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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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林の宝

林の中に入ると、すぐに落ち葉が堆積(たいせき)している場所があって、上の乾いた葉を取り除いてみると下はしっとりと黒く湿った上質の腐葉土になっていた。


ほっほっほ、すごーい。

ホームセンターに行かなくても、腐葉土のお店があるみたいね。


珠美は深いカゴに腐葉土を山盛り詰め込むと、林の樹々の下をズルズル引っ張って、猫車の所まで重たいカゴを運んでいった。

二つのカゴがいっぱいになると、落ちないように猫車の頭の所から縄を逆V字型に渡して固定して、両手で持つ取っ手のところにギュッと縛り付ける。これをしておかないと、猫車というのは一輪車なので、重たい荷物を積むとすぐにふらふらしてひっくり返ってしまう。

こういう時にリヤカーを使わないのは、畝の間を軽々と抜けることができる猫車の機動性があるからだ。


子どもの頃から猫車を使って家の手伝いをしていた経験があるのは、地元では珠美たちが最後の世代になるかもしれない。

嫁に来た珠美が猫車を押すことができるのを見て、お義父さんが「使える嫁がきた」と喜んでくれていたことをよく覚えている。



こうして腐葉土を満載したカゴを乗せた猫車を押して畑の畝まで運んでいく。そして畝にまんべんなく腐葉土を()く。それを(くわ)で土に混ぜ込む。この一連の作業をしばらく繰り返していた。



腐葉土を求めて林を奥へと進んで行くと、そこにはもっとたくさんの宝があることに気づいた。


「わっ! こんなところに山椒(さんしょう)の木があるじゃない!」


山椒はよくお義母さんが料理に使っていた。葉をパチンと手で叩いて香りをたたせると、お吸い物に入れたり、魚を煮る時の臭み消しにしていたことを思い出す。

お義母さんが作った、山椒とタケノコの木の芽和えは美味しかったなぁ。

珠美は汚れた手を作業着のズボンでこすると、トゲに注意しながら山椒の柔らかい新芽を摘んで、収納・買い物かごに入れた。


「【モッテ アルイテ ランララン】! 本当にランラランだわね」


次に見つけたのは桑の木だ。

若芽が綺麗に出そろっている。もうすぐあの変わった花がついて、初夏には実をつけることだろう。

珠美は園芸店でマルベリーの鉢を買ってきた後で、これが桑の木だということに気づいたという経験がある。昔はあちこちの山に自生していたのにねぇ。

ここも覚えておいて、初夏には実を取りに来なくちゃね。


それからウドの花芽があった。

これもほろ苦くて美味しいし、塩漬けにしておくと長く持つ。


「ごめんね~ ちょっとくださいな」


木が坊主にならないように気を使いながら花芽を摘んで、収納・買い物かごに入れていく。


その後で見つけたのが、林の木々がまばらになって小さな野原が出現したところに咲いていた白い花だ。


「ちょっとちょっと、ペロル!」


興奮して、思わずペロルを呼んでしまった。


「なぁにぃ?」


「これって、ワイルドストロベリーの花?」


ペロルは珠美が指さしている茂みを見ると「そうだよ」と頷いた。


「ミーニャがもうすぐ野イチゴが()るって言ってたよ」


やっぱりね。ヘビイチゴなんかより花が大きいし、こんもりとした(やぶ)になってるもの。

これはイチゴジャムができるじゃない。


ブンブン音を立てて花の間を飛びまわっている蜂を見ながら、珠美はニンマリとしたのだった。

ここの林って、自然の宝庫じゃない。

野草が固くなって食べられなくなっても、探せば食料はありそうね。



他の食料を確保していたこともあって、最後の腐葉土を畑に(すき)こんだ時には、夕暮れが近づいていた。


「あー、疲れた。さすがに今日はよく動いたわ~」


空っぽのカゴと、鍬を乗せた猫車を押して、珠美は家に帰って来た。


「珠美は昨日もよく歩いたわ~って言ってたよ」


ペロルにそんなことを言われたが、珠美としてはここに来てからずっと、体力を限界まで使う日々だ。

15歳の身体になっていなければ、こんなハードな生活はできていなかっただろう。



農具の汚れを落として小屋の中に片付けると、珠美は井戸水でしっかりと手や顔の汚れを落とした。そして干していた洗濯物を家の中に入れる時に、一緒に水の入ったバケツを持って家に入った。

今日は疲れたので、身体を水拭きして着替えることにしよう。


「ただいま~」


「お帰りニャ。あらま、一日でよく汚れたわね」


「今日はハードだったわ。おかげで予定してたハーブガーデンを作るとこまでいかなかった」


ちょっと残念そうな顔をしている珠美に、ミーニャは気にするなと言った。


「できるだけのことしかできないニャ。明日は明日の風が吹く。今日は苗に水をやっておいて、明日植えればいいじゃニャい」


「うん、そうだね。じゃあ着替えて、苗に水をやって、夕食を作りますか」



夕食は、ジャガイモと山椒の木の芽のお吸い物、昼に作っておいたカボチャの煮物、ウドの花芽とつくしの油漬けを炒めた物の三品とお冷ご飯だった。

やっぱり下ごしらえをしたものをストックしておくと便利だな。


外で、桃色にたなびく夕焼け雲を見ながらのんびりと食事をしていると、しだいに薄暗くなって完全に日が沈んでしまった。

でも今日からは、これが使えるのよね。


「【アカルイ ミエル ライトイト】!」


日が沈む直前にわら半紙を読み返して覚えていた『光・ライト』の呪文を唱えると、珠美の頭の上に電球のような光の球が浮かび上がった。


ニッシッシ、これで夜がゆっくり過ごせるわ。


夕食の後片付けをする時も、珠美が家に入ってからも、光の球はずっと珠美の後をついて来てくれた。

これで今夜は大切な用事をすることができる。


珠美は台所のテーブルに買ってきた布を出して、これも買ってきた裁縫道具を横に置いた。


「さあ、パンツを作りましょう!」


実は朝、下着を洗濯して干してからこっち、珠美は一日中、ノーパンで過ごしていた。

今まではこんな恥ずかしいことをしたことがないが、人里離れた異世界にいることと、珠美の中身がおばあちゃんだったことで、この暴挙は許されるだろう。

作業着はシャツとズボンだったのでなんとかなったが、パンツの替えぐらいはないと、女子として終わっている。


腰の周りにゆったりと布を巻いて、必要な丈に鉛筆で印をつけていく。股の間は長方形の布を渡して、身幅を取ることにした。

針に糸を通す時に、珠美は若返りの恩恵をひしひしと感じた。

針の目がよく見える! これは針仕事も苦にならないわね。


ゴムの値段が高かったので、腰は(ひも)で結ぶことにした。腰にあたるところを三つ折りにして縫い、その真ん中のおへその辺りにボタンホールを空けて、綺麗に周りをかがった。次に斜めにカットした布を繋げてバイヤステープを作る。通し針の代わりに細い枝を使って、それに結び付けたバイヤステープを腰に通すと、腰ひもの完成だ。

バイヤステープなので、少しは紐に伸縮性があるだろう。


トランクス型のパンツが完成する頃になると、なんだか身体が怠くなってきた。


「なんか、疲れてきたみたい」


するとテーブルの下で丸くなってウトウトしていたミーニャが、珠美の声で目を覚まし、眠そうな声で教えてくれた。


「ずっと光を灯してるから、さすがに魔力がなくなってきたのよ。今日はもう寝るニャ」


そうか、魔力も使えばなくなるのね。


珠美は、出来上がったパンツを寝室に持って入ったのだが、置くところがないのでベッドヘッドにパンツを引っ掛けて寝ることにした。

タンスを作る暇はないけれど、衣装棚くらいは作らないといけないな。


まだカーテンもない寝室の窓からは、やわらかな星の光が射しこんでいた。

※ 猫車・・・一輪車、手押し車ともいわれている、人が押して動かす荷車。

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