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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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田起こし

世の中はSunday(にちようび)だが、農業従事者に休みはない。

ハナミズキとツツジが満開になってきたので、そろそろ一度目の田起こしをしておくことにした。


以前、使っていた『耕作・畑』をクラスチェンジした『田』んぼバージョンをイメージして、珠美は統一呪文を唱えた。


「【ドルーチェ コリアンズ ダンバール】」


長靴をはいた珠美が、足の裏に魔法の発動を意識して田んぼの中を歩くと、モコモコと土が耕されていった。

せっかくレンゲが綺麗に咲いているのにもったいない感じがするが、レンゲの花ごとすべてが栄養になるように『粉砕』魔法を併用しながら丁寧に土の中に(すき)こんでいく。

一面ピンク色に染まっていたレンゲ畑が、珠美が歩いていくにつれ、ほこほことしたあたたかい土のジュータンに変わっていった。


今年は、土の中を真冬の寒さに(さら)して虫退治をしていないので、病害虫の症状が出ないように注意深く稲の様子を見ていかなければならないだろう。


林からは小鳥の鳴き声が聞こえていて、レンゲの蜜を吸おうと飛んできた蝶や蜂が珠美に文句を言うように周りを飛び回っている。

蛙や虫たちも、珠美の前から飛んで逃げていき、春の大移動をしていた。


ごめんごめん、ちょっとだけ()けといてね~


小川のそばから始めた田起こしは、大川のそばまでいって終わった。

珠美は大川の土手まで上がって、今日の仕事の成果を眺めてみた。

これは達成感があるなぁ。

ほぼ台形の形をした田んぼが、綺麗に土色に変わっている。後、何回か田起こしをして土の塊を細かくしていけば、春の空気をたっぷりと含んだいい田んぼになるに違いない。


「よしっ、魔法のおかげで仕事が早く片付いたから、今日は何をしようかな~」


朝ご飯の時に起きてこなかったので、ゼスはミーニャに任せて放っておいた。畑を見回った後に一度、家に帰って様子を見ておくべきかもしれない。


畑ではゴボウが勢いよく茎を伸ばしていた。もう少ししたら茎踏みをして、又根がある株を選別しておいた方がよさそうだ。

珠美は間引きができそうなニンジン葉と大根葉を抜いておいた。これは昼ご飯にアゲと一緒に煮物にすることにする。

小川まで行って、採ってきた菜っ葉の下洗いをすると、珠美は裏のクドのところに間引き菜を持って行った。


「田起こしは終わったニャ?」


ミーニャがガーデンテーブルのそばで日向ぼっこをしながら珠美に話しかけてきた。


「終わったよ。思ったよりも早く仕事が片付いたから、午後は何をしようかなと思ってたところ」


「ゼスはまだ起きてこないニャ。ペロルは見回りに行ってる……そろそろ淡竹(はちく)のタケノコが出る頃だから、竹林を見てくるって言ってたニャ」


「へー、そういえば最近は雑貨制作のほうが忙しくて竹林を見に行ってないな。これから煮物を仕掛けて、行ってみようかしら。ミーニャ、火の調整を頼める?」


「いいよ、まかせニャさい」



珠美はアゲと菜っ葉を煮つけた後で、竹林に向かって歩いて行った。

近くまで行くと、竹林の外からペロルの声が聞こえてきた。


「珠美、来たんだね。こっちに来てごらんよ、いっぱい生えてきてるよ!」


ペロルがいる方へ行ってみると、竹林から外れた野原にニョキニョキとアスパラガスのような細いタケノコが出てきていた。

孟宗竹のタケノコとは違って、皮にうぶ毛はない。赤茶色のつるんとした芽が、春の日差しを浴びてすくすくと育っている。


「うわぁ、いっぱいあるわね!」


「うん、でもこいつは掘れないからつまんないな」


ペロルが言うように、淡竹のタケノコはポクッと折れるところまでしか食べられない。折ってみてしなるものは、もう筋張って固くなっているのだ。


珠美はポキポキと音を立てて折りながら、淡竹のタケノコを『収納』にしまっていった。

辺りには竹の淡い香りが漂っている。

このくらい早生(わせ)のものだと、生でも食べられそうね。



タケノコを大量に収穫した珠美は、ペロルと一緒に家に帰った。

井戸のほとりには大あくびをしているゼスがいた。眠気を振り払うように、盛大に水を散らしながら、顔を洗っている。


「ゼスさん、やっと起きたんですね。おそようございます」


珠美の皮肉はちっとも(こた)えていないようで、ゼスは手ぬぐいで顔を拭きながら珠美とペロルをのんびりと見返した。


「ふーむ、君たちは元気だねぇ。どこかに行ってきたの?」


「田んぼを耕した後で、タケノコを採りに行っていました。お昼ご飯に食べられますよ」


「ほう、タケノコか、それは珍しい。最近はそういう山菜を食べていないなぁ。昨日のワラビの煮物も美味しかったから、どんな料理になるのか楽しみだ」


ゼスが日本風の味付けを所望したので、タケノコはサッと湯がいて酢味噌和えにすることにした。


昼ご飯は、菜っ葉とアゲの煮物、タケノコの酢味噌和え、そしてシシャモのハーブバター焼きだ。シシャモはフェンネルを入れて、臭み消しをした。

シシャモをフライパンで焼く時には、こんがりと焼き色がつくまであまりいじらないのがコツだ。

何度もつつくと身崩れして、卵がバラバラとはみ出ちゃうからね。


「ここの家の飯は美味いなぁ」


ゼスは今日もバクバクとご飯をたいらげている。働いてもいないのに旺盛な食欲だ。


「ゼスさん、うちでは『働かざる者食うべからず』というのがモットーです。昼から、ちょっと手伝ってもらいますからね」


「は?」


いくらお客さんだとはいっても、ゼスは招かれざる客だ。貧乏人の家では、ごくつぶしは養っていけない。

偉大な魔法使いというのなら、魔法量はたっぷりとあるのだろう。

珠美はゼスをこき使うことに決めて、ニヤリと笑ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 使えるものは大魔法使いも使いましょう!(笑) タケノコの酢味噌和えが美味しそう(*´艸`)
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