ゾウリムシ狂想曲
メダカの繁殖を本気でやっている方だとゾウリムシは身近な存在らしい。ネットなどでも「インフゾリア」として売られている。これは淡水微生物の総称らしく、中身はほとんどゾウリムシ。
主に孵化したばかりのメダカの稚魚に与えるものだとあるが、もちろん成魚も食べる。更に水道処理施設などで水質浄化にも用いられるらしい。ここに注目した。
我が家の水槽ではメダカは飼っていないが、熱帯魚に生き餌として与えるのに問題はない。なにより、水質浄化で役立ってほしい。
具体的にいえば、外部フィルター内に定着してデトリタスなどの有機物を分解し、目詰まりを防いでメンテナンス周期を長くしたい。
以上の理由から、うちでもインフゾリアを購入。培養に着手した。
培養法はシンプル。ゾウリムシを含んだ種水に水道水を加えて嵩ましし、そこに餌となる米の研ぎ汁やビール酵母などを与える。或る程度の水温と酸素があればそれで増殖すると学んだ。
「じゃあ、それで」といかないのがアクアリストという生き物である。培養するとなると効率良く進めたくなってしまうものなのだ。実験の始まり。
まずは米の研ぎ汁とビール酵母の比較から。
500mlのペットボトルに100mlの種水と300mlの水道水。左が米の研ぎ汁10mlを加えたもの。右はビール酵母を主成分とするエビオス錠を一錠。
見ての通り、米の研ぎ汁はすぐに沈殿するが、エビオス錠は成分が微細なのか濁りが長い。
その一週間後。
ぱっと見、米の研ぎ汁のほうが多く見えるが、よく見ればゾウリムシ本体が白く育っていてそう映る。増殖はほぼ変わらないので、確保や保存を考慮すればエビオス錠のほうが簡便だ。
こんな感じで大増殖している。苦手な方はお目汚しを勘弁していただきたい。
実験は終わらない。
ビール酵母を主成分とする市販錠剤には「エビオス錠」と「強力わかもと」の二種類が一般的。この二つに違いが有るかどうか検証したい。
左がエビオス錠で、右が強力わかもと。強力わかもとが明らかに黄色い。やはり成分には多少の違いが見られそう。
一週間後、右の強力わかもとのほうが露骨に増殖している。
ただし、この結果は確定的とは言えない。実際に同条件でセットしたボトルでも湧き具合に差が表れる。
何度か同条件での検証を繰り返した結果、うちでは強力わかもとのほうが増殖し易いと判断した。含まれる他の成分が飼育魚にも良い効果を及ぼすと期待して強力わかもとを採用。
更に検証を続ける。
2lのペットボトルであれば二錠で可と紹介されている。それならば500mlには半錠で良い計算。一錠と半錠で試してみる。
左が半錠、右が一錠。沈殿物に差は出るが、確かに増殖の度合いに大きな差は見られなかった。
ただし、増殖がピークを迎える前に餌切れ状態らしき症状が発生し、増え方が頭打ちになる。やはり一錠放り込んでおいたほうが無難らしい。
そしてもう一つの検証。種水を多くすれば増殖のピークは早いとされているので、100mlと50mlで確認してみる。
これは微生物でよく見られる現象なのだが、環境によって増殖力が変化するというもの。その条件の中でも、周囲の個体数に着目。少なければ増殖力を上げる傾向が見られるからだ。
画像は無いが、何度か検証した結果、一週間後の増殖密度に大きな差異は見られない。つまり、ゾウリムシも周囲の個体数が少なければ増殖力を上げるようだと確認できた。
以上から、現在は500mlのペットボトルに種水50ml、水道水350ml、強力わかもと一錠で培養を続けている。
そんな感じで色々と検証したのだけれど、実は一番大事なのは水温である。画像のように、25℃前後に管理された水槽内に浸してないと一週間でピークは迎えられない。じゃあ、ここまでの下りは何だったの、と言われそうだけど、様々な要素を検証してみたくなるものだと理解していただきたい。
アクアリストの中には、こうした思考実験と検証を繰り返している人種が結構混じっている。ひとえに飼育魚や水草の状態を良くしたいとの思いからだが、この思考実験は創作者もよくやっている行為。
こんな状況だとキャラクターはどんな行動と言動をするはず。キャラクターにこう動いてもらいたいから、こんな状況作りが必要。そんなふうに考えている筈だ。
そう考えると、アクアリウムと創作は繋がる部分が有ると思えてこないだろうか?