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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第二章 五月
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エルフの帰還

西部地方の首都まで三日で往復するというすご技を、この世界でやってのける者は限られてくるだろう。



朝、珠美は林の中で咲き始めたばかりのウツギの花を見つけた。

小さくて真っ白なベルのような可愛い花が、鈴を鳴らすように細い枝に揺れている。

この花は好きだわ~

そういえば牧場の木陰にもたくさん咲いてたわね。


昨日、デルム村からの帰りにサミー牧場に寄ったのだが、サミーはローレンが転移してきたことを知らなかったようだ。

花祭りのデートの件は、珠美の代わりにローレンに相手を務めてもらうことをサミーに了承してもらったので、一件落着した。

そういえば、一緒に住んでいるゼスが大食漢だから多めに肉をくださいと言ったら、サミーはひどく落ち込んでたなぁ。たくさん肉を買ったのに、どうしてあんな悲しそうな顔をしてたんだろう?



「珠美~! エルフの船が帰って来たよー!」


五月の風が運んできたのは嬉しそうなペロルの声だった。

最初は船に乗るのを怖がっていたくせに、だんだん慣れてきて、雪男のグルを送っていった辺りからすっかり船と仲良くなっている。


ペロルにせかされて家に帰ると、エルフのセレンが裏庭のガーデンテーブルに座り、ゼスと話をしながらお茶を飲んでいた。


「おかえりなさい、セレン。早かったのね」


「帰りました~ タマミ、ちょっと頼みがあるの。首都でガマナ王国の危険性を説いてきたんだけど、残念ながらエルフの政治家以外は反応が薄かったのよ。あの様子だと地方への連絡は後手後手にまわりそうだわ。タマミは最近、リザン町によく出入りしているとサミーに聞いたから、町長に繋ぎを付けられる人を誰か知らないかと思って来てみたんだけど、そんな人はいる?」


「うん、いるわよ」


「それなら紹介して! この辺りのエルフにだけでも、しっかり注意喚起をしてもらわないとね。この近くにはうちの村の他に、リザン町の方にも何か所かエルフが住んでいる所があるの。それにエルフだけじゃなくて、人族にも他国人を警戒しておいてもらいたいのよね」


町長というならカインに頼むのが一番だろう。なんせ息子だからね。

カインの家も知ってるし、ついでにポコットの様子を覗いてくるのもいいかもしれない。

それにフィッシャー鮮魚店に魚を持っていってもいい。トランスが「在庫は一週間はなんとかもつから」と言ってたけど、新鮮な魚があるに越したことはないからね。



珠美とペロルはいつもの船に乗り、セレンは中型の帆船に乗って岸を出発した。

空は晴れ渡り、爽やかな川風が帆船の帆を膨らませている。


親子船のように川を下る二つの船の上では、交互に歌声が流れていた。

珠美がセレンに地球の歌を歌って聞かせると、セレンはスーラ星の歌を歌ってくれた。セレンの歌は伝説のセイレーンのようで、出会った船乗りたちを海の中に引きずり込むのかもしれないと思わせるような、とても魅惑的な声だった。


「タマミ~ こんな音楽会をまたやりましょうよー」


「そうねー 楽しかったわ~」


リザン町までの船旅が、こんなにゆったりとした気分で楽しめたのは初めてかもしれない。



セレンと一緒にカインの家に行き、玄関のベルを鳴らしてみたのだが誰も出てこない。

もしかして仕事に行ってるのかな。バーバラにでもカインの仕事先を聞いてみよう。


すぐ隣にあるポコットの駐車場を通り、裏口から店の中を覗いてみた。店内の売り場では、大勢のお客さんが押し合いながら、商品の取り合いをしている。


わー、なんだか懐かしい気がする。歳末セールという単語が頭の中に浮かんでくるんだけど??


「あらまぁ、タマミ、これって何事なの? 人間族のお祭り?」


セレンがそんなことを言うのも無理はない。この世界に来てからは、こんな風に混雑している店舗を、珠美も見かけたことがなかった。



「あ、珠美さん! よかった、ちょっと手伝ってくれないか?」


お客さんの会計を終えた聡が、珠美に気づいて声をかけてきた。

会計を待っているお客さんはまだ五人いる。


これは、カインの話を聞くどころではなさそうね。


珠美とセレンはすぐに聡の補助にまわった。


珠美が商品の合計額を計算し、聡が客のカードを預かって精算する。そしてセレンが袋の中に商品を入れてお客さんに渡してくれた。聡に言われて、開店記念の景品も忘れないように袋に入れている。


三人でやると、すぐに会計待ちのお客さんがはけた。


「助かった、本当にありがとう」


まだ午前中なのに、聡の顔には疲労が見える。


「すごいですね、開店したばかりなのに大盛況じゃないですか」


「僕もこんなにお客さんが来てくれるとは思わなかったよ。珠美さん、どうやらトルーサ茶が呼び込みの起爆剤になったらしい。もう品薄になったんだけど、余分を持ってないよね?」


「すみません、まだあれから山に行けてないんです。でも、私がもらったお茶がまだありますから、そっちを先に回しときましょうか?」


「ぜひ、ぜひに頼むよ!」


そんなことを話していたら「すみません、お願いします~」とすぐに会計のお客さんがきてしまった。

そちらの対応は聡とセレンに任せて、珠美は休憩室に入り、バーバラが用意していたトルーサ茶用の缶に、『収納』から出したお茶の葉を既定の量を計って入れていった。値札シールに覚えていたお茶の値段を買いて缶に貼ると、缶が入ったダンボール箱を持って、表の店に戻る。


「お、さすが仕事が早いね。じゃあ珠美さんのカードをもらって納入品の清算をするから、その間、会計を頼むよ。二人のアルバイト代もつけとくから、彼女にも後で渡してあげてね」


これは、もうすっかり当てにされているようだ。

珠美がセレンの方を見ると、肩をすくめていたから付き合ってくれるのだろう。



聡たちと交代で昼食をとっている時に、カインや町長のことを聞いてみた。するとポコットが閉店した後に町長の家族がお祝いに来てくれるというので、このままここでアルバイトをして、直接会えるのを待つことになった。


夕方になり客足が鈍った時に、珠美だけ店を抜け出して、フィッシャー鮮魚店に魚を卸しに行ってきた。

ここでも珠美は大歓迎された。

珠美がこの前、来た時に店に並んでいたマグロが全部売れたので、目玉商品がなくなっていたらしい。

これはまた早めに、トルーサ山とハーフェンの港に行かなければならないようだ。



「タマミ、あなたちょっと忙しすぎない?」


セレンにそんなことを言われたが、珠美の仕事を増やしてくれたのは、セレンではないだろうか……

トルーサ山の管理もだし、今回、リザン町に来たのは、ほぼセレンの都合だ。

まぁ、ポコットと魚屋のことは、自分のせいでもあるのだが。


それでもお客さんに「この展示してある子どもの椅子と机が欲しいから、注文をお願いできますか?」と言われると、嬉しさが抑えきれない珠美だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] よし、サミーの落ち込んだ顔を見られたので、もう満足です!← どうかサミーを幸せにしてやってください(ノД`)
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