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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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竹細工職人

バンブーは四人姉弟の長女だった。

竹の精なので本当の年齢はわからないが、10歳ぐらいに見える。バンブーの下に幼稚園ぐらいの弟がいて、3歳ぐらいの女の子と赤ちゃんもいた。赤ちゃんは男の子らしい。


優しそうなお母さんは、赤ちゃんのお乳を飲ませていたので、おばあさんが珠美のご飯をよそってくれた。


「さあ、どうぞ。贅沢なものは何もないけど畑で採れた野菜はたっぷりあるからね。欲しいだけ、たんと食べなさい」


「ありがとうございます。いただきまぁす」


バンブーのうちは祖父母、両親、姉弟と三世代が揃った8人家族だけあって、食事時には茶の間と座敷を二間続きに開け放ち、長い座卓も二つくっつけてつなげてある。

その広い食卓に、美味しそうな料理が大皿に山盛りになってひしめいていた。

ご飯の量を心配する必要はなかったみたい。


わー、茶わん蒸しがある! 


珠美は目の前にある大きなどんぶりに目が釘付けになった。

シイタケ、ニンジン、大根、銀杏(ぎんなん)、鶏肉が入った茶碗蒸しは、ツッコんである木のスプーンで、各自、皿に好きなだけ取って食べることになっているようだ。

まずこれからいただくことにした珠美は、取り皿にプルプルの茶わん蒸しをたっぷりと盛って、少しづつ口に入れ、繊細な風味をじっくりと味わった。


久しぶりだなぁ~


この世界に来てからずっと忙しかったし、一人で生活をしてるとなかなかこういう手の込んだ料理を作らない。

なめらかな卵にシイタケや鶏肉の出汁が効いていて、食べていると心が満たされる。

最後に、残しておいた薄緑色の銀杏をパクリと食べる。

あ~美味しい!

まだ黄色に熟していない若い銀杏の色が、竹の精たちのこだわりのようにも思えた。



わいわいと大勢で一緒に食べる食卓は、なんとも楽しいものだ。


「たまみしゃん、これ、おいちぃよ。どーじょ」


隣に座っている小さな女の子が、タケノコの煮物を勧めてくれたので食べてみると、適度な歯ごたえがあって、味に深みがあった。


「本当だ。さすがにここのタケノコは、美味しいね」


「ねーっ!」


その子と二人で顔を見合わせて笑い合う。

女の子と話をしながら、いろんなおかずを一緒に食べていると、バンブーと弟のタケちゃんが騒ぎ立ててきた。


「さぁちゃんばっかり珠美さんと話しててズルい!」


「ずるい!」


「はいはい、バンブーたちともおしゃべりするわよ」


「まぁまぁ、あんたたちは珠美さんを困らせちゃダメよ」


珠美たちの向かい側では、お母さんが姉弟をたしなめながら、赤ちゃんをあやしている。

端っこに座っている父親のオキナさんは、そんな喧騒をもろともせず、おじいさんと今日の釣りの話をしている。

おばあさんは皆の食べる様子を見ながら、必要なものを台所に取りに行ったりきたりして、忙しそうにしていた。


家族って、いいな。


珠美は元の世界の家族を思い浮かべようとしたが、一人一人の顔に少し(かすみ)がかかってきているように感じた。

自分が亡くなってから二十日あまりが経とうとしている。

もしかして四十九日が過ぎたら、ヘイじいさんたちみたいに前世の記憶が薄れていくのかしら?


寂しいような気もするけれど、それもまた魂の(ことわり)なのかもしれないわねぇ。



おばあさんとお母さんが食事の後片付けをしている間、珠美は子ども達と一緒に赤ちゃんのひいちゃんの守りを仰せつかった。

ひいちゃんは、ヒコという名前で、産まれて三か月だそうだ。お姉ちゃんたちの話声がする方に顔を向けているので、そろそろ目がはっきりと見えてくるころなのだろう。

珠美の指をひいちゃんの手のそばへ持っていくと、小さな紅葉のような手で、ギュッと握ってくれる。

うー、可愛い。胸がキュンとするわね。



「珠美さん、前に言ってた竹細工のことだけど、うちのお父さんにまだ習いたいと思ってる?」


バンブーが突然、思い出したかのようにそんなことを聞いてきた。


「ええ、できたら教えて欲しいわ。『竹細工』魔法は習得したんだけど、本物の職人さんにはかなわないと思うのよ」


「それなら後で一緒に作業小屋に行ってみようか。今、私も習ってるから」


「ぼくもならってるんだよ! たけわりはむずかしいんだ」


弟のタケちゃんが、勢い込んで教えてくれた。


「へぇ~、タケちゃんはもうお仕事をしてるんだ。お兄ちゃんだね!」


珠美が()めてやると、タケちゃんは嬉しそうに「へへへっ」と笑った。



確かにタケちゃんが言うように、竹割は難しい。

目の前で、二分の一、四分の一、八分の一、十六分の一……とどんどん割れていく竹を見ていると「職人芸」という言葉がよくわかる。

オキナさんは、薄いペラペラの紙のようになった竹の皮を珠美に見せて「やってごらん!」とニヤニヤ笑った。


くっそ~、やってやろうじゃないの!


「【トナリノカキニ タケタテカケタ】!」


ふう~、言えた。

この『竹細工』魔法は、呪文が難しいのよね。


珠美が魔法の助けを借りて竹割を重ねていくと、黙って見ていたオキナさんの顔色が変わった。


「ほほう、魔法というものはすごいな。珠美さんは竹の精と同じぐらい竹に精通しているようだ。それなら今、割った竹で、こんなものを作ってごらんなさい」


オキナは紐細工で作るような金魚を、竹の薄い皮紐で作っていく。

珠美はオキナの手さばきをジッと見て覚えて、その通りに再現していった。


「……珠美さん、うちの集落へ住まないかね? 本家のタケオが、珠美さんとお似合いの年頃だと思うが……」


「ちょっと、オキナさん。冗談がきついですよ~」


「いや冗談なんかじゃない。ワシは本気で言ってるんじゃが」


マジかぁ。


「オキナさん、私は人間ですよ! 竹の精霊とは違うんです」


「なんとも、それはおしいことじゃなぁ」


もう、本当に勘弁してほしい。

人間と精霊が結婚できるわけないじゃん! 

……だよね?

ペロルに確認してみたら、頷いてくれた。やれやれ。



ペロルは食事の時は庭で待っていたけど、作業小屋には一緒に来ている。

バンブーはペロルが神様の使徒だということを聞いて、おそるおそる二人で言葉を交わしているようだった。少しは、苦手意識が取れたのではないかと思う。

けれどまだ、二人の間には距離がある。

犬嫌いというものは、そう一朝一夕には解消しないのだろう。


オキナさんに習って良かったのは、釣り竿の印籠継(いんろうつ)ぎの作り方だ。


「いくら『収納』魔法があるからって、一本竿の『のべ竿』じゃあ便利が悪かろう」


そう言って、五つのパーツを継ぎ足して一本の竿にする印籠継ぎを教えてくれた。

オキナが作ったものは、継ぐ時の音がまったくせずに、スッと吸い込まれるように竿が継がれていく。

そしてピタッとハマったまま、竿がよくしなるのだ。


「すごぉい……」


釣り竿を何本も持っていたうちの父親も、ここまでいい竿は見たことがないだろう。

やはり、オキナさんは名人級の腕を持っているようだ。



珠美はオキナの作業を観察して真似をしながら、自分の手に覚えさせていった。

すると、ピコンッと目の前に文字列が現れた。


〔レベルアップに伴い、竹細工魔法が進化しました。『竹細工』魔法は『竹細工名人』に統合されます〕


珠美がとうとう竹細工でも名人の称号を得た瞬間だった。

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