23.エピローグ
目を覚ますと、僕は真っ白な世界にいた。
そこにあったのは真っ直ぐに、何もないただの水平線。
昔、よく見た光景だった。
僕はそっと後ろを振り返った。
そこにはやはり、ヌシと桜華さんがいた。
久しぶりに、この夢を見ている気がする。
「蓮くん、元気にしてる?」
「うん」
夢だってわかっているのに、まるで本物の彼女と話しているようだった。
「翔悟くん達とは上手くやってる?」
「うん」
「今、蓮くんは幸せ?」
「うん」
「私のこと、ちゃんと覚えてる?」
「もちろんだよ」
会話をしている内に気づいたことがあった。
ヌシにはもう、桜の花びらがついてはいなかった。
これが何を意味するのか、すぐにわかった。
きっと、これが最後なのだろう。多分もう、夢ですら彼女と会うことができない。
ならば、言わなければならないことがある。
「じゃあね、桜華さん」
「うん。バイバイ」
桜華さんは大きく手を振った。また、満面の笑みで。
桜華さんの体とヌシは光を帯び、徐々に薄くなっていった。
そして、パッと光の粒になった。
美しい、その情景には、その言葉しか見当たらなかった。
今度こそ、彼女とお別れができた。
薄れゆく意識の中で、彼女との今までの思い出が走馬灯の様に蘇った。
悲しかったこと、苛立ったこと、嫌だったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと。そして、幸せだったこと。
夢なのに、涙が出そうだった。
意識が遠のいていくのが、自分でもわかった。
こうして、僕はまた、戻るのだろう。
桜華さんがいない。でも僕が幸せにならなければならない、そんな世界に。
読んでいただきありがとうございます。
『春の軌跡はあなたとともに』これにて完結です。今までお付き合いしていただきありがとうございました。
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