表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
45/77

毛糸

バーバラは、珠美が『新鮮適温収納・倉庫』から取り出したアクセサリーに釘付けになっていた。


「すっごい、こんなアクセサリーは見たことないわ! これはどれも斬新なデザインね。タマミったら、どれだけ隠し玉を持ってるの?」


あ、良かった。

見た目が完璧に外人のバーバラに受けいれられるんだったら大丈夫だな。


「日本風なデザインだから、ちょっと心配してたの。じゃあ、買い取ってもらえるかな?」


「もちろんよ! 日本人というのは謙虚ねぇ。こんな素敵なアクセサリーを作れるんだから、もっと自信を持ってよ、タマミ」


バーバラに背中をバンッと叩かれて、珠美は曖昧に微笑み返した。

自分としてはなかなかいい出来だと思っていたけれど、この土地で売れるかどうかが大事だからね。

バーバラの緑色の瞳が商品を認めて、本気でほめてくれているようだったので、ようやく安心できた。買い手を前にしたプレゼンテーションは緊張するわ。


「タマミ、このアクセサリーを見るとわかるけど、職人が作るような木工や竹細工だけじゃなくて、あなたはデザイン力もあると思うの。服飾の方もやってみない? この間着てきた服も良かったし、今日着てるのは色違いでしょ?」


前回、着ていたのは黄色のシャツに水色のチェックズボンだった。

今日は水色のチェックのシャツに紺色のズボンの作業着だ。


「そうだけど……作業着だよ、これ」


「胸の切り返しも、背中のヘムも工夫してあるじゃない。動きやすくて、普段着にできて、こういう服を雑貨屋においてもいいんじゃないかしら? ごてごてと飾り立ててなくてシンプルな服、冬には毛糸で編んだ帽子や手袋やショール、それにベストやセーターなんかもいいわね」


バーバラの言いたいことがわかってきた。

そういえば、日本の雑貨屋にもエプロンの延長線上にあるような、カントリー調の服が売られてたな。


「毛糸のもとの羊毛は、もう大量に仕入れてあるのよ。じゃあ今度は、ポコットがまだ仕入れてないような製品を試しに作ってきてみる」


「毛糸?! まだ春なのにあるの?」


「う……ん、あるよ」


なんでそこに食いつくのかな??


「知り合いのスノーマンが毛糸を探して山を降りてきてるんだけど、どこの店にも在庫が少なくてね。ほら、今年は冬が長かったでしょ? 皆が防寒グッズを作るのに、毛糸を買った後なのよね~。あ、タマミは最近こっちに来たばかりだから知らなかったか」


「ええ」


それより、スノーマン? 雪だるまのこと??


「彼も、川下のもっと大きな町へ行かなきゃいけないのかなって悩んでた」


バーバラに詳しく話を聞くと、スノーマンというのは雪男のことだった。

雪男って、誰も見たことがない伝説の存在かと思ってたけれど、どうも違ったみたいだ。遠く西北の方にあるガルデン山脈に古くから住む民族の総称らしい。

そういえばずっと前に、ペロルがあっちの高い山には雪男がいるって言ってたような気がする。

春先の雪解け水が増えて、船で下流の町へ来られるようになると、山では手に入らない製品を求めてやって来るそうだ。


「それじゃあ早めに毛糸を用意します。明日は……農場の仕事があるから、あさっての午後遅くにだったら、ここへ届けられると思います」


「そうしてくれると彼も助かると思うわ。ボスゴーまで行くと往復で一週間はかかるから」


そうか、雪男とはいってもエルフの船があるわけじゃないから、隣町に行くだけでも何日もかかるんだ。

こうしてみるとセレンに船を貸してもらったのは、幸運だったなぁ。



アクセサリーを納品した後は、商品の値段付けをしたり、裏の駐車場に馬の手綱を結ぶ柵を作ったりした。

駐車場の整備は、後回しになりがちな懸案事項だったらしく、バーバラはとても喜んでくれた。


「タマミが来てくれると、一気にやることリストが片付くわね。聡に頼んでいるのになかなかできなかった繋ぎ(ぐい)が、こんな短時間でできちゃうなんて! 助かったわ、タマミ」


「こんなことは、お安い御用です。今度来た時に、馬の水飲み場を作りますね」


定期馬車のステーションや、ポコットに歩いてくる道々で他の店の駐車場を見ていたので、馬用の設備が必要なのではないかと思っていたが、やっぱりそうだったみたい。


今日の仕事はほぼ終わったというバーバラと一緒に、アルバイト時間の残りの30ミニッツは休憩してお茶をすることになった。


「これ、ちょっと食べてみて! ルバーブパイを焼いてみたの」


バーバラが作ったというパイを食べさせてもらったのだが、これが甘酸っぱくて美味しかった。まわりのパイ生地もしっとりしたタイプで、ケーキのような感じだ。


「物語では読んだことがあったけど、初めてルバーブパイを食べたわ。ルバーブって、この辺りでも採れるの?」


「採れるわよ。前にタマミから山菜をもらったでしょ。山菜が採れる所にはルバーブも生えてるわよ」


「あらら、知らなかった。日本の食材ばかりに目がいってて、ルバーブってどんなものか探したこともなかった」


バーバラから詳しい形状を聞いたのだが、どうもホウレン草の茎が赤くて太い感じらしい。茎の部分はフキやセロリのようになっていて、この部分が甘いそうだ。

なるほどぉ。シャジッポのホウレン草バージョンって感じか。

今度、林に入った時に探してみよう。


「葉っぱには毒があるし、食べ過ぎると下痢になるから気をつけてね」


「下痢?!」


「そう。ルバーブは便秘の人にいいのよ。昔の人は下剤にしてたんだって」


「へぇー」


ルバーブにもほうれん草のようなシュウ酸があるのかな?



バーバラとは家のインテリアのことでも、話がはずんだ。

さすがに雑貨屋を始めようというだけあって、バーバラのインテリアにかける情熱は半端なかった。

バーバラの家は、色やコンセプトを替えてそれぞれの部屋を整えているらしく、町に引っ越して来る時には部屋の模様替えを考えているそうだ。


珠美がこれからカーテンを作るつもりだと言うと、「独り暮らしの若い女の子なのに、まだカーテンをつけてなかったの?!」と怒られてしまった。

うん。

見た目は若い女の子だけど、中身はおばあちゃんだからね。

人里離れた田舎だし、忙しさと貧乏を理由になかなかカーテンを作るところまでいかなかったのよ。


ここ二日ほどで、なんとかカーテンがつけれたらいいな。

珠美はのん気にそんなことを思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ