ゲームは夕飯までに終わらせなさい①
聞きなれた学校のチャイムが鳴る。窓から差し込むオレンジ色の日差しがまぶしい。
そのまぶしさが煩わしく、机から顔を上げる。気づけば帰りのホームルームはすでに終わっていて時刻は四時を過ぎていた。
固まりまくった身体をほぐすために一度大きく伸びをする。
「ひなっち~、ホームルームとっくに終わってんぞー」
「・・ん、おー。おはようまりりん・・」
「おーい、まだ寝ぼけてるのか? 帰りにどこか寄りに行きたいってお昼に行ってた約束忘れたかー?」
一人の少女に声をかけてきたその友達は呆れがちに微笑んだ。
そんな彼女に瞼をこすりながら“たはは・・”と苦笑いを浮かべた。
彼女の名前は四ノ宮陽菜。高校一年でどこにでもある県立の学校に通う学生だ。
彼女の見た目はギャルそのもので制服の着こなし方はどちらかというとチャラチャラでスカートの丈は短め、化粧は学校の校則を気遣ってか、学校ではしていない。髪色は茶髪だが染めているわけではなく、本人曰く地毛らしい。
そんな陽菜に声をかけてきたギャル友達、訳してギャル友の水口鞠。ひなっち通称まりりん。そんなまりりんの容姿は見た目からしてギャルっぽくなく、普通のロングヘアーにチャラチャラしたアクセサリーなどをつけてもいない。本人曰く、学校のルールにはちゃんと守り、プライベートでは自分の趣味全開で楽しむスタンスをとっているらしい。
二人の関係は最近できたばかりだ。四月の入学式からまだ二週間くらいしか経っていない。
帰り支度をする陽菜に鞠は再度聞く。
「そんで、行くの、行かないの?」
「行きます行きます。ぜひご一緒させてくださいまりりん様ー!」
「うむ。苦しゅうない」
なんて他愛ない会話をしながら教室を後にする二人。
同じ頃ーー、
とある別の学校でのこと。
その学校は県の中でもトップ三に入るほどの偏差値のある女学院。
そこの生徒会に努めていて一年生ながらも現生徒会副会長という役職を務めている少女が一人。
学校を入学してまだひと月もたっていないのに、次期生徒会長の座はもう決まったようなものだと生徒や教師達から一目置かれている存在だ。
彼女の名を四ノ宮絵麻という。成績優秀、容姿端麗。クールで大人びた雰囲気をまとっている。長い黒髪と清楚な出で立ち、まるでお人形さんのようだという人もいる。
「副会長、今日はもうお帰りになられるので?」
学校の資料を抱えてそう尋ねてきたのは山谷真子。彼女もまた生徒会メンバーの一人で二人は成績優秀で生徒会に推薦された。その優秀さは上級生の生徒会メンバーも認めるほどのものだ。
「この仕事を片付けたら今日の作業は終わりよ」
「でしたらこの後、食事にでもどうですか? 私、駅前にいい感じのカフェを見つけましたの!」
真子の申し出に絵麻は瞳を閉じて首を横に振る。
「今日は家族と夕飯をとる約束があるから」
「そうですの・・。残念ですけど、仕方ありませんわね。また今度、お誘いしますわね」
少し寂しそうにそう言って別れる真子の後ろ姿を申し訳なさそうに見つめる絵麻。
友人の誘いを断って帰宅した絵麻はリビングへ向かう途中、いい匂いが鼻を刺激した。
夕食時の時間、疲れた身体は休息を欲しがっている。お腹も空腹で腹の虫が鳴りそうだ。
扉を開けてリビングへと顔を出すとすでに台所へ人影が一つ。
学校帰りなのかYシャツの上にエプロンを身に着けて鼻歌交じりにフライパンを使っている少女が一人。
「おう、お帰り」
「・・ただいま」
いつも通りの素っ気ない挨拶。
絵麻はすぐさま部屋を見渡す。とある人物の姿がないことを確認するとちょうど今テーブルに出来上がったばかりの料理を並べている少女、陽菜に尋ねる。
「あの人は?」
絵麻の言葉にピクッと反応した陽菜は一度手を止めて彼女の方を振り返る。
じーっとどこか探るような視線を向けた後、口を開ける。
「そっちが知ってるんじゃないの? 二人で出かけてたとか」
「冗談。今の今まで生徒会で仕事をしてそれを終えてきたのよ。帰り道で彼に出会っていないわ」
「ホントに~!?」
「・・・・」
「・・・・」
二人は数秒睨み合っていたがやがてお互いにため息を吐いた。
「まさか・・」
「まさか、ね」
二人は同じ家族だ。だが、顔立ちは違うし血もつながっていない。
そしてこの家にはもう一人、血のつながらないチンピラもどきがまだいる。