ステイタス
「ステイタスオープン」
珠美が声に出して言った途端に、目の前の空中に文字列がズラズラと現れてきた。
まるで3Dの投影技術を使っているみたいだ。
名前 (日色) 珠美
年齢 15歳
種族 異世界人
ギフト 製作
(日常生活に必要なスキル、農業従事者に必要なスキル、手作りができるスキル)
レベル 1
体力 Fランク
魔力 Fランク
魔力?!
この世界には、魔法があるの?!
魔法といえばサリーちゃんよね。奥様になった魔女もいるし、レアなところでいうと遠い星から流れ星に乗ってやってきたコメットさんもいる。
あんな魔法が自分にも使えるのだろうか?
魔法の杖は持っていないし、鼻を動かすことはできないから、どうやって魔法を使えばいいのだろう?
「ふんふん、やっぱりレベル1からだニャ~ 製作のギフトか……便利そうだニャ」
ミーニャにはこのステイタスとやらが見えるんだ。
そうだ、ミーニャに聞けばいいのね。
「ねぇ、ミーニャ、魔法ってどうやって使うの?」
「やっぱり、それが気になるニャ。最初は魔術書の呪文を覚えて、繰り返して使ってみることが大事ニャ。何度も使って慣れてくると、無詠唱で魔法が使えるようにニャるけどね」
「ほぉ~う、なんかワクワクしてくるね」
ミーニャが言うには、魔術書は家の中にあるらしい。
それを聞いて、珠美は早速、中を見せてもらうことにした。
玄関を入ると、すぐに台所になっているようで、木で出来たダイニングテーブルと、丸椅子が四脚あった。
部屋は素朴な作りで、飾りなども何もない。
テーブルのすぐそばに料理用のストーブがあったので、ここで調理もするのだろう。
南に向いている窓からは、春の日差しが差し込んでいた。
カーテンもないわ。
窓の横には簡素な木箱が置いてあり、その上に魔術書らしき厚みのある本が一冊だけ置いてあった。
おー、これに魔法の呪文が書いてあるのか!
西側にあるのが寝室に入るドアで、北側にあるドアからは差し掛け小屋に出られるらしい。そこに薪や農作業用の長靴などが置いてあるそうだ。
ふぅん、こっちが裏口になるのね。
え?
でもこれだけなの?
ミーニャに家を見せてもらったけれど、どうもこれだけのスペースのようだ。
……必要最小限の家だね、これは。
一人暮らしだから何とかなりそうだけど、なんか殺風景だなぁ~
調理器具や在庫の野菜、調味料なども、基本の物しか揃っていなかった。
少しずつ手作りのものを増やして、家を居心地よくしていきたいな。
あ、それで神様は製作のギフトとやらをプレゼントしてくれたのね。
「ここの近くに買い物ができるような村はあるの?」
珠美が食糧の在庫を詳しく調べながら聞くと、ミーニャは珠美の方を見て気の毒そうな顔をした。
「人間の足で歩くと村まで一時間はかかるニャ。調味料とか軽いものだったら、ペロルにメモを持たせて買ってきてもらったほうがいいかも」
「そうか、そうなると早めに家の設備や食料の在庫を確認した方がいいわね」
ちなみにこの世界でも、一日は24時間らしい。月や年もだいたい地球と同じで、季節の推移も日本の暖かい地方ぐらいの気温を考えておけばよいそうだ。
お金というものは使われてなくて、収支決算は住民用カードを使うと言われた。
これは進んでる。
金銭の単位はドドルで、ほぼ日本円と相場が同じくらいだろうということだった。
「このカードをなくさニャいでね。認証登録はここの農場の持ち主になっていて、借金も貯蓄も支払いや売り上げも全部このカードで精算できるから」
ミーニャが渡してくれたグリーンのカードは、どうやらとても便利なもののようだ。
珠美は頷いて、カードを大切に服のポケットに入れると、今度は寝室を調べに行った。
寝室には南向きに窓が一つあって、西側の壁によせて木のベッドが置いてあった。
寝具は枕と毛布と掛布団らしい。まだ肌寒い日も多いからか、マットレスにかけられていたシーツは冬用のものだった。
ベッドの足元側の西北の壁には、窓もないのにベージュのカーテンがつるしてある。
カーテンをめくってみると、壁に太い釘が三本打ち付けられていて、そこに綿素材のストンとした飾りのないネグリジェと、作業着と、麦わら帽子が掛けてあった。
「やっぱり着るものも最低限ね。できたら合い物のシーツが欲しいな。雨が降ったり汚れた時のことも考えて、下着や普段着の替えも欲しいし……」
買うものがたくさんありそうだ。
珠美はもらったカードの残高が気になってきた。
台所に戻ってそのことをミーニャに聞くと、首をかしげて考え込んでしまった。
「カードの残高のことは聞いてないニャぁ。たぶん10万ドドルぐらいはあるんじゃニャい?」
「相場が変わらないんだから、10万円か。娘の大学の仕送りは7万円だったから、一か月ぐらいはなんとか生活できそうね」
「ニャ? 珠美はそんなに若いのに学校に通うような娘さんがいるのかニャ?」
あ、しまった。
「えへへへ、実はこんな見た目なんだけど、中身は60歳近いのよ」
珠美が神様と会ったいきさつを話すと、ミーニャは目をむいて驚いていた。
「貴重な若返りのポイントを使わなくちゃいけニャかったのか……農業を選ぶ若者が減ってきてるんだニャぁ」
ミーニャと二人でしみじみと世の移り変わりを嘆いていると、玄関の扉を引っ搔く音がして、可愛らしい子どもの声が聞こえてきた。
「帰ったよ、ミーニャ! 異常はなかったから、小屋のほうにいるね!」
「お帰りペロル、ちょっと待ちニャさい。農場をする人がやっと来たから、紹介するニャ」
ミーニャに目で合図されて、珠美が玄関の扉を開けると、そこにはコロンとした可愛らしい柴犬の子犬がお座りをしていた。
うわぁ、モフモフだ!
珠美の満面の笑顔に、子犬のペロルはちょっと怯えているようだったが、男の子らしく我慢して座っていた。
なるほどね、ミーニャが小さいものならペロルに買い物を頼めると言ったはずだわ。
珠美がペロルに手の匂いを嗅がせて、首の後ろを掻いてやると、ペロルはホッとした顔をして尻尾を振った。
「珠美っていうの、よろしくね、ペロル!」
「こちらこそ、ええっと、よろしくお願いします」
ペロルと目を合わせた時に、なにかしっかりとした絆のようなものが結ばれたことを感じた珠美だった。