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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
29/77

慈雨

朝、起きた時は曇り空だった。


これだけ厚い雲がかかっていると、ミーニャに言われるまでもなく、昼前には雨が降りそうな気がする。

雨の前に、竹林に行っておいた方がいいな。


珠美は水やりをするのはやめて、畑の見回りだけしておいた。

四日前に蒔いた大根やニンジンが、土を持ち上げて、芽を出そうとしているみたいだ。

ここで雨が降ったら、ちょうどいいお湿りになるだろう。



朝ご飯は、久しぶりに洋食を食べることにした。


ココットのドラムの部位は骨がついているので、スープの出汁にする。ニンジンと玉ねぎ、ジャガイモを入れて煮込んでいき、臭み消しにローリエの葉とまだ小さいパセリの葉を入れた。味付けは塩コショウでシンプルにコンソメスープを味わうことにする。

ココットの肉は、ほろりと骨から外れて、淡白な味の中にも滋養を感じさせてくれた。ジャガイモやニンジンなどの、スープでは定番の野菜を食べていると、ここにカレー粉があったらなぁと思ってしまう。

まだ香辛料は揃えてないんだよねぇ。


玉ねぎとチャイブを刻んで入れたオムレツには、たっぷりとケチャップをかける。

ケチャップはかなり日本のものと味が似ていた。

これは嬉しいな。

ここでパンといきたいところだが、まだ果物を手に入れてないので、パン種を発酵させるための酵母を作っていない。

今日のところはご飯を食べることにしよう。


ご飯に牛乳は合わないので、ムー乳は食後にいただいた。

そういえば義母の父親は、ご飯に砂糖と牛乳をかけて食べていたと聞いたことがある。おじいさんは頭がよくて大きな店の番頭さんをしていたそうだけど、矍鑠(かくしゃく)としたちょっと頑固な人だったなぁ。そんな真面目な人が、牛乳かけご飯なんていう変わった食事をしていたのかと思うと、ちょっと可愛らしいと思ってしまう。



洗濯は、パンツだけにしておいた。

雨のことも考えて、家の中に干すことにする。

この世界に梅雨があるのかどうか知らないけど、長雨になった時のことを考えて、室内に物干し場を作っておいた方がいいかもしれない。

今日のところは、竹を使って温泉宿にあるようなタオル掛けを作ってみた。


「ねぇ珠美、今日の魔法は何にするニャ?」


寝室の窓際に置いたタオル掛けに、パンツを干し終えた珠美は、ミーニャの声に振り向いた。


「おー、そういえばまだだったね。ちょっと考えたんだけど、今日は作業着の上着を作る予定だから、ボタンがいるでしょ? そんなのが作れる魔法ってないのかな?」

「ボタンを作るの? フニャ~、珠美は面白いことを考えるニャ。うーん『抽出』『成形』『研磨』、もしかして木の中に虫の卵が残っているかもしれニャいから『防虫』なんかも必要かも」


首をかしげて考えながら話しているミーニャを見ながら、珠美も同じように考えていた。

そう言えば昔のボタンは臭かった。特に動物の骨や甲羅などから作られたものは、独特の香りがしていたことを覚えている。

昨日、ミーニャが言っていた『消臭』も取っておいた方がいいのかも。

それに切り出してきた木を、(ゆが)まないように乾燥させる魔法もあったら便利だな。


魔術書を確認してみたら、Dランクの『消臭』以外は低ランクの魔法だったので、大量習得が可能だった。

『乾燥』は『木材乾燥』に限定すると、習得できるそうだ。

『着火』の上位魔法が『ファイヤー』のようなものなんだろう。


『消臭』は今日は諦めて、他の魔法を大量習得することにした。


『抽出』・・・【デテコイ デテコイ】

『成形』・・・【ノゾミノ カタチ ポン】

『研磨』・・・【スッテ コスッテ ミガキアゲ】

『防虫』・・・【ダメヨ ムシハ コナイデネ】

『木材乾燥』・・・【キカラ スイブン ヌキマショウ】


5つも魔法を覚えたら、Dランクといえどもさすがに身体がふらついた。

今度はもっと計画的に魔法を習得することにしよう。



竹林には手ぶらで出かけた。収納魔法の容量が巨大になったので、何でも入れることができる。

ペロルと追いかけっこをしながら走っていくと、あっという間に竹林に着いてしまった。


竹林ではザワザワと葉擦れの音がしていた。

風が強くなってきたみたいだな。早いとこ、作業をしてしまわないと。


珠美は切り倒した竹の切り株に、硫安をひとつまみずつ置いていき、お礼肥えをしておくことにした。

タケノコを掘った後にも硫安を入れておいた。

今日は孟宗竹のタケノコを30個ほど掘り出した。

前回、掘りに来た時には雨の後だったので「雨後の竹の子」よろしく、数が採れたのかもしれない。

前よりも20個少なかったが、雨も降りそうだし無理はしないことにした。


以前、切り倒したままにしておいた古い竹も一部は『粉砕』魔法で砕いて、竹林の土に還元しておく。残ったものは竹細工の材料や燃料にするために『新鮮適温収納・倉庫』にしまっていった。

最後の竹を収納していたら、顔にポツポツと雨粒が落ちてきた。


ヤバい、降ってきた!


珠美は『防雨・傘』魔法を発動して竹林の外に出ると、すぐ近くの林の木に次々と『鑑定・植物』を使っていく。

ボタンに使える木を探さなければならない。


その中でヒットしたのが、椿(ツバキ)の木に似ている(なめ)らかな木肌を持つという説明がでてきた木だ。

珠美としてはできたら椿のようにキメが細かい、目がつんだ材木がいいなと思っていた。

これね、ボタンの木は、これに決定!


令法(リョウブ)

リョウブ科 落葉広葉樹


肌目が緻密(ちみつ)で、木肌は(なめ)らかで樹皮を()ぐとまだら模様がある。材は強靭で硬く暴れにくい。加工しやすく仕上がりが綺麗で光沢が出る。匂いをほとんど感じない。

樹皮はツバキ、サルスベリ、ヒメシャラなどと同じような雰囲気がある。

見分けるポイントは葉の鋸歯(のこぎりば)である。


硬いのならボタンに最適かも。

いい木を選んだな。


珠美はリョウブの木の枝を『ウィンドカッター』で切り落として、お腹の収納にしまった。


林から出てくると、雨が本格的に降り始めている。

びしょ濡れになったペロルが、珠美の『傘』の中に駆けこんできた。


「僕を置いてくなんて、(ひど)いよ~」

「ごめん。雨が本降りにならないうちに、木を伐っておきたかったのよ」

「それで、いい木があったの?」

「うん。リョウブの木にした。硬いんだって」

「へぇ~ 木槌(きづち)にもなりそうだね」

「ペロル、ナイスアイデア! そうだね、木槌が必要な時は、またここにこよう」



昼前から降り出した雨は、乾いていた畑や田んぼにしみわたり、木や草の根を潤していった。

珠美の畑では、種から発芽した双葉が、硬い土を割って顔をのぞかせようとしていた。

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