表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
49/77

天地返しと建築

雪男のグルは一人で山に帰ると言い張っていたが、結局、ペロルがエルフの船で川の上流まで送っていくことになった。


ポレーヌ川の上流に着いても、ガルデン山脈にあるグルの集落には、いくつもの山を越えていかなければならない。

その上、グルの船だと、川を逆上ろうと思ったら、魔法燃料をひどく消費することになる。

いろいろと手伝ってもらったせめてものお礼に、珠美がグルを送っていくと言ったら、ペロルが「僕が代わりに送って行くよ」と言ってくれたのだ。


グルの古びた船を曳航(えいこう)したエルフの船が、二人を乗せて川を上っていくのを、珠美とミーニャで見送った。


「タマミさぁ~ん、ありがとうごぜえましたぁ!」


「元気でねー! みなさんによろしくー!」


大きく手を振るグルの毛むくじゃらの姿と、足を踏ん張って船の中に立っているペロルの姿が川の向こうに消えていくと、珠美とミーニャもやっと岸辺を離れた。


「船での別れって、なんだかちょっとセンチな気分になっちゃうね」


「そうニャ~ ゆっくりとした別れなのに、水という絶対的な溝が互いを隔ててるからかニャア」


「おおっ、ミーニャ、哲学的~」


「ふ、ふん、そんなことはどーでもいいニャ。ペロルがいないうちに堆肥(たいひ)天地返(てんちがえ)しをするんでしょ!」


「うん。あれは臭うからねぇ」



西の原っぱの近くに落ち葉や完熟牛糞を重ねて寝かし、自家製の堆肥を作っている。

『発酵』魔法で熟成させてはいるけれど、一度ぐらいは上と下を天地返しをして、まんべんなく発酵が進むようにしておきたい。


グルと食べた昼食の後片付けをした後で、珠美はこの農場に来た時に用意されていた一番シンプルな作業着に着替えた。

この服はだいぶくたびれてきたから、汚れ仕事専用の仕事着にすることにしよう。


堆肥のムロの所まで歩いて行って、風よけのために置いていた石を下ろし、上にかぶせておいたムシロを取り払うと、何ともいえないムワッとした臭いがした。

臭うということは、まだ発酵の途中だということだ。


珠美は『念力』と『ウィンド』を上手く使い分けながら、ムロの三面の竹の壁を取り外し、残った一つの壁を起点に、隣に新しい囲いを作っていく。

これは『建築』魔法を取得していたおかげで、あっという間に組み立てられた。

以前はここまで速く囲いを作ることができなかったと思う。


牛糞と落ち葉で交互に積み重ねられたミルフィーユの層のようになっていた堆肥は、全体が黒ずんで混ざり合ってきているように見える。

よしよし、いい感じじゃない?

虫も住み着いているようだから、優しく天地返しをしなくちゃね。


「【ディグディグディグダ ダグディディグ】」


『掘削』魔法で、新しくできた隣の囲いに、少しずつ堆肥をひっくり返して入れていく。プリンをすくっているぐらいの手ごたえで作業することができるので、身体への負担がほとんどなかった。

ふぃ~、いい感じ。

堆肥の一部分は、もう発酵が終わって森のような匂いになっていたので、あと5日ほどしたら畑に使えそうだ。

珠美は新しいムロの上に、もう一度わらのムシロをかけて、重石の石を置いておいた。



思ったよりも早く堆肥の天地返しが済んだので、珠美は雨除けがついた物干し場を作っておくことにした。


んー、どこに作ろうかしら?

母屋の東側に作ると、お客さんが林沿いの道からやって来た時に洗濯ものが丸見えになるのよね。かと言って母屋の西にはトイレがあるし、堆肥置き場にも近くなる。着るものに臭いが付くと嫌だな。そうするとやっぱり作業小屋の東側しか空いてないか。

そこにはペロルの小屋がある。

本人がいないうちに小屋を移動させたら怒るかなぁ?


ミーニャに聞いたら「いいんじゃニャい?」と言うので、決行することにした。


そういえばお風呂も作りたいな。

珠美の脳裏を、トルーサ山で温泉に入った時のほっとした情景がフワリと横切っていく。

ふふふ、こうなったらお風呂も併設した洗濯干し場にしてしまおう!

残り湯で洗濯ができれば、汚れが落ちやすいかも。


「【トントン カンカン タテマショウ】!」


『建築』魔法を発動した珠美は、まずは砂利石を敷き詰めてしっかりとした土台を作った。そしてトルーサ山で伐ってきた木に『乾燥』魔法をかけながら、林に近い場所に風呂場を建てていった。

束石(つかいし)に柱を建てるときや棟を渡すときには『ウィンド』や『念力』魔法を使った。

重たくて長い木がスパンッと切られたり、空中を飛びかうさまを見て、ミーニャが呆れていた。


北と東に窓を作ろうかしら。

北の窓からは林の緑の木々が見えるし、東側には小川のせせらぎがある。

おー、これってそこいらの温泉宿よりも贅沢な環境だね。


風呂場の床は少し高くして、湯船のお湯が隣の部屋の洗濯室の洗い場に流れるようにする。洗い場はもちろん立って洗えるようになっている。

今は15歳の身体だけど、いずれ歳をとるからね。洗濯をする時に腰が痛くないようにしておくことは肝心だ。


洗い場からは小川の方に汚水を流せる管を作っておく。汚水は『浄化』魔法をかけた後に流す予定だ。

もちろん、小川の上流から管を引いて、高低差を利用して水を貯水し、クドで温めたお湯を湯船に運ぶシステムも備え付けた。

管は錆びにくいステンレスを使って作ることにした。


生活動線を考えると、脱衣室と洗濯室はドアで繋がっていた方がいいな。

それに脱いだものが壁から直接、洗濯室に入るように落とし穴を空けとけば便利じゃない?

珠美は着替えなどを置く台をこしらえた壁の先に、猫用のくぐり戸のようなものを作って、脱いだものを隣の洗濯室のカゴに落とせるようにした。


風呂桶は(ひのき)にしようと思っていたのだが、『鑑定』をしてみると(さわら)の木の方が相応しいということがわかった。


(さわら)

ヒノキ科 常緑針葉樹


真っすぐな木目で、木肌はヒノキよりも荒い印象を受ける。しかし、加工がしやすく、すこぶる水に強い特性がある。材の匂いを感じないので、寿司桶や飯櫃(めしびつ)にも重宝な木材である。



これはいい。お風呂は水に強くて腐りにくいのが一番だ。

風呂桶は楕円形にして、縁に添って中にベンチを作り、湯冷ましに窓の外の林や小川が眺められるようにしておく。


端材でついでに寿司桶と弁当箱を作り、波状の洗濯板や、持ちやすい風呂桶、それに大きめの洗い桶も作っておいた。

こういう時の作業は『木工』魔法が大活躍だ。


建物自体には杉やヒノキを使ったので、なんともいい匂いのするお風呂場になった。



洗濯室に続けて、差し掛け屋根がある物干し場を作っていく。

雨が降り続く時や冬場にはぐるりと壁で仕切れるように、地面には、壁をはめ込むための基礎の溝も作っておいた。

後は天井から吊るした金具に、竹の物干しざおをかければいいだけなので、これは簡単に作ることができた。


今回の建物の屋根には以前とっておいたヒノキの皮などを使っている。

『保存』魔法をたっぷりかけておいたので、これで雨も漏らないだろう。



後は、ペロルの小屋だよね~

珠美は母屋の東側に差し掛け屋根を作って、そこに『念力』でペロルの小屋を移動した。

珠美とミーニャが、新しい場所に移った小屋を眺めているところに、ペロルが帰って来た。


「ただいまー、二人で何やってんの?」


「あ、おかえり~。遠くまでお疲れ様。ええっと、今日からペロルには、こっちに住んでもらおうと思って小屋を移してみたんだけど、どうかな? 大雨の時に困らないように差し掛け屋根もつけたんだよ……」


ペロルは目を大きく見開いて辺りを見回していたが、しばらく何も言わなかった。

これは、まずったかも。やっぱり聞いてからにした方がよかったよね。


「珠美……もしかして、ここを全部掘ってもいいの?!」


「そっちニャ?!」


ミーニャの突っ込みに、珠美も激しく同意した。

やれやれ、ペロルが家の移動のことを気にしないでくれて助かったよ。


三人で新しい風呂場や洗濯室のことを話しながら食べた夕食はとても美味しかった。

ペロルは船でグルといろんな話をしたようで、スノーマンたちの生活や山に住む動物のことを話してくれた。



珠美は木の香りが匂いたつ真新しい湯船につかりながら、風呂場の窓から入ってくる涼やかな風に息をついていた。

気持ちいい~

労働の後のひとっ風呂は最高だね。

夜はカーテンを縫おうかなぁ。


疲れを知らない珠美の快進撃は、まだまだ続きそうである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ