ゲームは夕飯までに終わらせなさい③
とある城下町。
遅れてログインしてきた二人はさっそく街並みを探索し始める。
その姿は夕飯の時間になっても遊んで戻ってこない子供を迎えに来たと言わんばかりのもの。
「別に迎えはあたしだけで十分だったんだけど?」
「今日の夕食当番はあなただったでしょう。あなたこそおとなしくリビングで待ってればよかったのよ」
「生徒会の仕事で疲れてる人に任せろって言われてもさー、ねぇ?」
「・・・・」
「・・・・」
お互い牽制しあう二人の空気は、町ですれ違う町人や彼女達と同じプレイヤー達にとってあまりかかわりたくない存在だ。一通り街並みを見てまわったがあの男の姿がないことを確認するとふと足を止めた。
「・・いない。クエストなんか今やってたっけ?」
陽菜はゲーム公式からのお知らせを確認する。表示された項目の中に数個のイベント情報がそこに記載されている。
「あの人が積極的にイベントに参加するとでも?」
「あー・・それもそうかも」
絵麻の言葉にすぐ肯定する陽菜は腕を組んで再び頭を抱え始める。
「どこにいるんだよ・・」
「とにかく戦場にいても参加していないことを考えて、どこか見物できそうな高台を中心に探したほうがいいわね」
二人がこのゲームを始めてから三か月は経っただろうか。そもそも始めたきっかけはあの男がやっているのが気にかかった理由が一番だ。その他にも知り合いがよく遊んでいることからじゃあ自分達も流行に乗ろうという雑な願望も含んでいる。
「しっかしゲームの世界だっていうのによく作りこまれてるよね、現実の世界とほぼ同じ」
「普段こういうゲームをしないあなたからの予想通り意見ね」
「いや、絵麻だってゲームあまりしないじゃん」
「でもまぁ、ゲームをしながら勉強もできる時代になったのはいいものだわ」
そう言いながら数学の参考書を開きながら隣を歩く絵麻に陽菜はうげー・・と苦笑いをした。
「いつも通りだなー、ホント」
「何か文句でも? あなたの方はどうなの、次の中間テスト」
「あー・・って言っても来月の話でしょ。まだまだ余裕」
なんてことはないと両手を挙げて首を横に振る陽菜に明らかなため息をこぼして絵麻は瞳を閉じた。
「ご愁傷さま」
「なんでもう駄目だった的な感じなの!?」
「だってあなた、普通に馬鹿でしょう」
「素で馬鹿なのは認めるけど、ほら、もう少しオブラートに包めませんかね? あと、アタシまだ本気出してないだけだから」
その言葉に特に返事を返すでもなく再び歩き出す絵麻。
「いや冗談とか嘘とかじゃないかんね! ホントに頑張る予定だから。無視すんなよコラァー!!」
やーやー言いながら追いかけてくる陽菜の足のスピードに歩幅を合わせる。
そのまま数分歩き続けているとふと、ある会話が耳に入ってきた。
「なあ、例の噂どう思う?」
「どうもこうもないねぇ。そんなスペックの良い武器があるんなら俺だってすぐに乗り換えるさ」
「だよなー。でも聞けばそんな出来のいい話誰も信じないだろう?」
「そんな大層なもんならきっと呪われた品物なんだろうぜきっと」
「ああ、間違いねぇな!」
あははと笑いながら通りかかったプレイヤー達の話に耳を傾けていた陽菜と絵麻は首をかしげる。
「今の話って今開催中のイベントか何か?」
「さあ。そんな話聞いたこともないわね」
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某廃墟工場にて。
そこにいる一人の傭兵は頼み込んできた胡散臭い男の話を聞いて楽しそうに口の端を吊り上げた。
「いいねェー、面白いじゃないか」
「百足殿、お頼み申しますぞ!」
「報酬は高くつくぜ。それでもいいってんなら構わんがね」
「はい。それはもう是非に!」
彼らの知らない間に蠢く闇。
ゆったりとした日常の歯車がここから急速に回りだす。