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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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間引き菜と花祭りの山車

今日は大根の二回目の間引きをした。


大根葉はみんな元気がいい。まだ柔らかさのある薄緑色の本葉が、毎日グングン伸びている。根っこも白く太りかけていて、いっちょ前の細っこい大根になっている。

珠美は、栄養が集中するように、三株残しておいた苗を、一株にしておいた。


ふっふっふ、この間引き菜が美味しいのよね~


珠美はサッと塩ゆでした間引き菜の水を絞って、細かく刻んでいった。

刻んだ後の葉をもう一度、手で絞る。

これをごま油を垂らしたフライパンで、ほどよく水気がなくなるまで香ばしく炒めていく。味付けはシンプルに、多めの塩と味付け用のだしの素だけ。

これで間引き菜のふりかけの出来上がり!


ホカホカの白いご飯の上に、みずみずしい青菜をふりかける。

それを一口食べると、文句なしの春の味だ。


「大根もどきの、この小さい根っこもコリコリしてて、いい歯ごたえだわ~」


おもわずご飯のおかわりをしてしまった。

きゃらぶきもそうだけど、これはご飯の供の五本の指に入るわね。



朝食の後、この大根葉とゴマを混ぜて握った三角おにぎりを三つ作った。何日か前に作り置きして『収納』しておいた、ひき肉の大葉巻きも弁当箱に入れておく。

後は、卵焼きでも作ろうかしら。


出かける用意をしているとミーニャがやって来て、珠美が持っている弁当箱を目ざとく見つけた。


「あれ? 今日もどこかに行くのかニャ?」


「うん、畑の仕事は終わったから、ちょっと村に行ってこようと思ってるのよ。花祭りのリサーチもあるしね。ミーニャも一緒に行かない?」


「んー、留守番しとくニャ。でも花祭りのリサーチって何をするの?」


「ほらぁ、花祭りの様子を毛糸の動物で作ろうかなって言ったでしょ?!」


「……もしもし、それは珠美の脳内会話じゃないの? 私は聞いてないニャ!」


「あら、そうだったかしら?」


ミーニャの呆れかえったジト目に、珠美は曖昧に笑った。

そういえばミーニャたちには相談してなかったかも、えへへ。



エルフの船でデルム村へ行くと、船着き場の近くの倉庫に人だかりがしていた。

あれ? 大きな荷物でも届いたのかな?

倉庫前の広場に集まっている人々を横目で見ながら珠美が歩いていると、人だかりの中から珠美に声をかけてくる女性がいた。


「タマミ! 花祭りの山車(だし)が完成したから、見ていきなさいよ!」


大きく手を振って珠美を呼んでいたのは、村一番のお喋りおばさんと言われているベラ・タング夫人だった。

今日もはちきれんばかりのふくよかな身体に、レースをこれでもかというほどたっぷりと使った派手なドレスを着ている。

彼女は若く見える?けど、もう37歳で、珠美と同い年の15歳の娘さんがいるっていうのは以前、覚えさせられたんだけど……


ええっと、確か娘さんは今年の花の精をするんだったわね。シャ……なんとかさん、郵便馬車のトロールが口説いてた娘さんの名前が出てこない。


「ほらシャリナ、挨拶なさい。この人が村で二人目の魔法使いのタマミさんよ」


そうそう、シャリナ。そんな名前だったわね。


タング夫人の後ろからおずおずと出てきたのは、ちょっと鼻が丸くて、そばかすがキュートな女の子だった。ポヤポヤとしたまとまりのなさそうな麦色の髪を、ひっつめのおさげにして、青い目をキョドキョドとせわしなく揺らめかしている。


なんか想像してた子とは違ったな。母親に似ておしゃべりで、もっと気の強い子なのかと思ってた。

彼女は、タング夫人の子どもにしては、内気で大人しそうな娘さんだ。


「こ、こんにちは」


「こんにちは、シャリナさん。初めまして、私は新人の珠美といいます。よろしくお願いします!」


珠美がまだ話しているにもかかわらず、挨拶をしたので自分の役目が終わったと思ったのか、シャリナはすぐに母親の大きな身体の後ろに隠れた。

ああ……他人と話すことは母親にお任せってわけね。こういうタイプの子は塾にもいたな。強い決定権を持つ両親が常にそばにいて指図すると、自我が育たないのよね~


トロールはこの子のどこがよかったのかしら? 歳も倍近く離れてるし。

彼は、気が強いスパポーンさんと言いたいことを言い合っている時の方が、生き生きして楽しそうにみえるけど……

タング夫人の旦那さんは材木業をしている村の有力者ということだから、トロールの狙いは家格ということなの? それは金銭感覚が発達している彼らしいといえば、彼らしいともいえるのか。


「タマミちゃん、身体年齢は同い年になるんだから、シャリナのことをよろしくね! 実は娘の花祭りのパートナーをサミーに頼んだんだけど、断られてしまったのよぉ。タマミちゃんからもサミーに頼んでみてくれない?」


「……はぁ」


なんでそんなことを頼まれるんだろう? 同じ魔法使い同士だから?


「あの、サミーさんとは買い物をする時ぐらいしかお会いしないので、花祭りまでに会えるかどうかわかりませんけど……」


珠美がそう言うと、なぜかタング夫人の顔がパァッと喜びに輝いた。


「あら、そうなの。ごめんなさいね、そんなこととは知らずに頼みごとをしちゃって。いいのいいの、気にしないで。主人の方からもう一度頼んでもらいますからね」


「でも、トロールさんは? シャリナさんを誘ってないんですか?」


タング夫人の満面の笑みが突然、雲に隠れるようにスッと陰ってしまった。どうやら娘さんとトロールとをひとくくりにして語って欲しくなかったらしい。余程気分を害したのか、珠美の方をギロリと睨みつけてきた。


「トロールのことは口に出して欲しくないわ! あんな女遊びが激しい年寄りなんて、うちのシャリナにはふさわしくないでしょう!」


「あ、すみません。余計なことを申しました」


あらら、トロールも親がこれでは見込みなしね。

シャリナの方は自分の話題だというのに、どこかをぼんやりと見ていてこちらの会話には興味がないようだ。

うん、ボーイフレンドを選ぶことにまで母親に口出しされたら、そりゃあやる気もなくなるよね~

シャリナ、が、がんばっ。


珠美が住んでいた日本にも、親子して結婚相手に何かと難癖つけて、慎重に選びすぎていたのか、40歳過ぎても独身という人が何人かいたな。


完璧な相手なんて、どこにもいないのにねぇ。


ふふ、でもサミーは世の中の母親ウケはいいのか。事業を手広くやってて、お金持ちだからかしら?

身体は熊のように大きいのに、ちょっと晩熟(おくて)の照れ屋のサミーの顔が目に浮かぶ。

今度会ったら、からかってやろう。



この後、倉庫の中にある花祭りの山車を見せてもらったのだが、珠美が住んでいた町の千代楽(せんだいらく)に似ていて、大勢の人が引っ張り回すタイプの引き神輿(みこし)だった。

外側に花を生けるための筒がたくさんついていたので、当日には華やかな花化粧が施されるのだろう。

神輿の屋根には金細工のバラの花が咲き誇っていた。なんとも(まばゆ)くキラキラしている。


「これは豪華なお神輿ですねぇ」


「オミコシ? ああ、山車のことね。あそこの上の椅子にシャリナが座るのよ。花の精のドレスを着て、花冠をかぶってね。今年のティンクは、鍛冶屋のトビーと薬屋のタッドなの。二人とも可愛いわよ」


タング夫人は誇らしげに、シャリナの座る場所まで珠美に教えてくれた。

ティンクというのは今年8歳になる男の子が扮する花の精のしもべらしい。緑色の半ズボン姿で沿道の人たちに飴を撒く係なのだそうだ。

ふむふむ、神楽(かぐら)で、背負っている袋から出したお菓子を投げる、大国主命(おおくにぬしのみこと)のようなものなのかも。年老いた大国主命が福菓子を放るのとは違って、少年がお菓子をばら撒く方が、若々しさがあっていいかもしれない。なんといっても瑞々しい春のお祭りだもんね。


珠美は、毛糸の動物たちの花祭りの様子を脳内に浮かべてみた。

8歳の二人の男の子と15歳の少女が乗る山車ね。花の精はウサギにして、ティンクはカエルとリスにしようかしら。花も降るように散らして、動きのある祭りの高揚感を出したいな。

どうやら、可愛い置物ができそうだ。

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