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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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釣りの準備

エイプリル(4月)も後半になってきたので、もうそろそろ霜の心配はなくなるだろう。

珠美はようやく、寒さに弱い野菜の種蒔きに着手することにした。


月は下弦の月から新月に向かっていて、地球でいうと潮の干潮では「長潮」にあたる日だと思う。

今日は満月から数えて12日目なので、葉物類の種蒔きに最適な日になる。葉物類だけではなく、苗を植えると根の活着がいいし、摘芯(てきしん)剪定(せんてい)をした時にも植物にダメージが少ないといった利点もある。

植物というものは月の運行に大きな影響を受けるらしい。それがこの異世界で通用するかは、わからないけど。でも、気は心よね。


種蒔きが終わったら、今、畑に生えている野菜にも追肥をしておく。

これはもうすぐやってくる新月、つまり月が星の影に入って太陽の光に照らされずに見えなくなる日に、肥料が効きやすくなるようにするためだ。



珠美は午前中かかって、シロウリ、マクワウリ、トウモロコシ、大豆、スイカの種を蒔いた。

大豆は販売用に作るので、広範囲の種蒔きだ。ただ、ずっと前に畝をこしらえてあったので、種を蒔くだけだとそんなに大変ではなかった。

どちらかというと種を蒔いた後に、鳥が土を掘り返して食べないようにしておくことが大切だ。

豆はすぐに狙われるからねぇ。


「【ダメデス トリハ ハイレマセン】!」


珠美は畑全体に『防鳥』魔法を使って、バリアを張っておいた。



昼ご飯には、塩出ししたシャジッポで油炒めを作った。


⒈ よく塩抜きしたシャジッポは、ザルに入れてしっかり水気をきる。

⒉ フライパンにごま油を熱して、はらわたと頭を取った煮干しを焦がさないように炒める。

⒊ 煮干しがこんがりとしてきたら、シャジッポを入れてよく炒め、醤油をたらして味をつける。


本当に素朴な田舎の味なんだけど、なぜか懐かしいんだよね。

たぶん、小さい頃に母親に作ってもらってたんだろうな。



昼食の後に、金属の置物や小物入れ、ナイフやフォークなどのカトラリーを作った。

フクロウ、カエル、エッフェル塔などの置物は、日本の店でよく見かけていたのですぐに作ることができた。こちらの世界での売れ筋がよくわからないが、地球から転生して来た人間もいるようだから、デザインの流行りを大きく外してはいないと思う。


カトラリーは、やはり一セットは銀で作っておくべきだろう。

欧米では裕福な家に産まれた子のことを「銀のスプーンをくわえて産まれてきた」と言うらしい。

銀は毒に触れると変色して反応するので、貴族の家ではよく使われていたそうだ。銀食器を使う理由としては、なんだか悲しいものがある。お金や地位があることばかりが幸せじゃないんだねぇ。


銀のカトラリーは黒ずまないように常時、磨かなければならないのが骨だが、『保存』魔法をかけておけば、少しは輝きのもちがいいかもしれない。


塩コショウ入れは、軽い木製にすることにした。

目の詰まったリョウブの木から、『抽出』『成形』『研磨』の魔法を使って、ブタや魚などの生き物の形を取り出してみたり、使いやすい長四角のスマートなフォルムの入れ物を作ったりした。もちろん粒コショウを引くことができる容器も、金属片を組み合わせて作ってみた。

あれ、ペッパーミルっていうんだっけ? 


キノコの形をした塩コショウ入れが可愛らしくできたので、これは我が家用にと余分に一セット作っておいた。

ふふ、このぽってりした形がいいわ。

キノコの傘部分は、間違えないように赤色と紺色に、色分けしておこう。やっぱり、コショウの方が赤かなぁ。



「ねぇねぇ珠美、ひと段落したんなら、魚釣りに行かない?」


塩コショウの容器をテーブルの上に置いて、満足感にひたっていた珠美に、ペロルが遊びに行こうと誘ってきた。

そういえば最近はペロルと散歩もしていないな。


「魚を獲りに行くんなら、釣り竿が必要ね。どんな所で釣りをするのかで、竿の長さも違うわよ。ペロルはどこで釣りをしようと思ってるの?」


「この間、グルさんを送って行った時に上流のいいポイントを見つけたんだよ。あんまり源流に近くない渓流といったらわかる?」


なるほど、釣り好きの人たちが好む釣り場なのね。

珠美は実家の祖父や父親ほどには釣りをしたことがない。おじいちゃんは昔、船で川に出て投網を打ったりしていたが、漁業権がうるさくなってからは漁に出ることはなくなった。


この世界はまだ、そういう権利を管理しているところがないんだろうな。

漁業にしても農業にしても自然相手の闘いなのに、ビルの中でふんぞり返っている「長」やら「役」やらが付く人たちばかりが、私腹を肥やして偉そうに権利を主張している感じがする。

珠美が住んでいた地域の権利主張組合などは、組合員がほとんどいなくなって、銀行業務しかやっていなかった。銀行よりもサービスが悪いのに、昔からの付き合いで保険に加入させられたりして、迷惑な団体だった。

珠美も友達がそこの職員だったので、お付き合いをしていたことを思い出す。


そうやって情に訴える割に、組合はおじいちゃんが死んだときに、すぐに通帳のお金を出し入れ出来ないように凍結した。お坊さんへ渡すお布施をおろすときにも、一番高い住民台帳の写しや死亡証明書、県外に住む兄弟全員の印鑑が必要だったりして、とてつもなくお金と手間がかかった。

組合員に融通を利かせるために作ったハズの団体なのに、本末転倒だ。


その次に困るのが元公的機関局だ。

「本人以外は、通帳の出し入れをすることはできません」と涼しい顔で言うんだよね。

本人は、もう天国に行っているんですといくら言っても聞いてもらえなかった。


一番対応が良かったのは、普通の銀行だ。

死んで一日以内ならATMが使えたので、ここから葬式代を出すことができた。


ただ、年寄りは組合と機関局にメインでお金を預けているから、困るのよねぇ。


あ、釣りの話だったわ。


閑話休題。



珠美は初心者でも使いやすい「のべ竿」という、継ぎ目がない一本竿を作ることにした。

魚を待ちながらずっと持っているものなので、軽い方がいいと思ったのだ。それに魚がかかった時に暴れられても壊れない強度も必要だ。


この機会に、憧れのフライフィッシングをしてみたいな。

マンガの釣キチくんがやってたのがカッコよかったのよね~


ということは毛鉤(けばり)も作らなくっちゃ。


本格的にやるのなら、魔法も習得しておきましょう。


珠美は『釣り』と『釣り具製作』の二つの魔法を取っておくことにした。


『釣り』・・・【シナルテゴタエ ハズムミズ】

『釣り具製作』・・・【コッテ ツクレバ フッフッフ】


これで下準備はオッケーね!



今釣るとしたら冬越しの成魚になるため、釣り竿の強さや糸の太さは、ライトではなくミディアムよりにすることにした。

竿の調子は、真ん中ぐらいから大きく曲がる胴調子がいいかしら。

これだとしなりが大きいから仕掛けが切れにくく、大きなしなりを利用して、魚が引く様子を楽しめると聞いたことがある。

竿を持った時の「持ち重り」があると疲れるので、軽くてよくしなる金属と木を使って、4メートルより少し短かめの竿を作ることにした。


毛鉤(けばり)の方は、絹糸と鳥の羽も使って作っていく。

『釣り具製作』魔法に『金属加工』魔法も重ねがけして、何本も釣り針を作った。


釣り針ができたので、裏の林に行き、落ちていた鳥の羽を拾ってきた。


……もしかしてこれは、ミーニャの獲物だったのかしら?

うう、ごめんね。


こういうことを想像せずに、黙って作った方がいいかも。


まずは釣り針を、ペンチに挟んで作業台に固定する。その針に羽をクルクルと巻いて、それを止めつけるように上から糸で巻いていく。糸は縫物をする時の玉止めの手法で、最後にほつれないように止めてから糸切りをする。

羽の方は、羽虫の形に似せて、ハサミで形を整える。


この似せる作業というのが一番面白いかもしれない。魚との知恵勝負だね。


地味な色合いで作って本物の虫らしくみせたり、目立つ派手な赤い色を効かせてみたりして、色も工夫してみた。


羽の形を(もてあそ)んでいると夢中になってしまって、ペロルが「珠美、もうそのくらいでいいんじゃない?」と言っている声も耳に入らなかった。


「これ、どーするニャ?」


「ものを作り出したら、珠美は突っ走るね。いつになったら釣りに行けるんだろう……」


ペロルの諦め声がシーンとした作業小屋に響いていたが、珠美はちっとも気づいていなかった。

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