたガラス瓶を一つ取り出し、錬金で塵取りのような形に変えてみた。
3メートルほど先にいた別のスライムの方に歩み寄ってガラスをスライムの横に置き、魔力を少量放出するような感じでスライムを寄せ付けてみた。
「お。
ちゃんと来た。
本当に魔物って魔力に惹かれるんだな」
そっと水を生成してガラスの上に乗ったスライムを水洗いし、塵取りを浅い箱の形に変えてからデヴリンの方に差し出す。
「ガラスを切らないように、こちらのスライムもよろしく」
再びひょいっと剣が振るわれ、魔石が渡された。
さて。
「鑑定」
『スライム液:アルカリ性の魔力水』
魔力水は各種ポーションの溶液としてよく使われる。
通常は魔術師が魔力を籠めるか、魔石を溶かして作るそうだが・・・スライム液も魔力水になるようだ。
ただしアルカリ性と出ているからそのまま飲んだり触れたりしては危険な可能性は高い。
これは是非、持って帰ってどの程度の魔力が籠っていて、アルカリ性もどのくらい強いのかを確認してみよう。
ちなみに、デヴリンは貴族っぽい外見なので他の探索者から浮かないようにカジュアルな口調を心掛けていたら、ちょっと柄が悪くなってしまいましたw
一応お偉いさんには丁寧な貴族っぽい話し方も出来ますが、今では下町の兄ちゃんのような話し方がデフォルト。




