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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
30/77

手作り三昧

家に帰った珠美は、まずは腹ごしらえをすることにした。

朝作ったスープの残りに、ケチャップと砂糖を入れてトマトスープにした。

昨日の焼きタケノコの下の部分は、水に浸けていたワラビや、すじを取ってから下茹でをしたフキと一緒に、山菜の煮つけにした。

フキは多めに下茹でをしてアク抜きをしておいたので、残ったものは収納倉庫にしまっておいて、また油いためにする予定だ。

収納倉庫は、量を食べることができない独身者の味方だね。


和洋折衷の食事だったが、どちらもご飯に合うので問題ない。

きゃらぶきはふきの煮物とかぶるので、今回は食卓に出さなかった。そうすると漬物のようなものがない。それがちょっと口寂しい感じがした。シャジッポでも採ってこようかなぁ。


昼食の片付けをした後で、珠美はサミーに頼まれていた熊手を作ることにした。

外は大雨になってきているので、今日は家で過ごすしかないだろう。

珠美は『防雨・傘』を使いながら、農具小屋に歩いて行って、ここに元々あった熊手を作業台に置くと観察を始めた。


「まずはこれをよーく見ないと。だいたいの作り方が想像できたら『竹細工』魔法で何とかなるでしょう」

「珠美って、あっちの世界で楽天主義って言われてニャかった?」


ミーニャが珍しく小屋までついてきたが、手伝うつもりはないらしく、小屋にあった(わら)の山の上でゆったりと横になった。


「楽天主義というより、前向きって言ってよ」


珠美の方も言われたことを気にするでもなく、熊手を観察することに集中していた。

まずはパーツを作っていけばいいのかな?


〔竹の熊手の作り方〕

① 真竹を55㎝ぐらいの長さに切る。

② 掻き手が12本、固定する横棒が4本で幅は15㎜ぐらいに割っておけばいいのか。

③ 厚みも4㎜ぐらいに揃えて磨いておく。

④ 掻き手の先端を尖らせる。

⑤ 掻き手の根元を扇方に組みやすいように削っておく。左の6本は左側、右の6本は右側を削った方がいいみたい。

⑥ 炭で先端をあぶって、曲げてあるみたいだな。珠美は『ファイヤー』で焦がさないように注意しながら、先端をあぶった。表面にプツプツと竹の油が浮いてきて光沢が生まれたら、あぶるのを止めて『成形』魔法をかけて曲げていった。これは強めに魔法をかけないと、すぐ元に戻ってしまいそうだ。

⑦ 曲がったら、水にぬらした雑巾で冷やしておいた。

⑧ 固定するための横棒をノミで削って、掻き手を上下の横棒で挟んで固定しやすくする。

⑨ 手で持つところになる細長くて丸い竹に、固定するための棒を突き刺す穴を二か所あける。

⑩ 最初に下になる固定の棒を穴に指し、全部を組んだ後で上になる横棒を刺して挟み込む。そして横を針金で仮止めしておく。

⑪ 固定するための棒にキリで穴を開け、針金を通すと、ぐるりとまいて本止めをする。



何とかできたが、魔法がないともっと時間がかかりそうだ。

特に竹の厚みを揃えたり、掻き手を曲げるところなんかは、本来は経験や特殊な道具が必要になるのだろう。


「やったー! 熊手の完成でぇーす!」

「ニャ~、できるものなのね。いくつ作るの?」

「熊手が3本、竹箒が2本だったかな」

「ふーん。サミーは珠美狙いニャ」


何を言ってるんだか。サミーは10歳も年下だし。

ミーニャの世迷いごとなど放っておいて、珠美は牧場で注文を受けたものを、全部作っておいた。

最初の一本目は手探りだったので時間がかかったが、後の2本は楽に作ることが出来た。

竹箒の方は夢中になって作業しているうちに、5本も作ってしまった。

うーん、これはもう職人芸だね。


仕事としての作業が終わった後は、純粋に趣味の時間だ。


切ってきたリョウブの枝から、作業着のボタンを切り出さなくてはならない。

ただ、珠美には魔法があるので、想像力と集中力さえあれば、簡単に製作することができる。


「まずは『木材乾燥』ね。【キカラ スイブン ヌキマショウ】! おー、すぐに軽くなった。次は『抽出』か。【デテコイ デテコイ】!」


珠美が『抽出』魔法の呪文を唱えると、木の枝からボタンの形をした丸い球がポンポン音を立てて飛び出してきて、見る間に作業台の上がボタンの山になった。


これを木目が生きるように『成形』魔法で形を整えていく。

そして『研磨』魔法で綺麗に磨き上げ、最後に『防虫』魔法をかければ出来上がりだ。


「うわぁ、いっぱいできたな」


つやつやと輝くリョウブのボタンは、美しい宝石のようだった。

珠美がほれぼれと見ていると、ミーニャが呆れて珠美に言った。


「こんなにたくさんボタンばっかり作って、どーするんニャ? 他のものも作ればよかったのに」

「あ……そういえばそうだね。でもうちで使わないものは売れるよ、きっと」

「珠美らしいニャ~」


こちらに来て10日近く経っているので、どうもミーニャには珠美のいいかげんな性格がバレてきているみたいだ。

ボタンは竹の筒にまとめて入れて、他の製品も一緒に収納倉庫に保管しておくことにした。



散らかった作業台を掃除して、集めた木くずを炊事場の薪の側に持って行ったところで、そのまま夕食を作ることにする。


ご飯を炊きつけておいて、隣のクドでおかずを作る。

昼に多めにアク抜きしておいたフキを油で炒めて、甘味噌で味をつけた。

塩ゆでにしたニンジンとジャガイモのほとりに、滝の水場で採ってきたクレソンをのせると、まるでレストランの本格的なディナープレートみたいだ。

このお皿のメインはイノブタのステーキなんだよね。

タイムとローズマリーを使って、臭み消しと香りづけをした肉をフライパンでじっくりと焼いていく。こんがりと焼けたステーキをお皿に乗せて休ませているうちに、上にかけるソースを作る。

豚から出た油に酒、ソース、醤油、塩コショウで味付けて、グレービーソースにするのだが、ここへ少し小麦粉をふれば、とろみがつく。


雨が降り続いていて、まだ夕方なのに暗くなってきたため、できた料理はいつものガーデンテーブルではなく、家に持って入って食べることにした。

こんな時にも『新鮮適温収納・倉庫』と『防雨・傘』が大活躍だ。


「ごちそうだね!」


ペロルも今日は家の台所で寝る予定だ。

雨で小川があふれ出して、犬小屋が浸かってしまうことはないだろうが、一応の用心だ。


ペロルの言う通り、テーブルの上にはこの世界に来てから食べていた野草料理とは全く違う料理があった。

肉の中で油が落ち着いてきたときを狙って、ステーキの上にジュッとグレービーソースをかける。

するとお腹を刺激するいい匂いが部屋中に広がった。

珠美は湧き出してきた(つば)をゴクンと飲み込むと、おもむろにナイフで切った肉を、フォークで一切れ口の中に入れた。するとハーブの香りとイノブタの甘い油が舌の上でダンスを踊り出した。


「美味しい~」


ああ、生きてて良かった。


「珠美、泣いてるの?」

「ゔん。おいじいのぉー」

「この単純なところが、珠美の強みなのかもニャ~」


ミーニャに何と言われようとも、食べることが大好きな珠美にはいっこうに(こた)えない。

美味しいは、正義だよね。


さっき珠美が夕食を作っている時に、林の中で食事をしてきたはずのミーニャとペロルは、泣きながら食事をする珠美を見ているうちにまたお腹が空いたらしく、結局、三人でイノブタ肉を楽しむことになった。


イノブタの突進効果かもしれないが、この後、作った作業着の上着は、あっという間にできあがった。

ボタンホールを切って、かがる時だけは慎重にしたものの、胸の切り返しや背中のヘムなどはしつけもせず、だいたいの感覚でピン止めしたたけで縫っていくことができた。

最後に今日、作ったばかりの光沢のある木のボタンをつけると、作業着とは思えないくらい素敵な普段着が完成した。


惜しむらくは、上着とズボンが両方とも水色のチェックということだ。

どちらかを無地の紺色にでもすると、色合いがスッキリするのだが、お金の持ち合わせが少なかったのでこればかりは仕方がない。

何かを売ってまた(もう)かりでもしたら、コーディネートを考えていくことにしよう。


できたばかりの作業着を寝室の衣装棚に畳んで置いた時に、珠美はまた足りないものに気づいた。

ハンガーが欲しいな。

今は釘にそのまま服をひっかけている。これを続けていると服が型崩れするだろう。

鉄と銅を合成したあの針金を使ってみようかな?


ミーニャがむにゃむにゃと寝言を言っているのを聞きながら、珠美はベッドの中で、明日作るもののことを楽しく想像していた。

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