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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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まずは食事

一緒に暮らしていくメンバーも揃ったし、家のこともだいたいはわかった。


「よっし、次は魔術書を読もう!」


珠美がそう宣言すると、呆れた顔をしたミーニャに注意された。


「まずは食事のことでしょ。珠美が暮らしていた地球とは違って、読書の合間に冷凍スパゲティーをチンして食べるなんていうことはできニャいのよ。ここの世界の人たちは、基本の食材や調味料以外はみんな手作りしているニャ」


そうか……そういえば台所のパントリー棚にあるもので、食事を作らなくちゃいけないんだな。

まずは食事のことね。


「この家に来る途中の川土手につくしが生えてたけど『つくしの卵とじ』はどうかしら?」


つくしは大好物なのよね。

それにいかにも大自然の中の農場で食べる、春の食事って感じ。


「今日、珠美が現れるとは思ってニャかったから、卵は捕りに行ってニャいなぁ。他の献立はできないの?」


「卵を捕りに?! そういえば村のお店が遠いんだったわね。卵や牛乳、それに生鮮食品はどうしたらいいの?」


「卵は西の原っぱにココットの群れがいるから、そこからちょうだいすることにニャるわね。牛乳ってムーの乳のことかしら? 村はずれでサミーという男が牧場をやってるから、そこに買いに行くことにニャるわ。魚はたくさん川にいるじゃニャい。肉になる獣も林の奥にたくさんいるわよ。捕り放題だと思うけど」


うわぁ、これは完璧に昔話にでてくるような生活になりそう。

おじいさんは山で芝刈りをしつつ獣を狩って、おばあさんは川で洗濯をしながら桃というか、魚や野草を探さなきゃならないのね。


これを農場の仕事をしながら一人でやるのか……

確かにミーニャの言うように、まずは食べる物のメドをつけておかないと飢えてしまうな。


それに魔法の助けを借りないと、生活が楽になりそうもない感じがする。


よし、今日のところは簡単で栄養のつきそうなものを作るしかない。


「それじゃあ具だくさんの味噌汁と、ご飯を作ることにするわ」


「ふんふん、いい考えニャ。裏の小屋のそばの差しかけ屋根のところに、お釜とクドがあるからご飯が炊けるニャ」


お米を二合(ます)に入れて、野菜の入ったカゴも持って、裏口から外に出ると、林に近い所にミーニャのいうクドがあった。ありがたいことに二つあったので、ご飯と汁物を同時に作ることができそうだ。

側にある小屋の中にはリヤカーと猫車(ねこぐるま)が置いてあって、(くわ)(かま)、それにジョレンなどの農作業の道具も壁にかけてあった。

小屋の向こうには小川が流れていて、川に降りる石段もこしらえてあるようだったので、ここで洗濯などもできそうだ。


クドから少し離れたところに井戸があったので、まずは井戸水を汲むことにする。

井戸の蓋を開けて、三又(みつまた)に渡された木の棒に引っ掛けてあった(おけ)を、手繰り綱が一緒に落ちないように注意しながら井戸の中に落とすと、チャポンという懐かしい音が聞こえてきた。

この汲み取り方は、トトロレベルまでいっていない、もっと昔の方式だ。

珠美が小学生になった頃には、トトロレベルのポンプ式になっていたから、こういう井戸は幼い頃におばあちゃんが使っているのを見たことがあるぐらいだ。


井戸水を汲んだ珠美はお米を洗ってお釜に浸しておき、井戸の側の石畳みの洗い場でジャガイモや大根などの野菜の泥も落とした。

水も余分に運んで、クドの側にある水瓶に汲み足しておいた。


……こうしてみれば水道って、偉大だな。


小さめの(なた)で薪を途中まで削っていく。お人形さんのカールした髪のようになった薪を、空気の通り道ができるように組んでおく。そして林の中に入ると、小さな枯れ枝や落ち葉を集めてきた。

木くずや枯れ葉に火打石で火をつけて、それをまとめて振り回しながら火種を作って、クドの枯れ枝のそばに放り込む。

やっとのことで薪に火がついた。


……店でマッチを買ってこよう。それとも火魔法を覚えた方が早いかしら?


米を炊いている間に、水瓶から柄杓(ひしゃく)を使ってお鍋に水を入れて、乾燥昆布を浸けておく。

ジャガイモ、ニンジン、大根、カボチャなどの野菜を切り終えた頃には、昆布だしが水にしみ出してきていた。

鍋を火にかけて、まず火が通りにくくて型崩れがしにくいニンジンと大根を入れて煮ていく、その後で残ったジャガイモとカボチャを入れる。

本当は昆布の苦みが出ないうちに引き上げるのが良いのだそうだが、珠美は鍋やおでんの時も柔らかくなった昆布を食べるのが好きなので、このまま野菜と一緒に煮ることにする。


クドの火の調節をして、ここをミーニャに頼むと、珠美はペロルと一緒に川の方へ行くことにした。


「ねえペロル、ノビルが生えている所を知ってる?」


「それならあちこちに生えてるよ。そこの小川の向こう岸にもひと群れあるよ」


「それは便利ね!」


ノビルはネギのような野草なので、汁物の薬味にぴったりだ。

農場でネギが育つまで、野生の草を利用させてもらおう。


神様にもらった水色のワンピースの裾をたくり上げると、珠美は裸足になってバシャバシャと小川を渡り、向こう岸に渡った。

暖かい日だったが、林を抜けてくる小川の水は冷たくて、火照った肌に心地よかった。


川土手でノビルを収穫する時に、ネギのような葉だけではなく丸い小玉ねぎのような球根も一緒に掘り出してくる。

この球根はピリリと辛くて、美味しいのだ。

ついでに川の中で、採ったばかりのノビルをジャブジャブと洗った。

川で食べるものを洗うのって、たぶん50年以上やってないわ。


ノビルを収穫した珠美がミーニャのところに帰ってくると、米を炊いていたお釜からは良い匂いがしていたし、味噌汁にする具はよく煮えていた。


(かめ)の水でもう一度サッと洗ったノビルを切って鍋に加えると、味噌をといて砂糖をほんの一つまみ入れた。これで具だくさん味噌汁の完成だ。

味をきいてみると、いつものお味噌汁ができている。


炊き上がったご飯を蒸らして、家から持ってきた茶碗によそうと、ホカホカと米粒の立った美味しそうな直火炊きのご飯ができあがった。


天気がいいので、クドのほとりの薪束に腰かけて、ここで昼食にすることにする。

林の梢を渡る風の音や、時折聞こえてくる小鳥の声が気持ちいい。


「美味しい!」


味噌汁を飲んで、ご飯を一口食べた珠美はあまりの美味しさに驚いた。

素朴な料理だが、手間暇かけて手作りしたご飯は特別なスパイスが効いているかのようだ。

虫を追いかけて遊んでいる、ミーニャとペロルの微笑ましい姿を見ながら、珠美はゆっくりと異世界で初めての昼食を楽しんだのだった。

※ リヤカー・・・横に二つ車輪がある、四角い荷台の荷車。人が引っ張って動かす。

猫車・・・一輪車、手押し車とも呼ばれている。人が押して動かす荷車。

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